テレワークの時代だからこそ、インナーブランディングを
新型コロナウイルスが猛威を奮っている。出口の見えない状況のなか、4月に入り、新しい期が始まった。企業はオンラインで入社式をしたり、テレワークを徹底したりと、その動きは様々だ。個と会社の関係が変わりつつあるなか、組織としてのつながりと力を高めるには、どうすればいいのだろうか。
これまでに類を見ない入社式が、次々に実施される
今年度入社した社員のスタートは、これまでに類を見ないほど特殊と言っていいだろう。新型コロナウイルスの感染が拡大するなか、政府は密閉空間、密閉場所、密接場面の「3つの密」を避けるよう呼び掛けており、それに応じて企業も柔軟に対応している。
先日、多くの企業で入社式が行われた。通常の式典では大勢の人間がひとつの空間に集まるが、今回においては感染を避けるために、様々な対策がとられたようだ。
例えば日本IBMは、グループ全体で800人以上の新入社員を対象に、オンラインで入社式を実施。自宅から自前のパソコンやスマートフォンで参加できる体制を整えた。日立システムズは4月1日に入社手続き式を敢行。通常通り新入社員を自社施設に集めたのだが、大部屋ではなく複数の部屋に分散することでリスクを防いだという。
企業によっては式を行わなかったり、さらには「指示があるまで出社せず自宅待機する」といった取り組みを行ったりしているようだ。
テレワークなどオンラインの交流が増えるなか、組織として一つになるには
既存社員の働き方が大きく変化しているのも、ここ数ヶ月の特徴だろう。テレワークを導入する企業が増え、モニターを通じて自宅で取引先と商談をしたり、複数人でミーティングをしたりしている企業も多いのではないだろうか。
思わぬ形で根付きつつあるテレワークだが、生産性向上が期待される一方、「朝から晩まで家のなかにいるため、気分転換ができない」「何日も続けて人に会わないとストレスがたまる」といった意見も存在するようだ。これがどのくらい、企業の生産性向上に寄与していくかは、まだ未知数だろう。
このように、社員と組織を取り巻く環境が大きく変化しているが、そのなかで組織としてどのように統一性を図っていくかという、とても重要なテーマが生まれつつある。
前述の新入社員に対する措置に関しても、仕方がないとは言え、オンラインでのやり取りや自宅待機があまりにも長引いてしまうと、組織への帰属意識がなくなり、この会社で働く目的や意味に関して見失ってしまうこともあり得る。それは既存社員も同様だ。
生産性向上、また効率化への取り組みは、企業と個人の自由度を高めるが、組織として一枚岩になる機会も奪い去ってしまうのだろうか。
組織を一つにする、インナーブランディング
働き方を時代に合わせて変えつつも、どのようにして組織としての強さを担保するか。そこで一層重要になってくるのが、インナーブランディングだ。
インナーブランディングというと、「理念の確立と浸透」「行動指針やマニュアルの作成」を行うと思われがちだが、それだけではない。
もっとも大切なのは、なぜ企業がこのような理念を掲げているのか。そして、その理念をどのように自分の日々の仕事と結びつけていくのかを一人ひとりがきちんと知ること。そして、掲げられた文言を追うだけでなく、その背景を知り、共感し、自身がその体現者であることを自覚すること、という点なのだ。
インナーブランディングに注力し、新たな飛躍を実現したANA
インナーブランディングに力を入れ、成果を生み出している事例として、ANAが挙げられる。
2012年、ANAは <ANA’s Way> という、グループ行動指針を発表した。ANAの採用サイトでは<ANA’s Way>について、「ANAグループ経営理念・経営ビジョンの達成に向け、グループ全社員が持つべき心構えや、取るべき行動の礎となるもの」と紹介している。
こちらの<ANA’s Way>は、社長直轄のプロジェクトチームによって作られたものだ。社員が社長とともに、サービスやブランド、そして顧客にとってどんな価値を提供していきたいかを議論し、考えたもの。それが<ANA’s Way>だ。
<ANA’s Way>のキーワードは、「あんしん、あったか、あかるく元気!」。日々、ANAを利用してくれる乗客に対して、自分たちは何を提供しているのか。どのような存在であるべきかを、この言葉に込めた。
それで終わりではない。<ANA’s Way>を全社員がきちんと体現していくため、同社では歴史展示施設「ANA Discovery Center」で歴史を積極的に学び、またどんな未来を作っていきたいかを語る「ANA’s Day」研修を開催。またANA’s Wayを実践したエピソードや事例を広く募集し、選考・表彰する「ANA’s Way Awards」を実施したりすることで、想い・理念の浸透を図っている。
メディアで度々、ANAの成長や顧客満足度の向上に関して取り上げられることがあるが、その背景にはインナーブランディングがあることは明白だ。その裏には全社をあげた地道な取り組みがある。
まとめ
働き方や環境の変化で、個と会社の関係は刻々と変化していっている。しかし、だからといって組織としての統一がなくなってしまっては意味がない。働き方が変わっても、自社だからこその価値を体現するためには、組織としての強さが必要なのだ。
環境、そして時代は大きく変わっている。今だからこそ、組織としてのあり方や提供価値を見直していきたい。