企業ブランディングの行きつく先は、企業カルチャーの創造
2016/01/19(最終更新日:2021/12/23)
先日、フリーランスのデザイナーである学生時代の友人と酒を飲んでいた。彼の専門領域はもちろんデザインなのだが、マーケティングやブランディング全般に深い興味と知識を持ち合わせている。ざっくばらんに各々の仕事について話をしていたのだが、話題は互いが興味を持つ分野「企業ブランディング」に及んだ。
「企業ブランディングの行き着く先って、企業カルチャーの創造だと思う」と彼は言う。詳しく聞いてみると、ブランディングを意識する理由、また始める目的は企業によって様々だが、結局はどの企業も、その行為は固有の企業カルチャー創造にたどり着くのではないか、ということだった。
始める目的は様々であると言いながらも、最終到達地点が一緒というのは面白い。企業ブランディングと企業カルチャーの創造。この2つの概念は切っても切り離せないものだと筆者自身も感じているのだが、「行きつく先」という表現がとても新鮮に感じた。
「ブランディングってなんですか?」「ブランディングって必要なのですか?」という質問を受けることがある。ブランディングには形がない。それは概念であり、目には見えないし、専門家に同じ質問をしてもその答えは多岐に渡るだろう。企業のロゴ作成もブランディングの一環であるし、社員への教育もブランディングの一環である。その言葉が包括している領域は非常に幅広いため、理解しづらいのも当然のことだと感じる。
しかし、伸びている企業はほぼ全て、と言って良いくらいブランディングが徹底してなされている。「『その企業らしさ』が、誰が見ても明確になっている」とでも、言うのだろうか。
ブランディングに成功し、他社とは違う独自の強みを持った企業は、その力を販促から採用、育成まで幅広く応用する。Apple社等は特にわかりやすい。顧客、また社内の人間も、その企業が持つブランドイメージに忠実であるし、そのイメージは内外で食い違うことはない。もちろん国外だけでなく、国内でもブランド力のある企業は数多く存在する。SONY社やHONDA社は、世界でも通用する唯一無二のブランドを持っているだろう。
製造業の場合、商品力がブランド力になるケースが多いが、サービス業でもブランド力を持った企業は数多くある。例えばリクルート社。同社は「営業力がある」「人材採用と育成に力を入れている」「社長をたくさん輩出している」等、内部の人材にフォーカスが当たった力強いブランドを持っている。リクルート社のかつての社訓は「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」であった。社訓、実態、内外のイメージに全くブレが無い。ここまで一貫した強みを持っている組織体は強い。
さて、上記のような企業はブランド力もさることながら、それぞれ独自の「企業カルチャー」を持ち合わせている。リクルート社はまさにその典型だろう。リクルート社は「ヒト」に非常に重きを置いている。創業者である江副浩正氏が人材採用と育成を徹底的に重視したのだ。江副氏の方針が同社のブランドとなり、最終的には同氏が第一線を退いても社内のメンバーに脈々と受け継がれる「カルチャー」となった。長い時間をかけて、企業ブランディングが企業カルチャーへとたどり着いた例と言えるだろう。
ただ、カルチャーが醸成され、一時的に非常に強い企業体になったとしても、それが永遠に続くかはまた別の話である。筆者が耳にしたある企業の話である。同社は「新製品のアイディアが、社員からボトムアップでぽんぽんあがってくる」風土のあるメーカーであった。そこに所属している社員たちは、就業時間後に自主的にアイディアを持ち寄り「こんな商品が売れるんじゃないか」と議論を重ねていたらしい。それが同社商品のブランド力に繋がっていたし、固有のカルチャーとして根付きつつあった。しかし時間が経ち、急速に社員が増えるにつれ、その特筆すべき風土は消えていく。いつのまにか夜な夜な繰り広げられていた光景は見られなり、それに伴い商品競争力も落ちていったのだとか。自然発生的に生まれた良きブランドが、年月を重ねるうちに、自然消滅してしまったのだ。
会社が持つ良きブランドは、良きカルチャーとして残していかなければならない。それが、他社には真似できない強みとなるからだ。そのためには社員が忘れないよう、新しく採用された仲間にも根付くよう、時折「浸透のメンテナンス」をしなければならない。定期的な研修やカルチャーブック等のツールを用いて、社員全員で共有していくべきだろう。
ブランディングを行うことで、経営陣と社員の目指すものの統合性が取れていくし、メンバー全員がこの会社で働く意味を理解するようになる。その道程はまさに「その企業固有のカルチャーの創造」であると言えるのではないだろうか。
自社のブランド力の源泉は何か。そしてそれがカルチャーとして根付くには、どのような対策をとるべきなのだろうか。その発見と浸透には時間がかかるかもしれないが、それは取り組むべき価値のあるものである。今一度、自社を振り返り考えてみるのはいかがだろうか。