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企業が事業活動を成功させるためには、企業理念や経営方針を明確化して発信するだけでなく、「行動指針」を策定することも重要です。
近年では多くの企業が独自の行動指針を掲げていますが、そもそも行動指針とは何を指すのでしょうか。
当記事では、行動指針の定義や策定するメリット、行動指針を決める際の基本的な流れについて解説します。
企業行動憲章の概要とともに行動指針の具体的な例も併せて確認し、インナーブランディングの強化に適した行動指針の内容を検討しましょう。
行動指針とは?
一般的に「行動指針」とは、特定の行動においてどのように行動すべきか明確に示した方針のことを指します。
企業においてよく使われる「行動指針」も、行動するための基本方針を指しますが、明確な定義はありません。
企業によって捉え方が異なり、アジェンダやガイドラインのようなニュアンスの掲げ方をしている企業も存在します。
捉え方に微妙な違いはあるものの、多くの企業の行動指針は「企業理念の実現に向け、従業員としてどのように行動すべきか明確にしたもの」という点で共通しています。
自社の行動指針について考える際には、このような認識を持って策定の検討を進めるとよいでしょう。
行動指針と「行動規範」「企業理念」の違い
「行動指針」と「行動規範」は、いずれも従業員としてふさわしい行動を定めるためのものです。
従業員が業務を遂行する際の基本的な方向性を示す「行動指針」に対し、「行動規範」は企業に所属する従業員として行動する際に守るべきルールのことを指しています。
行動規範の内容は企業によって異なりますが、以下のような事項について基準を定めている企業が多く見られます。
【行動規範で定められることが多い基準】
・従業員として望ましい人格や特性
・従業員としてあるべき姿
・従業員として好ましくない特性・避けたい言動
行動指針や行動規範は企業側が従業員側に求める内容である一方、「企業理念」は企業の存在意義や企業活動の方向性・社会的な使命などを言語化したものを指します。
従業員は企業組織の理念実現に向けて行動指針に基づく行動が求められるため、行動方針と企業理念は関連する概念といえますが、異なる意味である点に注意しましょう。
行動指針の有名企業の事例
行動指針を策定する際には、企業行動憲章だけでなく、他社が実際に定めている行動指針を参考にすることもおすすめです。
自社が属する業界や関連業界の企業だけでなく、幅広い業界における企業事例を参考に、自社の行動指針について検討してみましょう。
ここでは「Amazon」「ジョンソン・エンド・ジョンソン」「ファーストリテイリング」の3社について、行動指針およびこれに準ずる規則を紹介します。
さまざまな業界の行動指針に触れ、自社が行動指針を策定する際の参考にしてください。
Amazon
世界最大級のインターネット通販サイトで知られる「Amazon」では、14項目からなる以下のような行動指針(信条)を定めています。
■Amazon「Our Leadership Principles」(抜粋・要約)
- 顧客起点の行動を心がける
- 長期的視点で考え、会社全体に貢献できる行動をとる
- 革新・創造とともにシンプルな方法を模索する
- 多様な考え方を求め、正しく判断する
- 好奇心を持ち、自身の向上を求める
- すべての社員の成長・育成に努める
- 高い水準を追求し、問題発生時には確実な解決・改善策の提示を行う
- 新たな視点・あらゆる可能性を探求する
- リスクを考慮しながらもスピード感のある決定を行う
- 少ないリソースでも多くのことを実現する
- 相手に対して誠実な対応をとる
- 各従業員がすべての業務に気を配り、現状を把握する
- 職務を容易にあきらめない
- 妥協せず、適正な品質で迅速に実行する
このように、Amazonでは「全員がリーダーである」という考え方のもと、従業員一人ひとりが決断力や問題解決力、迅速かつ正確な実行力を求めています。
ジョンソン・エンド・ジョンソン
幅広いヘルスケア製品を展開するグローバル企業「ジョンソン・エンド・ジョンソン」では、企業が大切にしてきたコア・バリューとして以下の内容を明文化しています。
■ジョンソン・エンド・ジョンソン「我が信条(Our Credo)」(抜粋・要約)
- すべての顧客に対し、迅速かつ正確に適切な製品を提供する
- 従業員一人ひとりが自身の能力を十分に発揮できる職場環境を提供する
- 全世界の人々の健康維持・増進を支援するとともに、環境や資源の保護に努める
- 株主への健全な利益を提供するため、研究開発の継続・設備への投資・革新的な企画の開発を心がける
ジョンソン・エンド・ジョンソンは過去の大きなトラブルに対しても、経営陣・現場従業員が一丸となって「我が信条」に基づいて行動し、大きな評価を得ました。
現在もダイバーシティへの取り組みや「健康」をテーマとする社会活動を実施しています。
ファーストリテイリング
「UNIQLO」で知られるアパレル業界最大規模の企業「ファーストリテイリング」では、従業員として行動する際のよりどころとして以下の内容を明文化しています。
