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『近年その形を変えた食糧問題。見えない飢餓とは?』<Hot HR ニュース3月号>

2015/04/06(最終更新日:2021/12/23)

【特集】東ティモール紹介レポート~食事編~ 『近年その形を変えた食糧問題。見えない飢餓とは?』

このレポートは21世紀最初の独立国である東ティモール(※1)において著者が所属する学生団体HaLuz(※2)が実施したプロジェクトや生活の中で学んだ現状をご紹介するシリーズである。今までのバックナンバーは下記リンクにて紹介している。

 

→東ティモール紹介レポート バックナンバー

 

当連載では渡航中に見聞きした話を交えながら独立から12年たった東ティモールの現状を紹介している。前回よりMDGsという2015年までに達成することを目指されている世界共通の発展目標の中で中心的な項目としてあげられている「医療 、食事、教育に関する問題」に関して、順番に東ティモールの現状を紹介してきた。今回は食事編をご紹介する。
皆様の社会的問題への関心や企業の社会貢献事業として繋がっていければ幸いである。

▼誤った飢餓のイメージと現場で見た飢餓の状況

東ティモールは「21世紀最初の独立国」や後開発途上国とのイメージが強く、これらのイメージの連想として食糧不足、飢餓という印象を強く持たれる。また、「飢餓」という言葉を聞くと国際機関のキャンペーン広告で良く見るようなガリガリにやせた子どもというのを思い浮かべるのではないかと思う。

 

しかし、実は現在の東ティモールにおいて、食事にありつくことができないような飢餓問題というのは大きな問題となってはいない。これは実際に複数の地域に滞在して感じたものである。

 

その大きな理由として、以下のような東ティモールの生活コミュニティーの特徴が挙げられる。

 

まず、東ティモールの人々は結婚などの人生の契機でも生まれた村を移動しないことが多い。
地域によってそれぞれの取り決めがあり、(結婚をすると男性が女性の家にしばらく住むなど、)多くの場合で夫婦どちらかの生まれた地域と同じ場所で結婚後も生活するため、コミュニティーが非常に近いのだ。この特徴のために、一つの村をほとんど一つの家族で形成することもある。

 

このように、コミュニティーの結びつきが強いことによって、お金や食事に関しても助け合うことが多く、飢えて亡くなるケースはあまりない。
また、個人での自給自足が多く、東ティモールでは人口の80%が農業に従事していると言われている。その大半が栽培した食材を市場などでの販売に回さずに自分たちで消費する。

 

これらの要素が重なり、全く食事をとることが出来ない人々は東ティモールの中にはそこまで多くないと予測することができる。

▼途上国特有の食料問題、「見えない飢餓」(Hidden Hunger)とは

しかし、東ティモールにも食事に関する問題は多くある。大きなものとして、衛生問題と栄養問題の二つが挙げられる。

 

衛生問題として食事に関連して考えられるのが下痢や寄生虫などであり、これは適切な対処によって防ぐことができると言われている。しかし以前の医療編において紹介したように、現状では衛生面での設備は整っているとは言えない。
また、清潔な水を使用することができる環境も世界全体で、89%ほどが改善された水を使用できるようになったものの、東ティモールにおいてはまだまだ70%であり、特に人口の約7割を占める農村部では61%という未発達な状態である。

 

栄養問題に関しては、東ティモールの食事パターンが主食のキャッサバ、コーン、パン、ごはん(お米はやや高級品)とおかずとしてパパイヤの花や空芯菜(1年中育てることができ、栄養のない土地でも育つ)を油で炒めたものなど、非常にシンプルな料理であることによる。

このように、主食と一種類のおかずであるという食事パターンに加え、1日$1.25で生活する人口の割合が35%(2007年:WorldBank)である東ティモールにおいて、鶏1匹が$10もすることからなかなかタンパク質となるものを摂取する機会がない。
また、地方部では都市部よりも収入が大きく下がるにも関わらず、道路などのインフラの不備による輸送コストから、都市部よりも購入価格が高い商品もある。
現在、栄養問題により38.3%の人々が栄養不足と報告されている。また、2009年の調査時で5歳未満の子どもで低体重と診断されている割合も、45.3%と大変高い。

 

