企業理念とカルチャー・ブランディングが明解であれば業績回復も速い
2015/03/26(最終更新日:2020/07/15)
日本発の「グローバルゲームブランド企業」といえば、いろいろあれどやはり任天堂とソニーが真っ先に思い浮かぶ。
任天堂は看板であるゲーム機である最新のWii Uの売れ行きが思わしくなく、売上はここ数年急激に落ち込み基調となり、今期予想は2012年の上場以来初の赤字以降4年ぶりの黒字転換まで持ち直したものの先行きはなかなか厳しそうに見える。
ソニーは最新型ゲーム機のPS4の売上が世界的にまずまず好調で、ゲームを含めた全社の売上は安定推移であるにもかかわらず、ソニー全体の利益はここ数年下落基調が続き、今期も最終1700億円の赤字が予想され、赤字幅の拡大が進んでいる。
任天堂は創業の起源が花札やトランプの製造販売、つまり、まさしく「ゲーム」を基盤として成長発展してきた企業である。「任天堂=ゲーム」という企業カルチャーとブランディングが創業以来社内にも市場にも浸透しており、そこにはブレがない。
一方のソニーは、PlayStation1号機で一世を風靡して以来、任天堂と並び日本発の「ゲームのトップブランド」の一つになった。元来ソニーはウォークマンに代表される独自の先端技術AV家電の総合ブランドである。ところが、ソニーはゲーム事業だけでなく、金融、不動産など、創業以来の軸であるAV家電に直接かかわりのない多種多様な事業への進出を加速した結果、特に近年ソニーの企業カルチャーの発信と浸透、ブランディングには大きなブレが生じている。
任天堂創業三代目の山内溥氏が「柔軟で個性的な発想が必要なゲーム(遊び)を生み出す企業は明文化された企業理念など固定されたものに縛られてはならない」という考えを持っていたため、企業ブランディングの基盤となるべき「明文化された企業理念や社是」というものが任天堂には存在しない。それにもかかわらず任天堂は創業以来の企業カルチャーとして「ゲーム」を一貫して商品化・ブランド化し、社内外にブレることなく発信し浸透させることに成功している。
ここでもう皆さんはお気づきかと思うが、自由な発想のためにあえて「企業理念を持たない」ということ自体が実は任天堂の企業としての「理念」になっていて、任天堂においてはそれが自社のカルチャー、ブランディングの基盤として全社に浸透していており、その「理念を持たないという理念」に基づく自由な発想の企業カルチャーが生み出したゲーム商品を通じて任天堂の統一された企業カルチャーが社員だけでなく消費者にも明確に認知され浸透しているというわけだ。
一方のソニーはどうだろうか。すでにソニーは単なるAV家電メーカーではなく、映画製作・配給、音楽制作などのコンテンツ事業、金融(銀行・保険、そしてゲーム事業などを含めたありとあらゆる事業を展開する一大コングロマリットに変貌している。
事業の多角化自体には全く問題がない。しかし、元来AV家電ブランドであるソニーという企業の下で多種多様な事業を行なうのであれば、業種に限らず傘下の全事業に共通した「ソニーとしての理念とカルチャー」を社内外に発信・浸透させ、ソニー全体として統一の企業ブランディングが基盤に存在する必要がある。そうでなければソニーという基幹ブランドと個々の事業のブランドの間における整合性がなくなってしまい、社内外とも「ソニーとは何のブランドなのか」ということが全くわからなくなり混乱してしまうからだ。
今のソニーを見てみると、傘下の事業会社が各々全く個別の企業理念を掲げており、ソニー全体として統一されたブランディングと発信・浸透が行なわれていないため、「ソニーとは何のブランドなのか?」ということが全く分からなくなってしまっている。各事業体のロゴもバラバラのデザインである。わたし自身「昔は先端AV家電ブランドだったけど、今は何だかよくわからない」としか答えられない。
任天堂もソニーも、ゲームの売上の盛り返しを狙い、ハード、ソフトの両面でさまざまな商品、戦略を考えているに違いない。企業全体としてのブランディング基盤が明確になっていれば社員は会社の方向性を体感しつつ自己の能力を十分に発揮し、現在は低迷期にあるとしても時間の経過とともに必ず自社のカルチャーを明確に反映した商品を開発・投入することができ、社内外へのブランド浸透度はさらに高まる。その結果、企業業績の回復もスピードアップしていくであろう。
筆者プロフィール
野田大介
コンサルタント
■略歴
神奈川県生まれ 神奈川県立七里ガ浜高等学校
立教大学 理学部 数学科卒。
The University of Alabama MBA 経営大学院修了
14年半の米国在住後帰国。MBA修了後、米国にて建設会社でプロジェクトマネジャー、化粧品会社にて米国支社長、帰国後マーケティングリサーチ会社勤務。