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ビジネスモデルとブランディングの変化

2019/07/03(最終更新日:2020/09/30)

ブランディング

「サブスクリプション」という言葉をご存知だろうか。ここ最近、大手メディアでも頻繁に取り上げられるようになったビジネスモデルであり、様々な企業が、自社のサービスにこぞって導入を進めている。
サブスクリプションにはもともと「定期購読」という意味がある。定期購読と言えば、雑誌や新聞などが思い当たるだろう。購入の都度、製品やサービスに料金を支払うのが一般的な支払い方法だとすれば、サブスクリプションはいわば、一定の期間契約をし、その間にサービスを受けるもの。現在では新聞や雑誌などメディア以外の分野でもこのモデルは転用され、一定期間利用できる「権利」に対してお金を支払うことをサブスクリプションということが多い。

サブスクリプションモデルで身近な例としては、Microsoftのオフィス製品などが挙げられるだろう。かつて、同社が提供しているWord, Excel, PowerPointなどのソフトウェアは、媒体にパッケージングされ、専門店の店頭で販売がされていた。いわば「都度購入」のモデルである。
消費者はそれを購入し、パソコンなどのデバイスにダウンロードすれば、該当ソフトが使用できるようになるのだが、この方法だとソフトが更新されると、アップデートして再発売しなければいけない。それぞれ「文書入力」「表計算」など、提供している本質的な機能に変わりはなくとも、数年に一度、製品をアップデートし、再度消費者に購入を促さなければいけないという特性があった。

しかし近年、Microsoftはパッケージでのソフト販売を終了した。変わりに、使用ライセンスを付与し、ソフトウェアを自身のデバイスにダウンロードしてもらい、その使用料を月ごと、年ごとに回収するというモデルに転換したのだ。
この方法であれば、都度商品の購入を促す必要もないし、パッケージングのコストもかからない。Microsoft側で商品をアップデートすれば、それが消費者サイドでも反映されるので、アップデートも頻繁に行うことができる。消費者も、1本数万円のソフトを定期的に購入するのではなく、月々数百円〜数千円という金額帯で最新のソフトを使用できるため、お互いにメリットのある構造となっているのだ。

なぜ、このような話をしたのか。実はこのサブスクリプションというサービスの登場によって、消費者の製品やサービスに対するイメージが変わり、ひいては企業のブランディングにも大きな影響を及ぼしつつあると、思うからだ。

サブスクリプションの本質は、製品や機能を販売するのではなく、体験や使用価値そのもの、ひいてはすべてを含めたサービスにフォーカスしている点にある。
機能で差別化ができた時代には、同一の価値をもつ製品でも他社にはない機能を1つ2つ付加することで、消費者が買う目的を形成することができた(テレビでいえばリモコンのボタンを多くする、映像の入ったDVDであれば特典映像をつけるなど)。
しかし現代は、消費者は機能よりも、使いやすさや満足度といったもの、ひいては「自分がほしい、自分にあったサービスを提供してくれるか」という点を重要視している。例えばNetflixなど映画やドラマを配信するサブスクリプションサービスでは、自分の見たいコンテンツがあるか。そして、インターフェースや検索性といった面で、そこにたどり着くまでに面倒な思いや不快な思いをすることがないかなどのユーザビリティが重要視されるようになった。

このようなモデルが生まれた現代において、消費者にとっての「ブランド」はどのように変わっていくだろうか。
もっとも大きな兆候は、「製品・企業の姿勢=ブランド」から、「製品・企業の姿勢+提供しているサービスそのもの=ブランド」という形へという変化が、より一層加速しているということだろう。

自社が何を大切にしているか。どんな理念を持ってサービスを提供しているかは非常に重要である。しかし、新たなひとつのビジネスモデルが生まれたことで、消費者とサービスは否応無しに接近を迫られた。消費者からすれば、Microsoftのサブスクリプションサービスで得られる体験そのものがMicrosoftを表しているし、Netflixであれば、Netflixのサブスクリプションサービスで得られる体験そのものが、Netflixなのだ。

このサービスというのは、柔軟に変化する、そして自分には合わないものがあることを消費者は知っている。ブランドを人に例えることがあるが、より柔軟に変化するようになったことで、ブランドはより人に近づいた、というふうにも言えるかもしれない。

そして重要なのは、サブスクリプションサービスを提供していない企業にも、このような図式は当てはまるということだ。技術革新により様々なビジネスモデルが生まれているが、それによって消費者の意識も変わり、すべての企業がサービス業化することを、じりじりと迫られているように感じている。自社のビジネスがどのようなものであっても、このような潮流が生まれていることは、無視できないだろう。
そのような時代にどうブランド形成、ブランディングをしていけば良いのか。ひとつはフィロソフィとも言える企業の姿勢を固めること、そして、今まで以上にそれらをサービスに反映させることだ。サービスへの反映は、顧客対応のみならず、製品の最終的なデザインやそれを受け取る消費者の印象までにも、徹底的に配慮をするのだ。

今回、ひとつのビジネスモデルを例にとり、ブランディングの影響の変化を見てきた。ブランディングの考え方そのものは変わらないが、より一層、その価値が増していることを時代の変遷から感じている。刻一刻と変わる状況、そして消費者のサービス観の変化について、より一層の注意を払い、事業を行っていくことが求められるだろう。

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