周囲のノイズに惑わされず、ビジョンを追い続けるために
2015/09/14(最終更新日:2021/12/10)
<今月のテーマ>周囲のノイズに惑わされず、ビジョンを追い続けるために
今回は、9月5日の新聞を読み、感じたことを記した自分自身の
メモをご紹介しそこから学んだことを共有したいと思う。
パソコンのメモに残したそのままの文章を以下に載せておく
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朝日新聞9/5より
ファッションデザイナー 「無用」 馬可さん
中国のデザイナー。手がけたブランドは女性の支持を集める。
その後、質より量や規模を求める会社の路線から一度離れることを覚悟する。
その後中国の僻地を旅し、服とは何か。を見つめ直す。そこで見た
先祖伝来の服を着る人々、
昔から作ってきた服を作り、着る
それだけ
市場は関係無い
ここから、衣服に対しての考え方を改め、いままでとは違う服作りを始めた
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ここからの学びは、そのビジネス・商品の素晴らしさは、何によって評価されるのか?というところである。アート(感性や世界観の一致)か数字(市場規模や売上金額)か、人によって別れる。ここでは、どちらがいいのかという点を決めたいわけでは無いことにご留意いただきたい。
この馬可さんのストーリーは当時、中国国内にてアパレル業界が育つ以前の状態に、世界に通用する中国オリジナルブランドを作る、という想いから始まったものである。しかし、最初に作ったブランドでは、そのデザインが映し出す世界観が女性の支持を受け急成長したものの、徐々に質よりも規模の拡大を目指すようになってしまう。そこに疑問を感じた馬可さんは自ら作ったその会社を離れたのだ。
▼評価を下すのは他者か、自分か
数字を重視する人間にとっては、市場の評価が大事だ。自分たちのやっていることは売上の金額や利益によって評価される。より多くの人に認めてもらい、評価される商品やビジネスが大事になる。評価を下すのは外部(市場、消費者)なのだ。
その一方で、アートという観点から事業作りをしている人は自分がもつ世界観、理念の実現を目標とする。そのため、美術家の中に、10人いたら10人に評価される作品を作りたいのではなく、気に入ってくれる人が1人でもいい、なんなら0人でも自分が満足できればいいというような感覚を持っている人がいるように、内部(自分自身)に評価軸をもっているのだ。
この点で、外部からの評価は高まっているものの、自らの進む方向に矛盾を感じた馬可さんは自らのブランドを離れる覚悟をした。
▼想い・ビジョンから始め、周囲を巻き込むこと
この感覚を、whatやhowのように、製品やテクノロジー、もしくはアイデアやビジネスモデルから始まる経営者とwhyという感覚や理念から始まっている経営者に移り変えてみたい。
whatやhowから事業を興す人の中にも、身に着けた特定のスキルや知識、テクノロジーを生かすことにより、成功を上げる人は多くいる。
しかし、Appleやザッポスなどwhyから事業を始めた人のように、実現したい世界があり、それに向かってスキルやテクノロジーなどを学んで生かし、必要に応じて仲間を増やして事業に立ち向かっていく人の方のほうが新たな世界を作ることができている。
例を一つあげる。ドラッカーが著書『マネジメント(下)』で紹介した三人の石切り工の昔話である。この昔話の中では、三人の石切り職人が登場し、それぞれ「今何をしているんですか?」という質問に対して、
一人目は「これで暮らしを立てているのさ」と答え、
二人目は「国中でいちばん上手な石切りの仕事をしているのさ」と答え、
三人目は「大寺院をつくっているのさ」と答えた。
という内容である。
この話からするとwhatやhowをベースに考える経営者は一人目、二人目の石切職人に相当し、一人目は自らの職務に忠実で、二人目も自分の腕(技術)に自信がある。この二人のような考え方は、必ずしも間違いという訳ではなく、実際二人のような生き方をしている人も、各々の成功を得ていると言える。それらと比べた場合、三人目の石切職人は、whyをベースに理想の達成をゴールに始める経営者で、世の中にはあまりいない。成功している数が少ないのかもしれないし、そもそも他者から評価されなくても良いから、経営者や起業家にはならないのかもしれない。しかし、このような人はそれぞれのゴールの向こうに実現したい世界も想像している。そのため、ビジョンメーカーとしてより強いモチベーションを持ち、加えてより多くの人々を巻き込んでいく力を持つ。
例えば、ザッポス のような例もネットを介して靴を買うという行為に対し、自らも不便を感じたことから始まった。一見利益の追求とは矛盾したコミュニケーションや顧客サービスの重視から、根強いユーザーを獲得しブランドを築いた。
▼最後に
いくつか、例を混ぜたため、最後にまとめをして締めくくりたいと思う。おそらく、多くの経営者は自ら強く感じた理想の世界観から事業をスタートしているだろう。しかし、事業を興す人にとって、規模や利益を追求することは、その人の目指す世界の実現にとって妨げになりかねない。これらによって、自らの想いとは別の方向に進んで行ってしまった経験を持つ馬可さんのような人が他にも数多いのではないか。そんな時は、彼女が中国の僻地に足を運び、伝統と服に込められた想いを学び直したように、一度自らの理念、信念に関して振り返ることが必要となるだろう。
また、今現状のスキルや知識から事業を始める事は、堅実な方法かも知れないが、三人目の石切職人のように誇りをもって理想の実現に向けて働くのにはつながらない。三人目の石職人やザッポスのトニー・シェイ氏のように、ビジョンを追い求めるとともに、周囲に伝え人々を巻き込むことも新たな世界を打ち出すためには不可欠であることを忘れてはならない。
現在、馬可さんは現在「無用」というブランドを通じて伝統の織り方や染め方を通じ中国精神を世界に広め、また中国の習近平国家主席夫人のデザイナーとして、国内および世界から注目を浴びる人物となった。
編集長プロフィール
加藤啓太(かとうけいた) 法政大学キャリアデザイン大学2年生。
1年間大学を休学し、2013年6月からイマジナにてインターンとして活動。2014年4月から復学している。イマジナでは主に資料作成やHotHRメルマガの記事を作成している。学生としてアジア最貧国の一つである東ティモールの支援を行うNPO法人LoRoSHIPで活動を行っており、「タイス」という現地伝統の織物を生産するコミュニティーの支援活動と交流活動を行う。今年の夏に2度目の東ティモール渡航を実現。積極的に海外支援に取り組んでいる。