インバウンド消費とブランディング
2020/01/23(最終更新日:2021/12/09)
インバウンド消費とブランディング
インバウンド消費が伸びている。インバウンド消費とは、訪日外国人観光客による日本国内での消費活動を意味する観光業界特有の用語であったが、今では一般的なビジネス用語としてしっかり定着した。
現在、訪日外国人の観光客数は右肩上がりで、2016年には2400万人を突破。2006年は730万人程度だったため、たった10年で4倍近く伸びていることになる。
日本はもともと、日本国内に訪れる外国人観光客より、日本人が海外に赴く割合の方が多かった。その影響もあり、外国人が日本でお金を使うよりも、日本人が外国でお金を使うことの方が多かったため、これらを足すと赤字の状況にあったのだ。
しかし、2003年より観光庁を中心にビジット・ジャパン事業(訪日旅行促進事業)がスタート。不均衡は一気に改善へと向かい、現在に至るまでの訪日客は伸び続けている。観光庁はこのままの勢いを保ち、東京オリンピック・パラリンピック競技大会が行われる2020年には4000万人の来日を目標としているという。
東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向けて、ブランドをつくる
実際、東京都内を歩いていると、どこもかしこも観光客に溢れている。小売業の場合はとくに、「外国人観光客の訪問が増えた」と感じているだろう。ラオックスや、ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは、インバウンド消費で成長を実現した企業の代表格だが、これらに習い、「外国人観光客に強い」「日本に来たら一度は訪れたい場所」というブランドイメージを確立していきたい企業は、多くあるのではないだろうか。
しかし、そのような思いとは裏腹に、なかなかうまくいっていない企業も多い。外国人観光客が好み購入するような素晴らしい商品を持っていても、それを訴求できていないといったことが多いのも事実だ。少子高齢化で内需が先細ると考えられる今、観光という成長産業でブランディング、そしてPRを行わないのは機会損失につながるかもしれない。東京オリンピック・パラリンピックを迎える今年、うまくインバウンドを取り込むためにはどうすればいいのだろうか。
大切なのは、「企業らしさ」「日本らしさ」
訪日外国人の集客に成功している企業を見てみると、きちんと対象となる人々を分析して、「自分たちらしさ」に「日本らしさ」を絡め、うまく訴求していることに気付く。
インバウンドの対応というと、「とにかく英語ができなければ」「サービスを変えなければ」と考えがちだ。しかし観光客の根底にあるのは、あくまで「日本を五感で体感したい」という思い。日本のビジネスシーンでは、「体験」を重視する傾向にあるが、それは観光客を対象にしていても同様だと言えるだろう。外国人が日本に期待しているのは、「日本の良さ」であり、「その企業・その店らしさ」である。
■現場に任せた判断で実現したブランディング事例
自社の商品に、日本らしさを取り入れて観光客向けに成功している商品がある。それが、チョコレートのキットカットだ。
誰もが知るキットカットの製造元は、スイスに本社を持つネスレ。ネスレは、商品開発や展開において各国の裁量が大きいことで知られている。日本で商品開発を行うのはネスレ日本であり、季節限定フレーバーやご当地限定、また和を感じさせる抹茶味など、国内はもとより訪日外国人にとっても日本を感じさせる商品ラインナップを揃えているのが特徴だ。現地で企画をしているから、非常に細かなブランディングとマーケティングが実現できている。観光客目線では、お土産として人気が高いのが特徴だ。
■全国一の伸び率を誇る香川県のブランディング
では、自治体ではどうだろうか。実は、集客に日本一成功している「県」は香川県である。あまり知られていないが、インバウンド事業で2016年から2017年にかけて241%という全国一位の伸び率を記録した。
この伸び率の背景には、「ここにしかないもの」を利用している点と、わかりやすいコンセプト。3年に1度開催される瀬戸内国際芸術祭は現代アートの祭典だが、その地の利を生かし、瀬戸内海に浮かぶ14の島々を会場にしている。フェリーで各所を巡れる形になっているのだが、春・夏・秋に開催するため、日本の季節の変化を感じながらアートを堪能できる形になっている。
また、「うどん県」キャンペーンも好評だ。香川はうどんで有名で、キャンペーンの一環として県名を「うどん県」に改称すると発表。このうどん県を、Webサイトを通じて多言語で発信し、イベントの模様や写真、説明を、外国人にもわかりやすい形でまとめている。これらの企画が功を奏し、訪日外国人は前述の伸びを記録。なんと6割がリピーターだというから驚きだ。
まとめ
訪日外国人向けのPRやブランディングで成功している組織を紹介してきた。どこも、「ここでしかできないこと」「自社にしかできないこと」を形にし、ブランドにまで昇華している。そこに至るまでには様々な壁や葛藤があったと思うが、自社の魅力や強みを見誤らず、やりきったことが、現在の成長につながっているのではないだろうか。
これまで様々なメディアで話題になったインバウンド消費だが、これからまだまだ伸びていく。今後の日本と企業の成長に期待したい。