【第4弾】多くの会社が勘違いしている、顧客への「伝え方」【新書籍発刊記念特別コラム】
2020/07/14(最終更新日:2021/12/23)
●多くの会社が勘違いしている、顧客への「伝え方」
あなたの会社の製品や、会社の魅力は、お客さんに対して十分に伝わっているでしょうか。
ブランディングという視点で考えたとき、製品の良さを伝えるのは難しいものです。同じように、人の内面も、周りには思ったより伝わりにくいものです。
いくら「私は誠実で、思いやりがある人間です。あなたのことを幸せにすることができます」と頭の中で考えていても、その声は相手の耳には届きませんし、誰も振り向いてはくれません。しかし、現実にはこういう話をしても、「いや、そんなことはない。中身や内面は必ず外ににじみ出て、相手に伝わるものだ」という自説を曲げない人も、意外なほど多いものです。「いい製品さえつくっていれば、売れるはずだ」と信じて疑わない経営者も、考え方は同じです。
●中身をどうやって伝えるかがブランディングの鍵
何もせずに、相手が自分のことを理解してくれるなどということはありません。100メートルを9秒台で走れるようなスプリンターなら、会社でスーツを着て仕事をしていても足の速さは隠しきれず、自然と誰もが知るところになるでしょうか。あるいは、イタリア語が得意な人は、いかにもイタリア語が話せそうな顔つきになって、周りに気づかれるのでしょうか。
そんなはずはありません。
誰かに「これを知ってほしい」「このことだけはわかってほしい」と思うなら、どうやったらそれが伝わるか必死で考えることが必要なのです。とくに企業の場合、「自分たちの製品は素晴らしいのだから、店頭に並べておけば、お客さまもわかってくれるはずだ」などと言っていたら、アピール上手な海外のライバルたちに、おいしいところを全部持っていかれてしまいます。それはあまりにもったいない話です。
大事なのは中身だけではないのです。中身がいいのはもはや前提で、それをどうやって伝えるかが、いまの時代においては、より大事なことになってきています。この話も、多くの会社で、理解してもらうのに意外と時間がかかります。
●伝えているつもりなのに伝わらないのはなぜか
「自社や自社の製品の魅力をお客さんに伝えること」が重要だと考えていない経営者はいないはずです。そして、たいていは、伝える努力もきちんとしていると思っているのではないでしょうか。
たとえば、企業理念や社長のあいさつから、売上の推移、製品紹介、沿革、さらには福利厚生まで、余すところなく詰め込まれている会社案内。これを読んでもらえれば、自分の会社がいかに信用できて、つくっている製品がどれだけ信頼に足るものか、誰だって理解できる。そういうツールを用意しているのだから、努力していないわけがない、というのです。会社案内に加えて、最近は、自社のウェブサイトにも力を入れている企業も増えてきています。中には、広告代理店やデザイン会社の「アドバイス」に忠実に従ったのか、「こんなところになぜこんなにお金をかけるのだろう」と首をひねるような豪華なものもあります。
では、これらの努力は、きちんと結果につながっているでしょうか? 問題はそこにあります。
会社案内を手に取り、入念につくられた「社長あいさつ」を腰を据えてじっくり読めば、社長の事業に対する想いや経営方針、会社に対する思い入れなどは理解できるでしょう。さらに、「会社の沿革」をつぶさにたどれば、創業から数々の風雪に耐えて現在に至る会社の成長の軌跡も正確に知ることができます。
ただ、いったい誰がそれを読んでくれているのかは、考える必要があります。
●成果につながるブランディングの「仕掛け」を用意する
アップル創業者の故スティーブ・ジョブズや、ソフトバンクの孫正義会長のように、知名度があって、なおかつその発言に影響力がある経営者ならまだしも、たいしてよく知らない会社の歴史や、顔も見たことのない社長の経営に対する想いを、進んで読んでみようという人は、めったにいません。
せいぜい取引先の金融機関が、融資を判断する際の材料のひとつにするか、入社希望の学生が面接対策としてしぶしぶ読むのが関の山だと言えます。
だからといって、「お金をかけて会社案内やウェブサイトをつくるのは無駄だから、やめたほうがいい」と言いたいわけではありません。そこに、胸を張って自慢できるような、会社や社長に関する情報を網羅したのであれば、「たくさんの人にそれを読んでもらう工夫」や、「読みたくなる仕掛け」をつくればいいのです。
ツールはつくったので、これを読めばどんなにいい会社かわかるはず、といった態度では、お客さんの「好き」を集めるのが難しいのは間違いありません。
ですが、優秀な企業がそこにさえ気づけば、もっと結果につなげられるはずなのです。