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機会(タイミング)

2016/02/03(最終更新日:2021/12/09)

ビジネスマネジメント

昨今、金融市場が荒れている。この原稿を準備している間にも、日銀のマイナス金利導入で急に円安に振れた。2つのスーパーパワー、中国と米国の景気先行きへの不透明感がその背景に挙げられている。中国は、経済成長の減速は所与としても、そのスピードと金融市場への影響度が想定しにくいこと。当面、唯一のリード役を期待される米国は、大統領選の不透明感は低めとしても、継続的利上げを目論むFRBの手腕に対する懐疑的な向きが増えていることだ。しかし根っこにあるのは、長年に渡る世界的超金融緩和で、政策余地が限定されていることへの不安ではないか。
今回の市場変動でも多くの日本企業の関心事は原油市場とドルの下落であろう。各企業への影響はその事業構造によって様々だが、マクロ的には共に日本全体にとってはプラスと考える。為替の影響について異論をお持ちの向きも多かろうが、ここはそれについて論ずる場ではなく、置いておきたい。
では各々の企業もしくは個人が、どう対応すべきか。賢明な方々はすでになんらかの対応をされていると察するが、こうした市場変動のタイミングを機会として捉えて適切なアクションを起こしたいところだ(考慮の上で「何もしない」と判断することも含めて)。
但し、日々変動する市場を目の前にすると、いつが最適なタイミングなのか、見極めるのが非常悩ましいのも事実だ。

ところでタイミングは、事業そのものを左右する重要な要素でもある。
そうした例には枚挙に暇がないが、一例として(ゆくゆくは死語になりそうな)レンタルビデオ業界を挙げたい。発祥の地アメリカでの現在の旗手は、映画等のストリーミング配信サービスをリードし「FANG」の一角にまでなったNetflixだが、以前の市場席捲者はBlockbusterであった。だが顧客とのコンタクトポイントが、来店から配送そして配信と変遷する中、配送、配信へのシフトの機会を捉えたNetflixに対し、後手に回ったBlockbusterは結局、倒産の憂き目にあう。Netflixのスピード配送や推奨機能、さらにオリジナルコンテンツなどの差別的付加価値も忘れてならないが、事業モデルの切り替えのタイミングも両社の明暗を分けたといえよう。余談ながら、Netflixは萌芽期に何度かBlockbusterへの事業譲渡を働きかけたが、Blockbuster側が断っていた。当時の提示額は、現在の時価総額の0.2%にも満たないという、皮肉なものである。
ちなみに日本市場には、Blockbusterをかの藤田田氏が持ち込んだが、結局はゲオへの事業譲渡で市場から撤退している。その市場参入時期は、TSUTAYA(1980年代)、ゲオ(1990年代)より遅れた2001年であり、某ファーストフード市場開拓者として大きな成功を収めた同氏も、ここでは黄塵を排したようだ。

 

経営においては、市場参入時期だけでなく、多方面でタイミングを問われる局面が訪れる。人材採用や組織改革の実施時期や、個々の人材の登用時期も然り。各社員の成長段階に合わせた配置や職務・権限所与がその人材を戦力化し、その結果と組織も強化される。事業にも、企業にも、そして人にもライフサイクルがあり、それぞれステージに合わせたタイミング良い施策が必要である。事業や企業経営の機会を的確に捉えるには相応のセンスと洞察力が問われる一方、人材については対策の余地が大きいことは朗報といえよう。具体的には体系的な人事システムを整備し、定常的な人事管理を実施することで、適時な適材適所の実現に近づく。

 

金融市場に話しを戻す。前述の通り市場における適切なタイミングを捉えるのは難しい。「円高はどこまで進むか」とか「原油価格は底値が幾らか」などは所詮予測不能とわきまえ(これを書いている矢先にも、日銀のマイナス金利導入で円安に振れているなど、実際、正確に市場予測できる人は皆無といってよい)、自社にとっての相対的効果の有無で判断するできであろう。
例えば、事業計画で想定していた海外からの仕入れコストや輸入為替レートに比べ、現在の市場水準で取引することが、有意な効果をもたらすようなら、市場での”雑音”に惑わされることなくアクションを起こしたい。

 

ちなみに足元では代表的先物市場CMEでの建玉では、原油では売り、円では買いに傾いている模様だ。これは各々、すでに売られ過ぎ、買われ過ぎの水準に達していることを示唆し、この水準で仕入れておけば、長い目では報われる可能性が高いのではないか。
蛇足ながら取引の判断は経営同様、あくまで自己責任でお願いしたい。

 

 

 

■筆者プロフィール
鈴木一秀
コンサルタント

■略歴
横浜国立大学 工学部卒
University of California Los Angels校及びNational University of Singapore 経営大学院修了(MBA)
モルガンスタンレー証券など日・欧・米系の投資銀行で約20年勤務
その後経営コンサルタントとして独立

■資格
中小企業診断士
証券アナリスト

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