■ファーストリテイリング「ファーストリテイリングコードオブコンダクト」(抜粋・要約)
- 顧客の信頼に応え、期待を超える品質の商品およびサービスを提供する
- すべての人の人権を尊重する
- 事業を行う国や地域の慣習を理解し、法令を遵守する
- 公正・公平な取引・パートナーシップを構築する
- 健全な企業運営と適正な情報開示を行う
- 働きやすい職場環境を提供する
- 全従業員が能力を十分に発揮できるよう育成し、公正に評価する
- 個人情報や機密情報を厳重かつ適切に管理する
- 反社会的勢力との関係を一切持たない
- 会社の有形財産・無形財産の保全に努める
- 地球環境や社会に貢献する
- 公私のけじめをつける
ファーストリテイリングの行動指針は、「事業や仕事に対して最高レベルの倫理を要求する経営」という経営理念を反映しています。
経団連の企業行動憲章の内容にも則しているといえるでしょう。
(出典:ファーストリテイリング「行動規範」)
行動指針の作り方
行動指針を策定することには大きなメリットがあるため、これから行動指針を定めようという企業も多いでしょう。
行動指針の作成方法は、次の3つのタイプに分けることができます。
- トップダウン型:経営陣と人事部が策定者となり、相談・議論しながら策定を進める
- プロジェクト型:経営陣と従業員の代表で構成される行動指針作成チームを作り、相互に話し合いながら行動指針の内容を決める
- ワークショップ型:経営陣と従業員全員で社内コミュニケーションを取りながら話し合って決める
上記のいずれの作り方においても、基本的な流れに沿って行動指針の策定・従業員への浸透を進めることが大切です。
ここでは、行動指針を定め、従業員への浸透を図る際の基本的な流れについて解説します。
ミッション・ビジョン・バリューを定める
行動指針を策定する際には、企業としての「ミッション・ビジョン・バリュー」を明確に定めておくことが大切です。
- ミッション:企業・組織が果たすべき社会的な使命や存在意義のこと。企業理念よりも一歩踏み込み、どのような形で社会貢献するか、具体的な行動として落とし込むことが大切
- ビジョン:ミッションを実現した後の、企業の理想的な姿や将来像のこと。企業の中長期的な目標として設定されることが多い
- バリュー:ミッションの達成・ビジョン実現に向けて、従業員が持つべき価値観や従業員がとるべき行動の基準のこと。行動指針を定める際の基礎として考えることが可能
定める順番としては、「ミッション」「ビジョン」「バリュー」が一般的です。
企業としての使命や目指す将来像を踏まえた上で、従業員の行動指針のベースとなるバリューを定めましょう。
会社としてやるべきこと・やらないことを明文化する
前の段階で定めた「バリュー」の内容をもとに、ミッションやビジョンの実現に向けて必要と考えられる行動や価値観をリストアップしましょう。
すでに企業として取り組んでいる行動が行動指針のベースとなる可能性が高いため、既存の行動について「やるべきこと」「やらないこと」を整理することが大切です。
行動指針として残すべき行動には「今までに実績がある行動」「継承すべき行動」などが挙げられます。
また「ルール遵守を目的にしない」「私生活を犠牲にするような労働環境にしない」など「しないこと」「やめること」も明文化してリストアップしておきましょう。
行動指針として社員が共感しやすい言葉に落とし込む
行動指針として組み込みたいことのリストアップが終わったら、リストの内容を精査し、分かりやすくキャッチーな言葉で言語化します。
日本語で1~3語程度の言葉や、4~5単語程度の英単語からなる短文を目安に考えてみましょう。
自社の企業文化や社風になじまない言い回しでは従業員に浸透しない可能性があるため、自社に合った表現を考えることも大切です。
行動指針を一言で表す言葉とともに、具体的な行動を簡潔に示す文章を添えると、社外の人にも分かりやすい行動指針を発信することができます。
行動指針を浸透させるための施策を実施する(評価項目に加える)
行動指針の策定プロセスは、言葉としてまとめて終わりではありません。従業員の日々の業務に行動指針が反映されている状態にすることが大切です。
行動指針の認知・浸透・定着を図るために有効な手段として、定期的な社内研修やミーティングの実施のほか、行動指針の実践に関する項目を人事評価に加えることが挙げられます。
従業員が体現する「自社らしさ」はブランディングにもつながるため、評価項目・評価基準として設定することは合理的であるといえます。
また、行動指針の実践に関する項目を評価制度に導入することにより、評価アップを目指すために取り組むべきことが明確になるという従業員側のメリットもあります。
行動指針の定着とともに、従業員のモチベーションアップも図れるでしょう。必要に応じて社内表彰制度を取り入れることもおすすめです。
行動指針を意識したアクションを活性化させるための社内制度を運用し、行動指針の効率的な浸透・定着を図りましょう。
株式会社イマジナのブランディングセミナーでは、行動指針を会社の想いと連動させる重要性ついても解説しております。セミナーで貴社の行動指針について検討してみませんか。
