【特集】東ティモール紹介レポート~ビジネス環境編~<Hot HR ニュース10月号>
2014/11/25(最終更新日:2021/12/10)
【特集】東ティモール紹介レポート~ビジネス環境編~ 『東ティモールでビジネスが発展しない3つの理由』
2014年8月25日から9月13日の約3週間、筆者が所属する学生団体HaLuz(※1)が21世紀最初の独立国である東ティモール(※2)において視察および複数のプロジェクトを実施した。当連載では複数回にわたって、渡航中に見聞きした話を交えながら、独立から12年たった東ティモールの現状を紹介する。第二回目である今回はビジネス環境編として、東ティモールにおけるビジネスの進展状況を紹介する。
▼脆弱国(※3)の国づくりにおける経済発展の重要性とは?
東ティモールは紛争からの立ち上がりを目指している脆弱国であり、国づくりを進めていく上では、経済の発展が必要不可欠である。
それは、国民の内49.9%(UNDP調査)が未だ一日$1.25以下で生活をしている貧困層であるという現状や、失業率の高止まりによる治安の悪化が今後の国づくりを進めていく上で大きな懸念となっているためだ。
特に若者における失業率の高さは、ほかの脆弱国が再び騒乱を興す原因となっており、「アラブの春」で知られる中東地域における一連の騒乱においても、その一因となっている。
東ティモールにおいては、2012年発表のILOによる推定失業率は国民全体では4.0%だが、若年層(15歳~24歳)では12.6%と他の世代と比較して突出した数値となっている。現在はまだ治安面では大きな問題としては表面化していないものの、常に危険を背負っているという状態なのだ。
治安の問題以外にも、このまま国内雇用が少ない状態が続くと、今後の国づくりを担うべき優秀な人材が、より高い報酬を得られるレベルの高い仕事を求め海外へ流出し、東ティモールの発展に大きな影響を与えてしまうことが危惧されている。
▼東ティモールの偏った産業体系
東ティモールの主要産業は石油・天然ガスなど天然資源によるものであり、国家の歳入の9割近くを資源収入から得ている。
次に大きな産業としてコーヒー産業があるものの、これは相対的に見たときのもので、全体的な金額としては主要とは言えないレベルだ。
東ティモールでは、国民の7割が農業従事者と言われているが、その作物は販売するというよりは自分の家庭で食べるものであるため、そもそも現金収入がない。その点でコーヒー産業などは東ティモールの人々にとって現金を得る貴重な機会となっており、国民の4分の1がコーヒー産業に携わっている。
▼東ティモールにおけるビジネスの現状とビジネスが成長しない3つの理由
「起業」・「自営業」という言葉も東ティモールにおいては、市場に店を出して野菜などを販売するキオス(日本のキオスクのような小さなお店で住宅地などにある)を作る程度である。
ビジネスが拡大しない1つ目の要因としてまず資本となる手元のキャッシュがないため、小さな規模でしかビジネスを立ち上げることができないという現状がある。そのため人を雇うことがなく結果として雇用の問題を解決できないだけではなく、経済規模も大きくなっていかないのだ。
国内唯一のショッピングモールも華僑によるものであり、また利用している客も外国人が多く目立っている。東ティモールでは、華僑やポルトガル人・オーストラリア人などの外国人によって経済が回されているといっても過言ではない。
また、経験や資金力の補完として、東ティモールは外国企業の誘致を目指しているが、そこにも不安要素が数多く存在している。まず、未だに道路や電気などのインフラが整っておらず、電気の供給は不安定であり、モノの輸送もままならないのである。また物価や最低賃金が隣国のインドネシアと比較して高額であるために外国企業がなかなか進出に踏み切ることができない。
このように、「元手となる資金の不足」や「インフラ環境の未整備」、「物価・賃金の高さ」が東ティモールにおけるビジネスの発展に大きな障壁となっている。
▼国内産業の空洞化への苦悩と東ティモールが抱える潜在的成長性
