【第3弾】多くの日本企業でブランディングがうまくいかない理由【新書籍発刊記念特別コラム】
2020/07/10(最終更新日:2020/09/30)
●多くの日本企業でブランディングがうまくいかない理由
1990年代前半にバブルが崩壊して以降、日本経済は長いデフレに突入し、いまだに低迷から浮上できずにいます。
個々の企業を見ると、技術力は世界でも群を抜いていますし、人材の質も決して低くはありません。しかし、そうした日本の企業や、日本企業のつくる製品が、海外できちんと評価されているかというと、そうとは言い切れません。海外の方と話をしていると、日本企業はせっかく実力がありながら、それをきちんと世の中に伝えきれていないと思えることが多々あるのです。
●日本人はブランディングが下手?
その一因は、「ブランディング」や「PR」にあると考えられます。
もちろん、日本企業がこれらを疎かにしているというわけではありません。どの企業も、それぞれ一生懸命ブランディングやPRに取り組んでいるはずです。ただ、残念ながらそのやり方が、海外の企業に比べると圧倒的にうまくないのが現実なのです。優秀な人たちが集まって、素晴らしい製品をつくっているというのに、製品や会社のよさがうまく伝えられていないのは、非常に残念なことではないでしょうか。
しかし、それは私たち日本人にも責任があるのだと言えます。多くの日本人はいまでも、市場で求められているのは「社会的に信用のある企業が提供する、技術の粋を集めた完成度の高い製品だ」と盲目的に信じています。これこそが諸悪の根源になっています。
こう言うと、「それのどこが悪いんだ」と憤る人もいるかもしれません。しかし、そういった考え方は、決して世界のスタンダードだとは言えないということを知っていただきたいのです。
たとえば中国や韓国では、自社製品を市場に投入するにあたっては、機能や性能もさることながら、それ以上に「見た目」や「手触り」に気を使っているメーカーが多数あります。あるいは、たとえ開発費が減ることになろうとも、製品のデザインやPRのための予算は削りません。中小企業であっても当たり前のように、ヨーロッパの一流デザイナーにパッケージデザインを任せたり、世界の主要地域で同時にプロモーションを行ったりしているのです。
このような海外メーカーは、「どうしてもこれを買いたい」という人々の気持ちを戦略的に高めていくのがうまいので、結果的に機能や性能では日本製にかなわなくても、売上でははるかに上回るのです。こうした状況は、日本企業にとって非常にもったいないと感じないでしょうか。
●日本企業のブランディングの問題点は「まじめすぎること」
日本の多くの企業のブランディングやPRがうまくいかない原因は、実ははっきりしています。それは「まじめすぎること」「おりこうさんすぎること」だと、われわれは分析しています。
売れるというのは本来、お客さまが製品に関心を持ち、それが興味に変わり、好きになる。そして、お金を出してでも手に入れたいという気持ちになる、ということのはずです。
ところが、多くの日本人はこう考えてしまうのです。
「いい製品さえつくっていれば、黙っていてもお客さまはその製品を好きになって買ってくれるだろう」
「そのうちの何割かは『これ、ホントにいいよ』と口コミで誰かに伝えてくれるだろう」
「だから、とにかくまずは額に汗して、どこにも負けない製品をつくることが大切だ」
もちろん、まじめであることが悪いわけではありません。勤勉で何ごとにも手を抜かないという国民性は、日本人の強みであり、競争力の源泉でもあります。いい製品を作ろうという志は素晴らしいものです。ただ、「おりこうさん」にしていい製品をつくっているだけでは、なかなか報われないというのも事実です。
そして、さらに問題なのは、「お客さまはこう動いてくれるだろう」「ここまでやれば十分だろう」という「だろう」を根拠に、製品を心から好きになってもらう努力を中途半端に終わらせてしまう企業が多いということなのです。
●「人に好かれる」メカニズムを意識する
あなたが誰かに好意を持ってもらうためには、何が大切だと考えますか?
企業が製品を売るのも、一人の人間が好きな人の心をつかむのも、メカニズムは同じです。だからこそ、自社の製品がどうしたら売れるかを知るために「どんな人がモテるか」を考えてみるのは重要なことです。
「大事なのは中身に決まっている。見かけなんて関係ない」と言う人は、おそらくモテないでしょう。たとえ内に優れた才能を秘めていたとしても、身だしなみを一切気にせず、一緒にいる相手の気持ちを考えないような人が、人から好意を寄せられるとはなかなか思えません。自称「誠実で優しくて思いやりがある」人もそうです。それだけ聞くと、つき合うにはよさそうに思えるかもしれません。でも、だからモテるかといえば、話は別です。
人の内面というものは、意外に伝わりにくいものです。とくにその人の「秘めた性格」や「人間性」というものは、つき合ってみてようやく見えてきます。そうしたものは、ある程度、距離が近くならないと、相手に伝わらないものだからです。
さらに言えば、つき合う以前に、相手に「自分に関心を持ち、興味を抱き、好きになってもらう」ことが必要で、このハードルはかなり高いと言えます。それだけに、「人に好かれるメカニズム」を知ることができれば、他社と比べても優位に立てるということです。