このように、食料を得ることはできているものの、栄養不足、低体重などの問題に悩まされることを「見えない飢餓」(Hidden Hunger)と呼び、これはアフリカ・アジアなど多くの途上国でも問題となっている。

 

飢餓係数のランキング※3でも東ティモールは76カ国中74位とかなり悪い数値である。
これは、収入状況や自作農に適した土地や水の有無、さらに食事栄養に関する知識など、幾つもの要因が絡んでいるのだ。

▼飢餓問題は最優先に解決されるものでなければならない

東ティモールは自給率が低く、お米に関して自国内の生産では足りず年間の総供給のうち38.7%を輸入したお米に依存している。また、小麦粉に関しては、すべてを輸入で賄っている状態である。

 

主食以外にも加工品や飲料などを多く輸入しており、これによって多様な野菜・果物を育てることが出来ない環境的(土壌や水など)要因、技術的要因をクリアできるものの、これらを享受できるのは金銭的にある程度ゆとりのある家庭に限られる。

 

以上のように、近所間の助け合いや自作農であることにより食事は取れないことはないものの、自分たちで育てられることができる以外の食料は手に入れることが難しく、栄養不足に陥る「見えない飢餓」が現在の状況なのだ。
世界中の国際機関の間で医療や食事、教育が最優先項目として取り組まれているかというと、これらの問題が貧困や多くの他の問題に大きく寄与するためである。

 

貧困である→食事がままならない、衛生的な環境がない→(発育障害や病気にかかる・家事や親の仕事の手伝いをするなどにより)学校へ行くことができない→将来の貧困へ陥るなど昔から貧困というものは世代を超えて循環してきた。

 

現在東ティモールは「ゼロ・ハンガー・チャレンジ」と呼ばれる「見えない飢餓」を含む全ての飢餓をなくすためのプロジェクトを国主導で取り組む最初の国としてFAOと共に活動を開始した。これが国際社会の間での「先行事例」となり、世界中でこのような取り組みを起こすことを目指している。

 

※現在東ティモールにおける多方面での支援を企画中です。もし社会貢献事業などを考えられている企業様がございましたらぜひご連絡ください。

ご連絡先:keitakatoh1115@gmail.com

 

 

※1 東ティモールについて

正式名称は東ティモール民主共和国。

 

東南アジアに位置する人口120万人程度の島国。東経123~127度,南緯8~10度に位置し日本との時差はない。南側に位置するオーストラリアとの間にはティモール海があり、石油・天然ガスの埋蔵地となっている。

 

LDC(後発開発途上国)に指定されている世界最貧国の一つ。

 

16世紀以降ポルトガルの植民地であったが、1975年にポルトガルからの独立を果たした。しかし、隣国インドネシアによって不法な占領を受け、完全な独立(主権回復)は2002年5月20日となっている。また、第二次世界大戦中である1942~1945年の期間には日本軍による占領も受けていた。

 

https://www.facebook.com/haluz2014/info

 

※2 学生団体HaLuzについて
著者が2015年1月まで代表を務め、現在も所属している学生団体。法政、早稲田、東京などの大学からメンバーが集まっている。東ティモールにて活動を続けており、関連団体を含めると12年の活動歴を持つ。

 

活動詳細はこちら↓

 

https://www.facebook.com/haluz2014/info

 

 

※3 Country Global Hunger Index Scores by rank
人口における栄養不足、低体重の割合などをもとに飢餓の深刻度を測る指標。

 

指標の数値が5以上だったもののみランキングに掲載され、現在は76カ国がランキングに載っている。

 

http://www.ifpri.org/sites/default/files/publications/ghi14.pdf

 

 

 

編集長プロフィール
加藤啓太(かとうけいた) 法政大学キャリアデザイン大学3年生。
1年間大学を休学し、2013年6月からイマジナにてインターンとして活動。2014年4月から復学している。イマジナでは主に資料作成やHotHRメルマガの記事を作成している。学生としてアジア最貧国の一つである東ティモールの支援を行う学生NGOで活動を行っており、「タイス」という現地伝統の織物を生産するコミュニティーの支援活動やiPadを用いた教育事業、両国若者間の交流活動を行う。他にもWAFUNIF、HCR+などの団体でも活動を行っている。

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