国内産業の空洞化により、輸出産業は育たず、生活用品に至るまであらゆるものをインドネシアなど近隣諸外国からの輸入に依存している。輸入の際に運ばれてきたコンテナに積めるものが東ティモールにはないため空のコンテナが港周辺のスペースに積まれて貯まっているという光景がそこかしこで見られる。
また、この輸入依存体質は、他の幾つかの原因と重なって、実態経済に見合わない物価の高止まりという問題を招いている。
その一方で東ティモールは、天然資源をその周辺に抱え、かつ今後のアジア市場、世界市場への生産拠点、あるいは中継拠点として非常に有利な位置に存在しており、今後の経済発展において魅力的なポイントも多く抱えている。他にも、CPLP(ポルトガル語圏諸国共同体)の議長国を目指していることや、ASEAN加盟を目指しているなど外国企業の進出先として大きな価値を提供できる可能性も秘めており、今後海外企業の進出が期待されている。
東ティモールにとっては数十年後にはつきてしまう天然資源の存在を考えると、いち早くこの依存体系から脱却しなければならないだろう。
近年ではついにミネラルウォーターの製造企業が国内にできたようで、街にその企業の広告などがいたるところにみられるなど大きな影響を与えている。
今後もこれらの事例を筆頭に、徐々に自国での産業の創設を狙っている。
次回は教育や衛生など、後開発途上国である東ティモールの現状や暮らしをホームステイなどで得た経験を基にレポートしたいと思う。
※現在東ティモールにおける多方面での支援を企画中です。もし社会貢献事業などを考えられている企業様がございましたらぜひご連絡ください。
ご連絡先:keitakatoh1115@gmail.com
※1 学生団体HaLuzについて
著者が代表を務める学生団体。法政、早稲田、東京などの大学からメンバーが集まっている。東ティモールにて活動を続けており、関連団体を含めると12年の活動歴を持つ。
活動詳細はこちら↓
https://www.facebook.com/haluz2014/info
※2 東ティモールについて
正式名称は東ティモール民主共和国。
東南アジアに位置する人口120万人程度の島国。東経123~127度,南緯8~10度に位置し日本との時差はない。南側に位置するオーストラリアとの間にはティモール海があり、石油・天然ガスの埋蔵地となっている。
LDC(後発開発途上国)に指定されている世界最貧国の一つ。
16世紀以降ポルトガルの植民地であったが、1975年にポルトガルからの独立を果たした。しかし、隣国インドネシアによって不法な占領を受け、完全な独立(主権回復)は2002年5月20日となっている。また、第二次世界大戦中である1942~1945年の期間には日本軍による占領も受けていた。
※3脆弱な国家(fragile states:脆弱国、脆弱国家)とは
『「脆弱な国家」とは、制度面での能力の不足、不十分なガバナンス、政治不安、頻発する暴力、過去の深刻な紛争の後遺症など、きわめて厳しい開発課題に直面している国を指します。』
(IDA-国際開発協会HPより引用。
http://web.worldbank.org/WBSITE/EXTERNAL/EXTABOUTUS/EXTIDAJAPANESE/0,,contentMDK:21543046~pagePK:51236175~piPK:437394~theSitePK:3359127,00.html)
編集長プロフィール
加藤啓太(かとうけいた) 法政大学キャリアデザイン大学2年生。
1年間大学を休学し、2013年6月からイマジナにてインターンとして活動。2014年4月から復学している。イマジナでは主に資料作成やHotHRメルマガの記事を作成している。学生としてアジア最貧国の一つである東ティモールの支援を行うNPO法人LoRoSHIPで活動を行っており、「タイス」という現地伝統の織物を生産するコミュニティーの支援活動と交流活動を行う。今年の夏に2度目の東ティモール渡航を実現。積極的に海外支援に取り組んでいる。