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神奈川県横浜市に本拠地を置くプロ野球チーム、横浜DeNAベイスターズ(以下、ベイスターズ)。2012年に親会社がDeNAに変わった時は赤字だったが、以降イメージ改善や新たなファンづくりに取り組み、観客動員数は買収前と比べて増加率84%増という驚異的な回復を見せた。今回は横浜DeNAベイスターズがどのように人々の心を掴んだのかブランディングの観点から考えていきたい。
閑古鳥が鳴いていたベイスターズの本拠地、横浜スタジアム
DeNAが買収する以前、ベイスターズの本拠地である横浜スタジアムは観客が入らず、「野球を応援する場所」でしかなかった。ベイスターズが勝てば嬉しい気持ちで帰れるが、負ければいやな気分で帰ることになる。つまりスタジアムに来るファンへの価値提供の大半を勝利に依存していた。仮に強いチームと言えどプロ野球チームの勝率は6割行くか行かないか。ましてや当時のベイスターズは下位の常連である。つまり当時横浜スタジアムに来ていたファンは、およそ半分の確率で沈んだ気持ちになって帰っていたのだ。
エンタメ価値のある空間を提供するということ
転機となったのは2012年のDeNAによる買収である。球団社長に就任した池田氏を中心に、横浜DeNAベイスターズとして生まれ変わったチームは、ブランディング戦略に着手した。ベイスターズが最初に定めたのは戦略ターゲット、ペルソナとコンセプトだった。では一体それらはどんなものだったのか。それは「アクティブサラリーマン層」に「球場で楽しむ時間を提供する」ということだ。具体的には20代後半~30代で、週末には家族や仲間とバーベキューやフェスを楽しむような人たちをターゲットに定めた。そしてコアな層よりは、野球そのものに興味が薄い彼らに対し、「球場で過ごす時間」に付加価値を付け、アピールした。つまり球場を「野球を楽しむ空間」ではなく、「仲間や家族と過ごすエンターテインメントの空間」にした。イニング間の時間には音楽や演出を施し、試合後には花火を打ち上げる。さらには、平日仕事終わりの時間のナイトゲームでは、ビール半額キャンペーンを実施した。ビールに関してはアクティブサラリーマンというペルソナと親和性が高いとにらみ、オリジナル醸造ビールも手掛けた。そのコンセプトは
「目の前に広がる空とグラウンド、吹き抜ける浜風と歓声。スタジアムで飲むビールはうまい」
というものだ。ビール一つとってもペルソナとブランドコンセプトを意識し、それとマッチするサービスを提供していて、徹底した方向性の統一が見て取れる。そのような施策を実施し、横浜スタジアムでの体験に、野球観戦やそれの勝ち負けにとどまらない感動を与え、価値提供をしたことが、ブランディング戦略の成功に繋がった。
参考記事:コロナ禍が続く今こそ、ブランドづくりを
横浜という街に根ざしたブランド戦略
ベイスターズのブランディング戦略をそれだけでではなかった。もう一つのブランディング戦略の柱として立てられたのが、横浜という街により密着するという事であった。プロ野球チームというのは得てして地域に密着したものだ。しかし、ベイスターズは当初それができておらず、横浜というお洒落で先進的なイメージに対し、当時のベイスターズのイメージはそれとはかけ離れていた。そこで
・ベイスターズのカラーを海をイメージした鮮やかな青に変更する
・ホームランの時には汽笛を鳴らす
・「I☆YOKOHAMA」というキャッチフレーズを選手に叫んでもらう
といったさまざまな策を講じ、横浜の街のブランドイメージを見事得る事に成功した。さらには横浜スタジアムの最寄り駅である関内駅や日本大通り駅からの道のりに、ベイスターズの装飾をし、駅を出たところから前述した価値のある体験が始まるようにした。
おしゃれで楽しいと思われるブランドイメージの獲得に成功したベイスターズ
これらの策を講じ、ベイスターズは赤字状態から5年間で50億円売上を増加させることに成功した。昨今のコロナ禍においても今までの策に加え屋外のイベントなどを開催し、多くの球団が苦しむ中、2020年度は5億円の黒字を確保している。この数字も横浜DeNAベイスターズが8年間、地域に密着し、さまざまな価値を提供してきたからこそであろう。今後ともベイスターズはさまざまな斬新な策でファンを楽しませてくれるに違いない。
ベイスターズが行ったブランディング戦略は他の企業も学べるところが多いように感じる。ブランディング戦略においてコンセプトを固め、それをペルソナに合致する人々に浸透させてファンを増やすことは、すべての企業に必要なことと言ってもいい。特に現代の情報化社会においては、競合と技術的に差をつけてもすぐに追いつかれてしまう。競合に負けないためにはベイスターズのようにブランド力を付け、ファンを増やしていくことが必須だ。
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