任天堂の勢いが止まらない。3月20日に発売されたNintendo Switch用のゲーム『あつまれ どうぶつの森』が大ヒットを記録。新型コロナウイルスのパンデミックによって自粛や自己隔離を余儀なくされている人々がこぞってプレイし、世界中で親しまれているのだ。今や世界に名だたるブランドとなった任天堂の強さの秘訣は、どこにあるのだろうか。
自らマーケットを創造し、リーディングカンパニーとして君臨
任天堂の創業は1889年(明治22年)。花札の製造からスタートしたゲームメーカーだ。日本で初めてトランプを製造した企業としても知られており、現在に至るまで様々な玩具を製造し続けている(実は現在でも花札やトランプを作っている)。
業務用コンピュータゲーム機や家庭用ゲーム機の開発を始めたのは1970年代から。「ゲームセンターでしかできなかったゲームを、家庭でも楽しめるように」と発売した家庭用ゲーム機
「ファミリーコンピュータ」が大ヒットし、この頃から任天堂は、ゲーム機・ゲームソフトの開発会社として広く認知されるようになった。
任天堂の凄さは自らマーケットを作り出し、現在に至るまでリーディングカンパニーとして君臨し続けている点にある。2000年代後半にはスマートフォンでプレイするソーシャルゲームが急速に広まり、その潮流に迎合しない任天堂は「時代遅れだ」と揶揄されることもあった。しかし、そんな批評もどこ吹く風。ソーシャルゲーム全盛の時代に、「ニンテンドーDS」「Wii」、そして前述の「Nintendo Switch」等、ヒット商品を次々と世の中に送り出していった。時代が変化しても、その強さと「らしさ」は常に健在なのである。
「社是」「社訓」がなくとも、企業文化が根付いている
なぜ任天堂は、独創的な商品を発表し続け、ゆるぎないブランドを確立することができるのだろうか。
そのヒントは、コーポレートサイトの社長メッセージにある。<私たちは、これからも「人々を笑顔にする娯楽をつくる会社」であり続け、「任天堂IPに触れる人口の拡大」すなわち、任天堂がつくるキャラクターやゲームの世界観により多くの方に触れていただくことによって、当社の企業価値を向上させていきたいと考えています。>
任天堂が考えるのは、ゲーム人口の拡大。既存マーケットにおいて他メーカーとシェアを奪い合うのではなく、任天堂の商品に触れることでマーケット拡大を実現したいという思いを、創業以来強く持ち続けているのだ。
任天堂が任天堂たる所以はここにある。会社には「社是」や「社訓」がないそうだが、暗黙の社是として<娯楽に徹せよ。独創的であれ。>という言葉が存在する。これまでの発表されてきた商品のすべてに「任天堂らしさ」を感じるのは、自分たちがマーケットクリエイターであるという思いを持ち、独創性とは何かを、すべての社員が真摯に考えているから。すなわち、ブランドを全社員が追求し続ける文化が根付いているからこそ、他企業と一線を画した独創的でイノベーティブな商品を提供できるのだ。
「らしさ×時代の空気」が、強いブランドを作る
近年の動向を見ていても、いかにも「任天堂らしいな」と感じさせる動きは多々ある。その際たるものが、2005年に発表された「Wii」の開発コンセプトだ。
天下の任天堂にも天敵がいた。それは、世の中の母親である。子供がゲームをしていると、母親は「いつまでやってるの!」と言い、ゲームをやめて放っておくと「早く片付けなさい!」と言う。子供にとってゲームは娯楽でも、母親にとっては邪魔者なのだ。その事実を無視せず、真摯に考えて開発されたのがゲーム機「Wii」であった。
「Wii」のリモコンにはコードがない。スマートなデザインなので、立てて置けば場所を取らない。目玉商品は『Wiiフィット』。ダイエットを目的としたこのソフトは、不健康であるはずのゲームを健康促進のツールに変え、しかも家族全員で楽しめる娯楽に仕立て上げた。ダイエットは、多くの大人(母親・父親)にとって恒常的な問題である。「邪魔にならず」「ダイエットできる」ゲーム機を開発することで、ゲーム嫌いの親を味方につけた点に、前述の暗黙の社是を感じられないだろうか。
当時の代表である岩田社長は、「Wii」発表の場で、次のように発言したという。「母親を敵にした状態で、新しいゲーム機がどれだけ普及するのか疑問。『Wii』は、家族全員に受け入れてもらえるようにしたい」。
この流れは「Nintendo Switch」にも受け継がれている。
「Nintendo Switch」には、着脱可能なコントローラー「Joy-Con」がある。この「Joy-Con」の周辺機器として、任天堂は「Nintendo Labo」を発表。「Nintendo Labo」にはソフトに加えて、反射材シートや段ボールシート、輪ゴム、ヒモ等がセットになっており、頭を使い工作すると、全身を使って遊ぶゲームを作ることができる。あえてアナログな紙や輪ゴムを持ち込むことで、知育玩具としての価値を付加したのだ。
少子化が進む中で、子供の教育、そして体験にかけるお金は増えている。そのような時代の流れを敏感に読み取り、「らしさ」を付加した商品を世の中に送り出すことで、時代に合わせながらも自社のブランドを着実に築いているのが任天堂だと言えるだろう。
まとめ
新型コロナウイルスの影響で、先行きが見えない状況が続いている。そのような時代でも、任天堂は継続的に成長を重ねている。その強さの秘密は、自分たちのブランドに、時代を読む鋭さを掛け算する点にあるのではないか。
ビジネス環境は刻一刻と変化するが、人間が存在する限り、欲求やニーズは存在し続ける。任天堂のように、ブランドを大切にしながらも、時代の変化を先読みすることで、たしかな価値を築いていきたい。