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『七人の侍』に学ぶ組織構築とブランドの継承

2016/04/25(最終更新日:2020/07/17)

『七人の侍』という映画がある。知らない人はいないだろう故黒澤明監督の映画である。世界中にファンがおり、史上最も有名な侍映画といっても過言ではないと思われるが、この映画は何故そこまで人を惹きつけるのだろうか。

 

筆者もこの映画が好きなのだが、見る度に多くのことを学ばせられる。その面白さは刀を振り回し、敵をたたき切るエンタメ性だけにあるのではない。三時間以上にわたる映像には「人」というものがあますところなく表現されており、人間の生き方ということに関して否応なしに考えさせられる点が本当の魅力となっている。
さらにそれだけではなく、敵を退治するというミッションの中で現代の組織構築にも通ずる「組織の在り方」や、一定の目的を持った集団における「次世代へ思想を継承することの重要性」まで映画には描かれている。人間の本質はそう変わらない。ビジネスにも活かせる教えがあるのだ。

 

この映画は戦国時代のとある小さな農村が舞台となっている。農民たちは静かに暮らしていたが、盗賊である野武士たちが農作物の実る時期を見計らい、村を襲うという計画を立てていることを彼らは知る。一時は諦めもしたが、これを防ぐため侍を雇い野武士を追い払うという妙案を思いつく。
そこで農民たちは町にでて様々な侍に声をかけるのだが、誰一人として計画に賛同するものはいない。それもそのはずで、戦いの報酬は「雇用している間は腹いっぱいのご飯を提供する」という約束のみ。野武士とぶつかり死ぬかもしれないという極限のミッションの割に合わないのだ。
しかし勘兵衛という浪人に声をかけたところから、計画は現実味を帯びていく。彼は元々立派な侍で歴戦の智将であった。最初は打診を断った勘兵衛だったが、農民の訴えに根負けし願いを引き受ける。
動き始めた勘兵衛は、野武士と戦うには最低七人の侍が必要だと考え、四苦八苦しながらも個性的な仲間を集め計画をスタートさせた。
最初は侍と農民、また侍同士の間に壁があったのだが、時間が経つにつれお互いに信頼しあい、野武士を倒すというミッションに向けて一致団結をしていく。そしてついに野武士との衝突。戦いの結果は果たして……。

 

クライマックスは映画を見ていただければと思うのだが、その教訓は勝負にあるのではなく、野武士を倒すというミッションにおける人間同士のコミュニケ―ションにある。侍集めから野武士退治に至るまで、組織とはどういうものか、思想を次世代に伝えるということはどういうものかを教えてくれるがこの映画である。

 

『七人の侍』を読み解く一つのブログがある。大学教授である内田樹氏の「『七人の侍』の組織論」という投稿だ。ここでは「どんな組織が長い間生き残ることができるか」ということが考察されているのだが、これが非常に興味深い。

 

結論から言うと、生き残ることができるのは「弱いものを守る」ことがミッションに組み込まれている組織だと主張する。組織の構成員のなかで有力なものだけに資源が配分され続けていると、弱肉強食状態になりいつか互いの足を引っ張り合うようになる。また標準的なものを最優先にすると、能力が均質化しいつか多様性を失い環境変化に耐えられなくなるというのだ。

 

では最も耐性の強い組織はなにか。それは「成員中のもっとも弱いもの」を育て支援することが目的の組織である。そのような共同体が一番強くパフォーマンスが高いと氏は言う。そのため、組織は意図的に「非力なもの」を組み込み、全員で「支援し、育て、未来に繋ぐ」という仕組みを作るべきだと主張するのだ。

 

『七人の侍』に戻ると、同映画では勝四郎という侍に憧れる若者が出てくる。彼も同士の一人としてカウントされているが、腕は未熟。まさに若さだけが取り柄と言ったキャラクターなのだが、普段はバラバラな方向を向いている他六人の仲間は、そんな「弱い」彼を守ることだけは共通認識として持ち続けているのだ。
なぜか。それは彼が、歴史を超えて自分たち侍の生き様を後世に伝える唯一の人間だからである。他の侍は自分が死んでも勝四郎だけは守ろうとする。野武士を倒すという目的の裏には、勝四郎を立派な侍に育て上げ、自分たちのようなものがいたという事実を歴史に刻むことが隠されたミッションなのである。

 

企業に置き換えてみよう。野武士退治は自分たちが課されている業務、侍は会社の仲間で、とくに勝四郎は「これからの会社を担う」人材である。普段、強者だけが得をする、また現在の利益の享受だけを目的にしている組織は、そう長く続かないことは想像に難くない。「歴史を貫いて維持しなければならない」目的がないからだ。何らかのトラブル(例えばちょっとした意見の相違等でも)が発生したときには、すぐに倒れてしまうことが予想できる。

 

営利を追い求めると同時に、会社として伝えるべきものを伝え、人材を育てていく。組織にはこういった「裏の」ミッションがないと、強く長く続く組織にはならないのではないか。
また現代ではそれに加え「なにを」伝えるのかも選別をしなければいけない。それがそのまま、その組織が生き残るべき理由となるからだ。そしてそういった「なにを」の部分が、風雪を耐え、社内外で伝え続けられる「思い」、ひいては「ブランド」となるのだと思う。

 

同映画は、組織というものを考えるのに良い教材だと感じる。そして、組織のあるべき姿というのは、時代が変わってもあまり変わらないのであろう。人間の本質を垣間見ることができる、一つの事例である。

 

(参考)
・内田樹の研究室
「『七人の侍』の組織論」 ホームページはこちら

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