将を成す5つこと - リーダーに求められるのは
2016/01/14(最終更新日:2021/12/20)
前回ご登場願った現代のマネジメントの父から、今回は大胆に時代を遡り、紀元前の中国思想にヒントを求めてみたい。
金言のワンダーランド、諸氏百家の中でも、人としてのあり方を求める先としては、儒家の横綱格・孔子の論語が、戦いの場における戦略を求める先しては「孫子」の人気が高い。そして常時、競争という戦いに晒される事業経営への示唆が豊富なのは、やはり「孫子」といえよう。
孫子全体の根源的価値感を表し、おそらく最も知られている格言は「凡そ用兵の法は、国を全うするを上と為し、国を破るは之に次ぐ。」、所謂「戦わずして勝つ」である。これに意義を唱える向きはなかろうが、残念ながら実践へのハードルはかなり高い。究極的にはそこを目指しつつも、日々のバトルへの対処を余儀なくされる経営者が大半であるのが現実。そうした経営者達が、リーダーとして自らに求めるべきこととして、孫子は『将者智、信、仁、勇、厳也』(将というものは、智、信、仁、勇、厳なり)として、5つの要素をあげている。
「智」は、状況を読む力や先見力を持つこと。適切な戦略を立て、事業の成功率の高い方向へ舵を切る為に必要である。前回のテーマとした洞察力も含まれよう。当然にして情報分析力の発揮もありきである。
「信」は、社員をはじめ取引先等からの信頼を得る為、約束を守る信義心を持つこと。
「仁」は思いやりであり、孫子では他書でも「部下を我が子をように可愛がるやさしさを持て」と説いている。
「勇」は不確実な状況下でも果敢に判断を下す決断力。
そして「厳」は規律を守るために信賞必罰をもって部下に臨む厳しさ、と解釈される。
興味深いのは、一見すると矛盾しそうな「厳」と「仁」が両立していること。これはつまり、状況に応じてそれぞれを使い分けるバランス感も問われるということである。そのバランスを保つことで、相手の「信」が醸成され、相互に「信」を持つ土壌があってこそ、「厳」や「仁」がその効果を発揮する。ん〜奥深い!
では経営の現場で「厳」と「仁」をバランスを持って実践するために何をすべきか。まずは、普段から部下の事を良く知り理解すること。その為の「仕組み」のついては前回、言及した。さらには、周りにもリーダー自身の事と考え方を理解させることも求められる。絶え間ないコミュニケーションがその基礎となるが、そこには「共通言語」が欠かせない。そして「共通言語」を構成する要素として経営理念、企業カルチャーあるいは企業ブランドなどが重要となることは論を待たない。
余談だが、冒頭で触れた通り、ここで知恵を拝借した賢者達は、前回と今回で2000年以上の時と7,000km以上の距離を隔てている訳だが、驚くほどにその主張には相通じる概念や精神が見て取れる。 これは時と場所を問わず、人と組織の本質が不変であること、それらに根差し、それらの向上に寄与した金言には諸所の違いを超えた普遍性があることの証しなのであろう。
※孫子・プロフィール
孫 武(そん ぶ 紀元前535年? – 没年不詳)は、中国古代・春秋時代の武将・軍事思想家。兵法書『孫子』の作者とされており、兵家の代表的人物。斉国出身。字は長卿。孫臏の先祖。「孫子」は尊称である。
「戦わずして勝つ」という戦略思想、戦闘の防勢主義と短期決戦主義、またスパイの重要視など、軍事研究において戦略や戦術、情報戦など幅広い領域で業績を顕し、リデル・ハート、毛沢東など、現代の軍事研究者、軍事指導者にも重要な思想的影響を与えた。その軍事思想は航空技術や核兵器など、古代に想定できなかった軍事技術の発展した数千年後の現代においても有効性を失わず、今なお研究対象とされている。(wikipediaより)
■筆者プロフィール
鈴木一秀
コンサルタント
■略歴
横浜国立大学 工学部卒
University of California Los Angels校及びNational University of Singapore 経営大学院修了(MBA)
モルガンスタンレー証券など日・欧・米系の投資銀行で約20年勤務
その後経営コンサルタントとして独立
■資格
中小企業診断士
証券アナリスト