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政治×デザインが紡ぎだすもの

2016/05/23(最終更新日:2021/12/20)

今夏の参院選から、選挙権年齢が20歳から18歳に引き下げられる。多くのニュースでも取り上げられているが、18歳以上ならば投票に行き政治に参加することが可能になるのだ。公職選挙法の年齢改正は実に70年ぶりとのことで、これにより有権者数は240万人増となる。

 

年齢の引き下げにより、より政治に「若者の声」を取り入れることが望まれている。しかし、政治に興味を持つ若者はそう多くいないのが実情だ。メディアでは「若年層の投票率は年齢の数字と大差がない」と言われることがある。2014年2月に行われた東京都知事選挙では20~24歳の投票率は25.7%。25~29歳では28.38%であった。なるほど、確かに年齢と近しい投票率である。決してこれは高い数値とは言えないだろう。

 

もちろんこのような状況は芳しくないため、政府や自治体、また民間の団体も政治に興味を持つ若者を増やそうと積極的に運動を展開している。昨年頃からSEALDsの活動がメディアで報道され始めたのは記憶に新しい。また各党でも選挙権の引き下げを見据え若手芸能人等と政治討論を行い、「若者に政治に興味を持ってもらう」ための施策をとっている。しかし実際に感化される10代20代の若者は少なく、どの活動も大きな成果を生み出せていないのが現状のようだ。

 

政治や地域の自治は我々の生活に大きく影響する。しかし興味を持つ者が少ないことに加え、その促進に関しても効果的な方法は見いだせていない。この「若者と政治」の問題が取りざたされて久しいが、両社の間にある溝を橋渡しすることは不可能なのだろうか。

 

実は台湾では、政党が若者の政治への興味を触発し、自党の支持層に取り入れることに成功した例がある。今年1月の台湾総統選挙で初の女性総統として選ばれた民進党の蔡英文(さいえいぶん)氏の選挙キャンペーンだ。ニュースでも取り上げられているので存在を知っている人も多いと思うが、その成功の要因は「デザインを効果的に活用した、今までの政治家とは違うイメージの構築」にあった。

 

台湾では現在、「中国と台湾は別」という考え方が若者を中心に広がっている。蔡氏自身も独立派としての考えを持っているが、彼女はその思いを自身のキャンペーンビジュアルに託した。

それは、明るい緑を基調としたサークル状のロゴ。シンプル、かつスタイリッシュであることに加え、鮮やかな色合いは清廉でさわやかなイメージを醸し出している。「LIGHT UP TAIWAN」という台湾生まれのフォントで書かれた簡潔なスローガンと相まって、今までの選挙にはない洗練されたデザインが若者の目を引いた。
もちろん成功の理由はそれだけはない。蔡氏は、このロゴを中心に今までにはない斬新なキャンペーンを開催する。日本でもLGBTのレインボーカラーを用いた支持表明が流行ったが、それと同様にロゴと関連性を持つ形でFacebookのアイコンを加工し、蔡氏の支持表明ができるアプリを開発。そして緑の猫耳を付けた自身の「公式萌えキャラ」を発表しSNSやネットでの拡散を狙った。若者を中心とした無党派層への訴求を中心とした活動を行ったのだ(ちなみに公式イベントもコスプレイヤーが司会を務めアイドルライブを行う等、若者を意識したものとなっている)。
その動きが身を結び今年1月に山が動く。同月の選挙戦では蔡氏が主席を務める民進党が与党の国民党に圧勝。野党の勝利だけでなく、女性初の総統が誕生した。

 

台湾のどのメディアも、勝利の理由は20代から30代の若い世代の動きだったと結論づけている。無党派層をうまく取り込み、自身の考えを余すところなく伝え、今までにない手法で大きなムーブメントを作る。蔡氏は若者を政治の世界に呼び込むことに成功したのだ。

77年のアメリカでも、市民が街を愛するきっかけにデザインが一役買ったことがある。世界で一番有名なキャンペーンロゴ「I LOVE NY」の登場だ。

 

当時NY市は、ベトナム戦争の後遺症を受けひどい財政難に陥っていた。それに伴い街の治安が悪化。犯罪が増加し、観光客も激減するような状況であった。政治家たちは次々に噴出する問題に頭を悩ませており、起死回生を図るべく藁にもすがる思いで広告キャンペーンを決断する。

 

「I LOVE NY」というコピーは、グラフィックデザイナーであるミルトン・グレイザー氏が市民をインタビューする中で自然に生まれたものだった。人々はインタビューに決まってこう答えたという。「I hate NY but I love NY.(NYは嫌い。でも、やっぱり好き)」と。NYは市民に愛されている。そう確信した彼はbut以降をそのまま切り取り、市民の気持ちを鼓舞する最高にクールなロゴを作り上げた。

 

このロゴとコピーは後にNYのシンボルとなる。現役のブロードウェイダンサーが「I LOVE NY」と歌い踊ったCMが大ヒット。そのシリーズに続々とスターたちが友情出演したこともあり、キャンペーンは予想以上の反響を得る。一連の施策により観光客数も劇的に回復し、バラバラだったニューヨーカーの心は1つになった。市民が自信と、地域に対する愛を取り戻した大成功の事例として、今でも語り継がれている伝説的なプロジェクトだ。

 

若者はいつの時代も、カッコよくて、斬新で、刺激を与えてくれることが大好きだ。それは政治に対しても同じこと。中身が伴っていることが大前提ではあるが、「見せ方」「伝え方」を工夫することで若者を振り向かせることは可能なのではないか。
そしてまた同時に「デザインが社会を変える」ことを、これらは教えてくれる。アウトプットを少し工夫するだけで、反響が大きく変わるのだ。それはもしかしたら、ビジネスでも政治でも変わらないのかもしれない。

 

アベノミクスでは地方創生が掲げられたが、政府や自治体は「若者が政治に興味を持ってくれない」「外ばかり見て田舎を見てくれない」と嘆く。しかし手法はいくらでもある。今までのやり方が通用しないからといって、伝えることを簡単に諦めてはいけないだろう。

 

時代に合った訴求方法は必ずある。「何を言うか」だけでなく「どのように言うか」も考えていきたい。

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