ブランド戦略に「知財」を活かす

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ブランド戦略に「知財」を活かす





 今年3月、女性向けバッグやジュエリーの企画・製造・販売を手掛けているサマンサタバサがある商標を登録出願した。それは『サマンサタバタ』。自社ブランドと1文字違いの商標だ。本件に関し弁理士による解説記事がYahoo!ニュースにも取り上げられたので、ご存知の方もいるかもしれない。

 出願の狙いは「パロディ商品の防止」という見方が濃厚だ。本日6月8日時点ではまだ出願が認められていないので権利を行使できないが、もし認められた場合、本ネーミングと同一の商標、もしくは類似した商品の販売ができなくなる可能性が高い。また今後、同社は『サマンサタバタ』に限らず、他の近しい商標でも登録出願することも考えられるだろう。

 『サマンサタバサ』と似た商標で商品を製造・販売する企業は実在し、同社は今までこのような企業を意識し商標出願したことはなかった。しかし今回、ブランド管理に対し方針転換があったのだろう。自社商品の価値をより高めるために判断を重ねた結果だと思われる。

 企業のブランド戦略と、商標をはじめとした知財対策は関係が深い。何か新しい商品やブランドを作り出した際に考えるべき事柄の1つだ。またサマンサタバサのように、ブランドを守るため事前に類似商標を取るケースも多い。例えばカシオ計算機の『G-SHOCK』。販売初期から『A-SHOCK』から『Z-SHOCK』まで、頭文字を変え全てのアルファベットで商標権を出願したことは有名だ。世界観やイメージを大切にしている企業ほど、付け入る隙を与えないよう徹底的な対策を取る傾向にある。


 一部上場企業の多くは知財部を有しており、ブランドの管理には細心の注意を払っている。しかし未上場企業や中堅・中小企業は、商標をはじめとした知財に対して理解が浅かったり、部署を設けるほどリソースを持ち合わせていなかったりするため、対策が「手薄」になることも少なくないのだ。

 しかし、こういった企業ほど知財に関しては積極的な対策を取らなければいけない。なぜなら所有するブランド数が大手より少ないからだ。少なければその分、各ブランドの売上に占める影響は大きくなっていく。1つのブランドが傷つけられてしまえば、経営そのものが傾いてしまうこともあるだろう。どんな企業でも、自社の知財やブランド戦略に関しては真剣に向き合わなければいけないのだ。

 実際に商標権の問題で訴訟にまで至るケースは枚挙にいとまがない。多くの人が知っている「白い恋人」訴訟もその一つだ。
 北海道の土産物において抜群の知名度を誇る同商品は、札幌市にある石屋製菓という企業が作っているが、こちらのパロディとして「面白い恋人」という商品を吉本興業が作った。名前もさることながら、パッケージも似ている。そこで石屋製菓は「面白い恋人は名称、また白を基調に青色や金色を配した箱の図柄が白い恋人と似ている」と主張。賠償金の支払いを求める訴訟を起こした。
 結果的に両社は13年に和解。吉本興業側は賠償金を支払わず、パッケージの図柄を変更した上で今後の販売地域を(原則として)関西6府県に限ると約束をした。

 また商品だけでなく、店名に関しても多くの問題が起こっている。急成長中の焼き鳥チェーン大手『鳥貴族』が、ロゴマークやメニューのよく似た『鳥二郎』経営会社の秀インターワンに対し訴訟を起こしたことは記憶に新しい。実際に顧客が「鳥貴族かと思って入店したら鳥二郎だった」こともあるらしく、鳥貴族側は「長年築き上げてきた信用が傷つけられた」とメディアで述べた。現在は和解したとのことだが、鳥貴族ブランドを揺るがす事態に発展したのは見逃せないだろう。

 知財はこのように商品やサービスの生命線となりうるので「守り」の場面で多用される。しかし、現在では「攻め」に活用する動きもある。効果的に使うことで、ブランドを拡張したり発展させたりすることも可能なのだ。

 その好例が日産自動車である。同社は従来の知的財産部に加え、知財の積極活用を目的とした「IPプロモーション部」を08年に設立した。IPは知的財産を意味する「インテレクチュアル・プロパティー」の略だ。
 こちらの部署は、自社で蓄えた技術特許を他業界に展開し新たな売上をつくろうと画策する。例えば同社が開発した「アラウンドビューモニター(自動車を真上から撮影したような合成映像を作る)技術」は、他社との共同プロジェクトにおいて海底探査ロボットに取り付けられ、深海調査に使われることになった。

 またそれだけでなく「ノウハウ」も大切な知財資源だ。同社で実践された経営改革の知見も、早稲田大学と共同開発したOJTオンライン研修プログラムに組み込まれ販売された。日産はこのようにBtoC市場だけでなく、BtoB市場においても技術に強いというブランドを築いている。

 また一度確立したブランドを横展開するケースも多い。『東京ばな奈「見ぃつけたっ」』もその1つ。
 「東京ばな奈」は東京の土産菓子として人気を誇る。91年に発表された同商品は発売から30年近く経つロングセラーだ。同社はキャラメル味やチョコレート味などの別シリーズも登場させることで、ブランドを統一しながらも飽きられることないよう工夫を重ねる。また10年には『東京ばな奈ツリー』を商標登録。12年に開業した東京スカイツリーに合わせ、商業施設「東京ソラマチ」にウェルカムショップをオープンし、東京のご当地商品として堅実なブランディングを続けている。こちらも商標を活用して成長を重ねている好例と言えるだろう。

 企業が考えるべき知財戦略。それはブランドの存続と発展において不可欠なものだ。またそれは守りに使われるだけでなく、捉え方を変えることで成長の原動力となりうる。使いようによっては、非常に強力な武器となるだろう。

 ひるがえって、自社は適切なブランドマネジメントができているだろうか。現代は技術とともに「アイディア」も資産となる時代だ。ブランドの健全な成長を育むとともに新たな競争資源として活用ができないか、あらためて考えてみたい。
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