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ブランドの成長と、事業の成長

2019/06/06(最終更新日:2020/09/30)

ブランディング

ブランドの成長と事業の成長を、どのように両立していくのか。企業にとって永遠の課題である。事業の成長を追い求めるばかりにブランドをおろそかにしてしまうことは多くあり、また自身の哲学や信念を大切にしたばかりに、事業成長の機会を逃してしまうこともある。かつて、そのブランドのファンだった消費者から「あそこは昔、顧客第一を謳っていたのに、今じゃ自社の利益を第一に考えるようになってしまった」という言葉や、「昔から好きなブランドがあるけど、もっと安くて性能の良い商品がでてきたからそのブランドを買うことはなくなってしまった」といった言葉を聞くことは、珍しいことではないだろう。

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一見、二律背反のように見えるこのジレンマだが、克服することはできるのだろうか。
結論から言えば、うまく克服している企業は少なからず存在する。むしろ、そのような企業はブランドの成長が事業の成長につながり、相互に補完する正のスパイラルを描いているケースが多い。イギリスに本社を置く、オリジナルブランドのスキンケア・ヘアケア製品やバスアイテムを扱うLUSHはそのひとつだ。

1995年に創業した同社は、「自然派」というコンセプトが消費者に受け、今日に至るまで人間と自然に優しい商品を提供し続けてきた。現在では約930の店舗、また日本国内にも90店舗以上を有している。店頭で自社の商品を使ったプロモーションをしていることも多いため、ブランドを知っている、またファンだという人は、たくさんいるだろう。
同社は今月1日、新宿にアジア地域最大規模の旗艦店をオープンした。1Fから4Fまでのフロアでは異なるコンセプトで店づくりを実施。置かれている商品に関しては自然環境への影響を考えパッケージをすべて取り去って「ハダカ」の状態で商品を置いているという。それらに専用のアプリをかざせば、最先端のAIが商品を自動認識。使い方や原材料といった、通常ではパッケージや商品ラベルに記載されている情報を取得することができる。LUSHの哲学と遊び心、また最新のテクノロジーがかけ合わさった店舗だ。

創業から25年近く経った今も「自然派」を貫き、商品づくりから店舗での購入に至るまで、消費者の心を掴み続けるLUSH。消費者との間に深い信頼関係を築いた同社は、販売スタッフに明確な指導や規律を設けているように見えるが……実は決してそうではない。同社には接客マニュアルさえも存在しないという。前述の店頭における石鹸を使ったプロモーションも、現場で働くスタッフが自ら考案し、スタートしたものだというから驚きだ。

LUSHの関係者は、メディアにこう話している。「接客といっても、スタッフが販売したい商品をオススメする一方的なコミュニケーションはとりません。スタッフと顧客の関係を超えた、人と人の信頼関係を構築することをLUSHにおける接客と定義し、その関係性を作る力を『人間力』と呼んでいます」。
店舗での接客のゴールを「販売に結びつけること」としている企業は多くあるが、LUSHのように「人と人との信頼関係を構築すること」に重きを置いているケースは珍しいのではないか。
加えて同社では、600種以上のすべての商品に関して、プロフェッショナルだと自信を持って言えようになるまで、商品のことを深く知ってもらうという。どのような想いでその商品が開発されたのか。配合されている原材料はなにか。どのような工程で製造され、どんな効果を心や体に及ぼしているのか。一つひとつの詳細を、スタッフは時間をかけて学んでいく。

またLUSHは商品知識だけでなく、社会問題にも興味を持つようスタッフに促している。自分たちが有する新鮮で質の高い原材料は、地球の恵みであるということ。もし環境の変化が起こり、これらの原材料が手に入らなくなればビジネスは立ち行かなくなる。だから共存する人や動物だから幸せに暮らせる社会をつくる必要があること。これらを理解することも「人間力」の養成には不可欠なのだ。

ブランドと事業の成長を両立している企業を見ると、最低限の行動基準だけを提示し、それぞれの形でスタッフ・従業員の「人間力」を高めることでマネジメントを行っているケースがある。東京ディズニーリゾートはその代表例だろう。
東京ディズニーリゾートの行動基準は「SCSE <Safety(安全)、Courtesy(礼儀正しさ)、Show(ショー)、Efficiency(効率)>」。現場で働くキャストはこれだけを守るよう徹底。
あとは個々の判断と自主性に任せられている。「マニュアルをつくらない」取り組みの成果は、年々増え続ける来場者と顧客の満足度を見れば一目瞭然だろう。

マニュアルは先人の知恵であり、現場の不安を払拭してくれる素晴らしいツールだ。しかし、「その企業らしさ」を体現するツールにはなりがたいし、そこから心に響く接客が生まれることもない。スタッフは自ら考えることで成長するし、自ら「自社の行動基準に沿った適切な行動」を考えだす。それらを考慮すれば、ブランドを大切にし、そのブランドを実現する最低限の行動基準だけをつくった上でマネジメントをするのが、おそらくもっとも理想的な方法だろう。
「そのようなことのできる企業は稀だ」と思うかもしれない。しかし、実現している企業はいるし、実現ができた企業は、その後何世代にもわたって継承される「自社らしさを自ら体現する人材」という強力な資産を手に入れることができる。そしてそれは、ブランドの成長と事業の成長につながっていく。
その道のりは決して平坦ではないかもしれない。しかし、冒頭に提示したこのジレンマのように見える課題は、必ず克服できるものなのだ。

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