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国ごとの消費者行動の差異によるブランディングの違いを理解する

2015/04/20(最終更新日:2021/12/16)

2015年4月から、企業ブランディングの重要ファクターである「色」と「音」が日本でもようやく商標として登録できるようになった。早速500件以上の色と音の登録出願が特許庁に提出されたという。皆さんにお馴染みのところでは、タカラトミーのプラレールの「青」、ホームセンターのニトリのロゴ・看板の「青緑」、整腸薬正露丸のコマーシャルの「ラッパの音」などが登録出願された。

 

アメリカでは何十年も前から「色」、「音」、そして「香り」を含めたさまざまな「感覚的要素」をブランディングのファクターとする「センサリーブランディング」が体系化されていたため、それらの要素を商標ととらえる法整備がきちんとなされていた。日本でも「感覚的要素」はブランディングの重要な要素であることは認知されていたとはいえ、それらを商標として認める法整備全体が遅れていた分、センサリーブランディングについてはもちろん、日本においては「ブランディング」そのものにアメリカに比べるとかなりの全体的な出遅れ感がある。

 

この「日本のブランディング全体の出遅れ感」の要因の一つに、アメリカのブランディングは「性悪説」が基盤であり、日本のブランディングは「性善説」が基盤になっているという基盤の違いが挙げられる。

 

日本では「顧客によってブランドが作られる」と良く言われるし、そう考えている経営者やブランディング担当者が非常に多い。その根拠の一つが日本市場における「口コミ」の強さだ。企業側もある程度の広告を打ちだす等の働きかけもするとはいえ、良いモノを市場に出せばそれを使った顧客が口コミでその商品やサービスを伝えてくれる、その口コミが伝搬するにつれてその商品やサービスのブランディングが自然となされていくという日本企業の間に古くからある口コミ基盤の顧客主導ブランド形成という考え方だ。

 

この口コミ基盤による消費者主導のブランド構築・浸透は、顧客が「良いものは良いと周囲の人に正しく伝えてくれ、かつ、その話を受けた人もそれを信じて行動=同じものを購入し、さらに口コミを広げる」という現象だが、これは「基本的に相手を疑わない、まず相手のいうことを信じる=性善説基盤」という日本社会の特性によるものだ。結果として日本では、企業が前もってさまざまなブランディング要素を分析した上でブランド構築をせずとも、顧客の口コミ主導によってブランド構築・浸透が「勝手に」実現してしまうことが結構あるというわけである。(モノさえよければ企業主導のブランディングをやらなくても売れる、という発想)

 

対するアメリカはというと、日本のような「口コミ」があるにはあるし、アメリカ人も良いものがあれば人に紹介もすれば人気ブロガーもいないことはないのだが、口コミの影響力と伝搬力は日本に比べると遥かに低い。なぜなら、アメリカ人の行動においては(宗教観的、地政的に)「性悪説」が基盤になっているため、日本人のように他人の言うことを無条件にそのまま信用するということが基本的に無いからだ。他人が「この商品は良かった」と言っても同じモノが自分にとっても良いものであるかはわからないし、ましてやその人が本当のことを言っているかどうかわからないではないか、というのがアメリカ人の考え方だ。よって、口コミが購買に繋がることは日本に比べるとはるかに低く、かつ、口コミの伝搬力も非常に低い。したがって、口コミ基盤の顧客主導でブランドが構築され、浸透するなどということはアメリカではほとんど無い。

 

アメリカ市場において消費者が商品を選択する場合の基準は、「人がどう言っているか」ではなく、「ブランド」のみである。企業主導で構築・浸透されたブランドを客観材料として自らの判断・選択でモノを買うのがアメリカにおける古くからの消費者行動だ。したがってアメリカ企業はモノを売る前からターゲットを設定し、それに合致するようさまざまな要素を設定・分析、その結果に基づいてブランドを構築・発信するという企業主導のブランディングを実行し確立してきたわけだ。(いくらモノが良くても企業が前もって正しいブランド構築をしておかなければモノは売れない、という発想)

 

つまり、アメリカでは体系的分析による企業主導のブランド構築の歴史が日本に比べると遥かに長く、その歴史の中で「色」「音」、そして「香り」等のありとあらゆる事象がブランディングの構成要素となり、企業が自分たち主導で築いたブランドの権利を守るための各要素の商標にかかわる法整備と、それを基盤にしたブランディング手法が古くから自然と発達したというわけだ。

 

現代日本におけるブランディングはアメリカ式の手法を手本とするケースが多く、また日本市場にもそれらの手法がかなりマッチしてきていることも確かである。今回の商標に関わる新しい法律の導入を機に、今後日本企業は「企業主導のブランド構築・浸透」についてさらに磨いていく必要がある。

 

そのようなグローバルに通用する日本企業のブランド構築のために、ようやく日本でも商標として認められるようになった「音」や「色」はもちろんのこと、近い将来、日本でも商標として認められることになるであろう「香り」について海外の「センサリーブランディング」事例をよく研究し、いち早く取り入れていくことが大きなプラスになるであろう。そのなかでも特に興味深い「音」と「香り」のブランディングについて次回以降のこのコラムでさらに掘り下げて考えてみたい。

 

 

筆者プロフィール
野田大介
コンサルタント

 

略歴 
神奈川県生まれ 神奈川県立七里ガ浜高等学校
立教大学 理学部 数学科卒。
The University of Alabama MBA
経営大学院修了

 

14年半の米国在住後帰国。MBA修了後、米国にて建設会社でプロジェクトマネジャー、化粧品会社にて米国支社長、帰国後マーケティングリサーチ会社勤務。

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