ワークマンプラスのブランド戦略
2019/11/29(最終更新日:2020/09/30)
ブルーオーシャンを見つけた「ワークマンプラス」というブランド
現在、破竹の勢いで拡大を続け、今年ついにユニクロの出店数(国内)を抜いた話題のアパレルブランドがある。休日はもちろんのこと、平日の昼間も賑わっているのが、ワークマン、またワークマンプラス専門店舗だ。ワークマンと言えば、販売しているのは建設業で使用するようなシャツや靴、作業服など。値段、着やすさ、丈夫さというあらゆる角度からの利便性で評価されており、建設業関連の従事者から支持を広げてきた。そのワークマンの店舗に、建設業とは無関係の20代〜40代の男女が訪れているのをご存知だろうか。近年、ワークマンが「ワークマンプラス」という名称でカジュアルファッションブランドを立ち上げたのだが、これが売れに売れて、話題を呼び、ヒットを飛ばしているのだ。
ある日、東京都立川にあるららぽーと立川立飛の店舗に訪問してみたのだが、「質がよく、本当に安い」というのが正直な感想だった。デザインに関してはカジュアルで、スポーティかつアウトドアを連想させるものが多く、街歩きでもレジャーでも使用できそうなデザイン。品質に関しては建設業の現場で長年使われているということから、その良さが把握できる。防寒・防暑はもちろんのこと、丈夫さに関しても期待できそうだ。
驚いたのは、その価格帯だ。Tシャツ780円、防寒ブルゾン2,900円、スラックス1,900円……。今の時期に使えそうなインナーとして着る発熱する長袖インナーシャツは980円(こちら、すべて税込)。ワークマンのサイト上でも商品を紹介しているので一度見ていただければと思うが、一番高いものでも5,000円もしないのでは? という印象を持つ。
低価格帯なアパレルといえば、真っ先にユニクロが思い浮かぶ。業界そのものも歴史は長いので、新規のブランドにとってはレッドオーシャン市場ではないかと思うが、ワークマンプラスをスタートした同社の土屋哲雄氏は「様々な軸で新規参入先を考えた結果、ブルーオーシャンが見つかった」とメディアで述べている。
「ワークマンプラス」のブランド戦略とは?
ワークマンは前述の通り、専門職向けのニッチアパレルブランドだ。しかし近年、その分野だけではシェア拡大が望めず、新規事業や新ブランドを立ち上げる必要性を感じたという。そこでまずはアウトドア、スポーツウェアの市場を調べたが、古参ブランドがひしめいている。そのため勝負するには難しそうだという結論にたどり着く。
諦めず別の角度から市場を見つめ直したところ、ヒントが。高級志向か一般向けかという価格軸に加え、機能性の軸を組み合わせたところ、ぽっかりと空白地帯がある。「低価格でプロ品質」という、ブルーオーシャンが見つかったのだ。様々な試算を重ねた結果、ここには4000億円もの市場規模があることが判明。レッドオーシャンの市場が、軸を変えることでブルーオーシャンになったという。
最近は健康志向も後押しして、休日は山登りやキャンプに出かけたりする20代〜40代の男女が増えている。またおしゃれに関しても、有名ブランドで服を固めるより、身近で低価格帯のもの、またハイセンスなブランドでなくても「着こなし」を工夫することでおしゃれに仕上げるケースが当たり前となった(インスタグラムなどのSNSでも、着こなしを工夫した写真を若者がたくさん投稿している)。レジャーに出かけたり、都会を歩いたりするのにも、着まわしやすい服が欲しい。そのような今の時代の需要や話題を、ワークマンは見事にすくいとったのだ。
その結果、今年3月の決算では、全店の売上が930億3900万円という前期比で約17%増。営業・経常・純利益はすべて20%を上回るという大成功につながった。
「ワークマンプラス」から学ぶブランド価値の重要性
そして何より驚きなのは、ワークマンプラス専門の商品ラインナップは一切ないということだ。
ワークマンで一般向けに販売できそうな商品を、ワークマンプラスという看板のもと販売することでイメージを刷新。看板を変え、出店場所(一号店は、前述のららぽーと立川立飛)を変え、作業服ブランドから、機能的なカジュアルブランドとして捉え直すだけで、売上と利益をほぼ20%増加させたのだ。
この成功は、私たちに様々な教えをもたらしてくれる。日本の市場はほとんどが成熟市場と言われているが、空白地帯はまだまだある。しかもそこが、自社がもつ既存ブランドをそのまま転用できる市場であったらどうだろう。初期費用を抑えながらも、一気に次の売上の柱を作ることも不可能ではない……。
ワークマンの成功は一企業の成功ではなく、日本のものづくりやブランド戦略に光明をもたらしてくれる出来事のように思う。こと経済に関しては悲観的な見方をしてしまいがちになるが、まだまだできることはありそうだ。ワークマンの商品を手に取りながら、そんなことを考えた。