300年続く老舗企業に学ぶ、ブランドの創造と変革

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300年続く老舗企業に学ぶ、ブランドの創造と変革

 先日、用事があり日本橋高島屋に足を運ぶと、同ビル催事会場にて「美食の京都店」が開催されていた。聞けば、京都の和菓子を中心に「食の名物」販売会をやっているとか。色彩鮮やかに並べられた食べ物たちに心惹かれ、ふらりと同展に立ち寄った。

所狭しに並べられた販売店舗からは、各社各様の食のにおいが漂ってくるようだった。目移りするほどたくさんの和菓子たち。まじまじと観察しながら通路を歩いていると、その中の1つに八ッ橋の元祖である「聖護院の八ッ橋」があった。正式名称は、聖護院八ッ橋総本店(しょうごいんやつはしそうほんてん)。京都を代表する、老舗の和菓子メーカーだ。筆者は足を止め、同社が販売する八ッ橋を手に取った。

八ッ橋を食べたことがない人はいないだろう。せんべいのような食感の堅焼き八ッ橋や、生地を焼かない「生八つ橋」など様々な種類があり、その知名度と人気から、京都を代表する和菓子と言っても過言ではない。今では多くの製造元が多様な商品を販売しているが、その発祥は聖護院にある。

八ッ橋の歴史は古い。はじめて世の中に登場したのは1689年だと言われ、その年に聖護院の創業者が開いた茶店で提供された菓子が元だとか。
その後、明治に入り京都駅で販売され認知度が向上。年月の経過とともに顧客の志向に合わせた様々な八ッ橋が開発され、京都土産の代名詞となっていった。

聖護院の創業は八ッ橋の誕生年と同年であるから、その歴史はゆうに300年以上に及ぶ。長寿企業が多い京都の中でも老舗中の老舗なのだが、実は同時に、業界の最先端を走り続けるリーディングカンパニーでもある。歴史ある和菓子を扱いながらも、新しい時代を創ろうとする企業姿勢を持ち併せているのが聖護院なのだ。

例えば今年4月、人気マンガ『名探偵コナン』と自社の八ッ橋をコラボレーションした商品を販売したことが話題となった。同マンガの人気キャラクター3人のイメージに合わせオリジナル商品を開発。実は同社は3年前にも『魔法少女まどか☆マギカ』という人気アニメとコラボレートし、アニメファンの注目を集めたことがある。和菓子の型にとらわれない独創的な販売手法を積極的に実現しているのだ。

それだけではない。5年前の2011年には、創作菓子を提供する店舗「nikiniki(ニキニキ)」を立ち上げた。同店舗は、「八ッ橋をもっと身近に感じてもらう」ことを目的に路面店として開業。コーヒースタンドならぬ「八ッ橋スタンド」のような雰囲気を持つ独特な店舗である。

それは単なる販売店ではない。生八ッ橋をもとにした店オリジナルの和菓子スイーツを提供することで、新ブランドの構築と差別化を実現。また販売だけでなく、客自らが皮と餡を選び菓子作りに参加できるといった一風変わった体験も提供しており、若い女性を中心に人気を博しているそうだ。

その偉大な歴史に驕ることなく、業界を力強く牽引し、最先端を走り続ける聖護院。創業から300年が経ちゆるぎないブランドを確立した同社だが、その成功のカギは理念、人材育成、顧客との関係性作りという3つのバランスにあると、専務取締役の鈴鹿氏はメディアで話す。

同社の企業理念には「味の伝統」という言葉がある。これは裏を返せば、おいしさを変えずとも商品の「見た目」や「提供方法」を時代に合わせて変化させるということ。聖護院が現在まで生き残ることができたのは、味を継承しつつも、時代に合わせた商品を作り続けてきたからだ。人々の生活スタイルが刻々と変化する中で、アイデンティティを見失わず、時代に合った価値を提供し続けようとする挑戦のDNAがそこにはある。

 また理念だけでなく、社員育成も重要視しているのが特徴だ。京都で接客をするにあたって、地元の文化や知識を蓄えることが重要だと同社は考える。そのため、京都商工会議所主催の「京都・観光文化検定」取得を目的に、会社主催の勉強会を毎年開催している。それだけでない。製造スタッフに関しては衛生士の資格取得や専門学校への入学など、いわゆる「学び」の後押しも実施している。

 これらの理念、人材育成を土台に、顧客とのコミュニケーションにも哲学を持つ。国内だけでなく外国人観光客の獲得も視野に入れているが、そのための商品開発はあえてしない。今までと同様、京都らしさ、日本らしさを重視したものを提供し、接客に英語を用いるなど顧客対応面のみを柔軟に変化させていく。氏はあるメディアで「例えば日本人が海外に旅行した時に、日本語で書かれた日本人向けのお土産を買うだろうか。その土地らしいものを買うのではないか」と話していたが、筆者もその通りだと感じる。八ッ橋の「らしさ」そのままに、日本流の「おもてなし」をすることが、顧客満足度の向上につながるだろう。

 創業から300年以上続く、老舗企業の哲学。日本橋高島屋で手に取った八ッ橋には、長い歴史と企業の想いが詰め込まれていた。
かといって、同社はその歴史にあぐらをかくことはない。鈴鹿氏はあらゆるメディアに登場し自社の戦略を語っているが、氏が「nikiniki」の事業開発やアニメとのコラボレートを推し進めたそうだ。これにより、八ッ橋が若い世代にとってより身近なものになったのは、疑いようのない事実だろう。その歴史の重みに躊躇することなく、改革を促進する強気なその姿勢に保守的な思考は見られない。リスクを背負いながらも行った挑戦は、結局は独自のポジションを確立することに繋がると、聖護院は教えてくれる。

 組織が長く生き残るにはどうすればいいのだろう。企業の課題、そして発展の軌跡は様々だが、同社から学べることは多くあるのではないだろうか。10年後、30年後、50年後の成長を見据え、今の選択を確かなものにしていきたい。


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