imajina news vol.13 – 企業の「お見合い」成功例からブランド価値向上施策の重要性を学ぶ
2014/12/15(最終更新日:2021/12/16)
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スターバックスが、今年半ばから本国アメリカの限定店舗でディナーフードメニューを導入し、ディナータイムにはワインやビールなどのお酒も出すようになったというニュースをご存知のかたも多いのではないだろうか。
スターバックスは1990年代、それまでアメリカになかった「コーヒーショップ」=気軽に手軽な価格で、上質なコーヒーを食事せずに落ち着いて楽しめる場所というコンセプトで事業拡大に成功した。スターバックスのブランディングとしてレストラン/ディナーとは相容れないことが一要素だったわけで、ともすれば今回のディナーとお酒の導入はそれまでの自身の企業理念に逆行し、長年かけて築いてきたブランドイメージを大きく損なうのではと考えられなくもない。しかしスターバックスのブランドイメージはディナーとお酒の提供を開始しても全く損なわれず、むしろ企業価値の上昇に繋がっているのだ。
ディナー導入に際してスターバックスが採用した手法は、自社単独でディナーメニュー開発をせず、西海岸サンフランシスコのオシャレなフレンチベーカリー・レストランとして評判の高いLa Boulangeをアライアンスパートナーとして選定・買収し、単独ではなく協同でディナーメニューを開発・導入したという点。
スターバックスは数年前からディナー市場参入を前提として、自社のカルチャーと相性が良く、かつ、元来のスターバックスが持つ「コーヒーショップ」というブランドイメージを損なわないようなパートナーの選定作業を行なってきた。結果、自身もパートナーも「餅は餅屋」として互いに特性、得意技を活かしたまま、ブランドイメージと企業カルチャーを保持するようなアライアンスによってディナー参入できると判断されたLa Boulangeをパートナーに選定、2012年に買収した。
このようなアライアンス、M&A作業を実現するには、そのパートナーと組むことで自社の企業理念、ブランド価値、カルチャーが損なわれるようなことが絶対にないよう、相手の企業カルチャー、ブランド哲学を明確に理解した上でパートナーを選定することが必須だ。
日本以外、特にアメリカにおいて好業績を残している企業のほとんどは、自社の企業カルチャーを社内外に向けて常日頃からさまざまなメディア、自社の社員、そして顧客を通じて発信し、社内外における企業ロイヤルティーを高めることで売上と企業価値の増大に直結させている。スターバックスもLa Boulangeも、アライアンス以前から各々が自社の理念、カルチャーを日常的に社内外に向けて発信していたため、自身のことはもちろん、相手の企業理念、カルチャー、ブランディングについても非常に良く理解していた。その上で互いにブランドイメージを損なうことはないと確信してアライアンスをスタートしたのである。見合いの話が来る前から、いつ見合い話があっても大丈夫なようにちゃんと準備ができていた、というわけだ。
西海岸でトップクラスのベーカリーLa Boulangeのブランド力を活かしたディナー導入→スターバックスのフードメニュー全体のイメージアップという図式から、2014年の第3四半期の米国既存店舗におけるスターバックスのフード売上は前年比5%アップという好結果となった。それに伴い、モルガン・スタンレーが設定する株価目標も82ドルから89ドルへと上方修正された。互いのカルチャーを理解した上でのアライアンスだからこそ売上と株価の上昇に伴うブランド価値上昇に多大な成果をもたらしたと言ってよいだろう。
このように社内外双方に向けての企業ブランディングや、理念・カルチャー発信を実行し、企業価値のアップに直結させている企業は日本ではまだ少数。その中で2013年から農機具・商用船舶メーカーのヤンマーが、「プレミアムブランドプロジェクト」と称して、フェラーリのデザインで有名な工学デザイナーの奥山清行氏、ユニクロのグローバルブランディングの総合マネージメントで名を馳せたアートディレクターの佐藤可士和氏と共に、企業文化・理念、ブランドの根本的再構築を行ない、それを基盤として企業カルチャーを社内外に向けて発信しはじめているという興味深い事例がある。
自社の農機具と船舶に変身ヒーローのような斬新なデザインを取り入れ、これから目指していく近未来のヤンマーとしての理念、カルチャー、ブランドコンセプトを社内外へ向けて明解に発信しており、それまでのヤン坊マー坊のヤンマーではない新しいヤンマーなんだ、というヤンマーの「想い」がホームページを見ただけで強烈に伝わってくる。
市場の頭打ちで競争が激化している農機具・商用船舶市場において、万が一にも海外企業を含めた他企業とのアライアンスが必要となった場合、現在のように企業理念とカルチャーを明確なブランドイメージとして発信している新しいヤンマーならば、競合他社に比べ遥かに優位にビジネス展開することができるであろう。
企業理念とカルチャーの社内外への浸透、ブランディングとしての社内外への発信は、社員のモチベーションのアップとともに売上に直結、企業価値が高まるだけでなく、M&Aを含む事業アライアンス時においても、互いの企業カルチャーに対する理解の深さを柱として、「適切な相手」を選定することに大きく役に立つ。自分たちの会社だけはそんなことはしなくても大丈夫と思っていても、日頃から継続して企業カルチャー、ブランドの社内外への浸透を実行していなければ、いざという時に何もできないということになる。みなさんの会社もスターバックスやヤンマーの例を参考として、ぜひ自社のカルチャーと理念をブランドとして明確に構築し、社内外に発信することを始めてみてはいかがだろうか。