【第12弾】どの国でも通用するブランディングの秘密【新書籍発刊記念特別コラム】
2020/08/27(最終更新日:2021/12/10)
「想いを言葉で表せば、必ず通じる」
ほとんどの日本人がそう思って生きているのではないでしょうか。日本企業のコマーシャルに「言葉に頼ったもの」が多いのは、そのためだと考えられます。
しかし、その「日本における常識」を少し疑ってみる目線も重要です。
たとえば、あなたが海外に行ったと考えてみてください。外国語が堪能な人を除けば、外国語で伝えられるのは、思っていることのせいぜい2割程度でしょう。さらに言えば、文化や習慣の違う人間に、細かいニュアンスまで正確に伝えることは、ほぼ不可能だといっていいのではないでしょうか。
日本に来た外国人も、日本人と同じレベルで日本語を理解するのは困難です。たとえば、日本人は会社でも普通に「お疲れさま」という言葉を使いますが、それは相手が疲れているようだからそう言っているわけではありません。言ってみれば、単なる「会話の潤滑油」のようなものだということを、日本人なら誰だってわかっていますが、言葉そのものだけを見て、それを判断することは難しいはずです。
●言葉を信頼しすぎるとブランディングはうまくいかない
「言葉では想いのすべてを伝え切れない」ということは、海外の人は感覚的にわかっているようです。そのため、彼らは「伝える」ということに対して、ものすごく自覚的です。日本人にとってはどこか慣れないアメリカ人のオーバーアクションも、アメリカという多民族国家で暮らすには、必要不可欠なスキルなのです。
さまざまな人種が混在する国では、自分の意思を伝えられるかどうかが、命にもかかわってきます。相手が何を言っているかわからないからと、ただ曖昧な微笑を浮かべて突っ立っていたら、「怪しいヤツだ」と判断されて警察に逮捕されるかもしれないし、最悪の場合は「敵」とみなされて撃たれてしまうことだってあります。
その点、島国である日本では、どこに行っても日本語が通じますし、みな同じような教育を受け、文化や歴史も共有しているので、誤解が生じにくいと言えます。だからこそ、「阿吽の呼吸」や「以心伝心」ということわざが成り立つのです。
それはそれで素晴らしいことではあるのですが、それを前提にブランディングやPRを行うと、どうしても「大事なことは言葉にして伝えればいい」という発想になってしまうのです。
同時に、「相手が何を考えているかを察知するために場の空気を読んだり、言葉以外の方法で自分の意思を伝えたり」といった、海外なら子どものころに誰もが身につける能力が、日本にいると育たないのです。そうした人たちがコマーシャルをつくり、ブランディングやPRを行っていても、タフなコミュニケーションに慣れた人たちになかなかかなわないのは当たり前です。
●「平均点」は目指さなくていい
ブランドイメージをつくる際、最も避けるべきなのは、「可もなく不可もなく」という方向です。
「どの分野も平均点」という人は、あまりモテない場合が多いのです。同様に、「無難な企業」というイメージを持たれることは、安心感は与えられるかもしれませんが、お客さんの目には決して魅力的に映りません。
ですから、「平均点」は目指さなくていいのです。その代わり、何かひとつ「突出した部分」をつくります。そうすると、そこを見て、人は勝手に「ほかもすごいに違いない」と想像してくれるのです。
たとえば、バスケットボールがずば抜けてうまい男性がいるとします。そうすると、周囲は勝手に、
「あんな素早いプレーができるのだから、足も速いのだろう」
「その上ジャンプ力もあるから、幅跳びや高跳びの素質だってあるに決まっている」
「野球やサッカーも一定レベル以上にできるに違いない」
とイメージをどんどん広げていくのです。
ここで大事なことは、彼がスポーツ万能だと思われて注目を集めるのに、本当にスポーツ万能である必要はないというところです。これはブランディングの基本にして、テクニックのひとつでもあります。
「このアーティストをテレビコマーシャルに起用するなんて、センスいいね。きっとこの会社の製品、イケてるはずだよ」
こう思わせることができたら、ブランディングは合格点だといっていいでしょう。
●ブランドイメージに近づける努力
もちろん、いくら企業が魅力的な要素を対外的にアピールしても、それがウソだったら逆効果です。今の時代、そうしたことはすぐに露呈し、マイナスのイメージになって跳ね返ってきます。
ただし、「現在」を切り取ると虚偽に見えるかもしれませんが、「今を起点に打ち出したイメージ」に近づいていくなら、それはウソとは言えないのではないでしょうか。
われわれは「会社のビジョンをつくる」というプロジェクトを行っています。「20年後、30年後に自分たちの会社は何をつくり、どんな分野で社会に貢献しているか」を想像して、ビジョンマップをつくったりビジュアル化したりするのです。
中には「そんなに先のことはわからないし、もしそれを会社が発表して実現できなかったら、ウソをついたことになってしまう」と、やりたがらない企業もあります。そうした企業には、次のように説明するようにしています。
「未来は誰にも見えません。だから想像するんです。こうなりたいと想像するから、『それを形にするにはどうしたらいいか』という道筋がはっきりするのです。人は想像したものしか形にできません。想像もせずに、いったいどんな価値を世の中に提供できるのでしょうか」
たとえば、「お客さまのことをいちばんに考える会社」というブランドイメージをつくってはみたものの、会社の中をよく見たら、イメージにそぐわないところがいくつも見つかったとします。そうであれば、そこから全社一丸となって努力し、本当に「お客さまのことをいちばんに考える会社」になればいいのです。