行動指針を定める主なメリット
「企業理念の実現に向けて従業員がどのような行動をとるべきか」という内容を「行動指針」として定めることには、以下の4つのメリットがあります。
従業員のモチベーション向上
企業が持続的発展を遂げるためには、従業員が同じ目標に向かって仕事をすることが大切です。
従業員がとるべき行動基準が「行動指針」として明確化されていれば、従業員が協調して仕事を進められるでしょう。
従業員として適切な行動・判断を繰り返し行えるため社内評価も上がり、モチベーションアップにもつながります。
現場の主体性を育てる
行動指針は企業のあるべき姿を具体化します。
あるべき姿が示されているため、アクシデントが発生しても現場はあるべき姿に沿って主体的な対応ができるようになるでしょう。
ビジネスチャンスが目の前にあるときも、現場は行動指針に沿ってチャンスを活かす努力ができます。
こうした対応や努力は現場の主体性を育て、企業にエネルギーとブランド力をもたらす原動力となります。
顧客満足度の向上
行動指針が社員全体に浸透すると行動・言動・方向性に統一感が生まれます。その統一感は独自の企業風土として社外にもアピールできるポイントです。
企業風土が生まれれば「あの会社に任せれば大丈夫」といった取引先からの信頼が得やすくなるでしょう。
また行動指針の定着は、クオリティの高い顧客サービスにもつながり、顧客満足度の向上が望めます。
社員の誰が担当してもクオリティの高い顧客サービスを提供できるのは、企業として大きな強みです。
組織の一体感を作る
明確な行動指針を定めることにより、その企業ならではの文化・企業風土の形成が期待できます。
豊かで優れた企業文化・組織文化が形成されれば、従業員同士のつながりが強くなり、企業の組織力もより強固なものとなるでしょう。
行動指針を定めることには、企業側・従業員側ともに大きな効果があります。
行動方針に関するポイントを押さえた上で、自社に適した行動方針の策定と従業員への浸透を図りましょう。
行動指針を浸透させるポイント
行動指針を作っただけで気を抜いてはいけません。社内全体にしっかりと浸透しなければ作った意味がないためです。
では、どのようにして浸透させるのでしょうか。行動指針を浸透させるために重要な4つのポイントを解説しましょう。
理念との関係を発信
行動指針とは企業理念を実現するための行動を明確にしたものです。つまり行動指針が目指すゴールは企業理念・企業の在り方そのものです。
人はゴールがはっきりと見えていれば、ゴールに向かって迷わず進めます。
例えば、建設業を営む工務店の企業理念が「お客様に快適な住宅を提供する」だとしましょう。
お客様に快適な住宅を提供するために「行動指針A・行動指針B・行動指針Cを実行しましょう」と企業理念と行動指針の関係を発信すれば、社員は納得し行動指針に沿って行動できます。
作成の背景を伝える
行動指針を作成した背景を社員に伝え理解してもらうのも大切なポイントです。
会社が何を望み、何を問題視しているのかを伝えることで、社員に自らの行動に対する責任感が芽生えます。
例えば、ある工務店が「1人1人のお客様の意見を丁寧に聞き取る」といった行動指針を立てたとき、その背景にお客様からの不満があったとしましょう。
もしお客様から不満を寄せられているのを社員が受け止めていなかったらどうなるでしょうか。
お客様のご要望に丁寧に耳を傾けるより、自分がよいと考えるものをお客様に押し付けてしまう可能性があります。
しかし、お客様に不満があるという背景を知っていれば、お客様の意見を丁寧に聞き取るという行動指針が社員の言動に生きてくるのではないでしょうか。
日々の業務レベルに落とし込む
行動指針は身近なものに落とし込むことで浸透しやすくなります。職場ごとに行動指針を社員の日々の業務のレベルに落とし込みましょう。
例えば「感謝を忘れない」という行動指針があるとします。
営業部門では「お客様への感謝」や「裏方の事務をしてくれる同僚たちへの感謝」、経理部門では「日々稼いでいる同僚への感謝」など、身近で具体的なレベルの行動指針に落とし込むことが重要です。
評価制度に紐づける
行動指針は評価制度に紐づけると浸透に効果があります。行動指針を実践しているかを査定の項目に加えたり表彰制度を設けたりしましょう。
評価が目に見えると従業員のモチベーションアップにつながり、行動指針への理解も深まります。
株式会社イマジナのブランディングセミナーでは行動指針の浸透方法についても解説しております。セミナーで貴社の行動指針について検討してみませんか。
行動指針を作成する際は「企業行動憲章」の確認も大事
「企業行動憲章」とは、日本経済団体連合会(経団連)が所属する企業に求める行動原則を定めたものです。
企業行動憲章では、日本の企業に求められる社会的責任や社会的価値、企業として適切な行動などが簡潔にまとめられています。
行動指針の内容は企業のミッションやビジョンに大きく影響されることから、企業行動憲章を確認することは行動指針策定の際にも重要であるといえるでしょう。
企業行動憲章の具体的な内容
経団連が定める企業行動憲章は、所属企業に求める行動を「10原則」としてまとめています。ここでは、企業行動憲章に定められた10原則のそれぞれの概要を確認しましょう。
(1)持続可能な経済成長と社会的課題の解決 |
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企業には、グローバルな課題の解決目標である「SDGs」の実現を目指し、経済・社会・環境のバランスに配慮した生産活動が求められています。持続可能であらゆる人が生き生きと暮らせる超スマート社会「Society 5.0」を目指すためのイノベーションを引き起こす環境を整えることも大切です。 |
(2)公正な事業慣行 |
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公正で自由な競争を行うために、独占禁止法や国際的な競争法を遵守するためのコンプライアンス体制の構築が重要です。協力企業・協力会社や取引先と良好な関係を築き、透明性・持続可能性の高いサプライチェーンを構築することも求められます。政治・行政と健全かつ正常な関係を構築することも大切なポイントです。 |
(3)公正な情報開示、ステークホルダーとの建設的対話 |
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企業が持続的に成長するためには、株主や投資家に対して適切な情報開示を行い、建設的な対話を行う必要があります。また、ステークホルダーと双方向のコミュニケーションを行い、共通の社会的課題の解決を目指すことも大切です。 |
(4)人権の尊重 |
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児童労働や強制労働など、人権に関する社会的問題の解消を目指す企業経営が求められます。情報化社会における人権意識を身につけるとともに、ダイバーシティおよびインクルージョンを推進する取り組みを実践することも大切です。 |
(5)消費者・顧客との信頼関係 |
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企業は消費者や顧客のニーズを的確に捉え、幅広い人々の生活を豊かにすることが求められます。消費者から厚い信頼を得るためにも、消費者が合理的かつ主体的な選択・購買が可能となる情報提供や啓発活動を行いましょう。購買行動を通して、「持続可能な消費」について消費者が考える機会を確保することも重要です。 |
(6)働き方の改革、職場環境の充実 |
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多様な人材が持続的に働けるようにするためには、働き方改革を行い、職場の状況を改善・充実させることが大切です。従業員たちが能力・技術をのびのびと発揮できるよう、多様性・人格・個性を尊重し、健康や安全性にも配慮した職場づくりを行いましょう。 |
(7)環境問題への取り組み |
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環境問題への認識が高まる現代において、環境と経済との両立を図ることは企業の社会的責任の1つです。環境保全・環境負荷軽減のためにできること、環境的責任を果たすために求められることを検討しましょう。 |
(8)社会参画と発展への貢献 |
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社会は企業の活動基盤であるとともに、企業自身も社会の一員です。雇用の創出や地域における社会福祉の充実、文化的活動の支援など、地域社会に積極的に参画し、社会貢献活動を行うことも求められます。 |
(9)危機管理の徹底 |
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多様化・複雑化する反社会的勢力の行動、サイバー攻撃、テロといった脅威に対して関係を一切遮断し、企業として対決姿勢やリスク管理を徹底することが重要です。自然災害の被害を最小限にするための備えも行いましょう。 |
(10)経営トップの役割と本憲章の徹底 |
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企業の経営トップは企業行動憲章の内容を十分に理解した上で、社内やグループ企業に周知・徹底を図ることが求められます。企業行動憲章に反する不祥事・行為が発覚した場合は、経営層・役員・管理職が率先して事態への対応を行い、社会的責任・倫理的責任を果たすことも重要です。 |
行動指針を立てたい方は
行動指針が重要なのは当然ですが、いざ具体的に行動指針を立てることは難しいミッションです。
理論はわかっていても、自分の会社や部署に適用するにはどうすればよいのか悩んでいる方も少なくないでしょう。
そのようなときには、具体的な事例で学べるブランディングセミナーを受講してみるのも1つの手段です。
国内外の最新事例をもとに理念浸透・行動指針など、企業のブランディング力強化の手法を学べます。
またセミナー内での同じ悩みをもつ同業・異業の方々との交流は、新たな視点・視野を開く機会にもなるでしょう。