デジタルコンテンツにおけるブランディング
2019/04/09(最終更新日:2021/12/09)
「ブランド」という言葉が生まれたのはいつ頃だろうか。もともとは、農場において農家が自分たちの家畜に焼印を施すというノルウェー語から派生したものだといわれている。すなわち、他の農家の家畜との「違い」を一目でわかるようにするために焼印を施したのがはじまりだ。
このようにブランドの源流は古くまで遡ることができるが、企業会計上でその資産価値が認められるようになったのは、実は1980年代のこと。イギリスが導入し、その後広まっていった。日本では現在、企業のブランド価値は「のれん価値」の一部として評価されるが、その歴史はまだ始まったばかりなのだ。
そして、ブランドの包括する意味が大きく広がっている現在においては、リアルなビジネスの現場におけるブランド価値の向上に加えて、ネットを始めとした「デジタル空間におけるブランディング」も非常に重要になっている。BtoC、BtoB問わず、顧客との接点の多くはネット上に存在しており、その企業の持つWebページの印象や、ネット広告をはじめとしたデジタル広告などにおける印象が、ブランド価値を決定づけてしまうことだってある。
しかし、この「デジタル上でのブランディング」に関して、どのように取り組めばいいかわからない方も多いのではないだろうか。デジタルにおけるブランディングにおいて、大切なこととはなんだろうか。
「デジタル」「ネット」といった言葉を聞くと、まず自社のWebサイトや、商品サイトが浮かぶ。多くの企業にとって、自社の関連サイトが顧客接点の大きな入り口となっているだろう。ここをきちんと整備することが、デジタル、Webでのブランディングをより確かなものにするといっても、過言ではない。
関連サイトを価値の高いものにするために必要なこと。それは何よりも「リアルのビジネスにおけるインナーブランディング、アウターブランディング」を、きちんと整備をすることだ。「リアルは後回しにして、デジタルを先に……」というブランディングは、おそらく成り立たない。組織の存在意義とは何か、ビジネスを行っていく上で大切にしたいことは何か。またそれを体現するために、組織の一人ひとりがどのような働きを体現しなければいけないのか。このような事項を一つひとつ棚卸しし、一本のストーリーとして、矛盾のない形にしていく。その延長線上に、デジタルでのブランディングがあるべきだろう。
そのため、単に「かっこいいサイトを作りたい」「業界大手の真似をしたい」といった指針でWebに着手しては、ブランドの確立は難しい。
また技術的な話になってしまうが、意外と大切になるのは、「ページの表示の速さ」や「導線のわかりやすさ」といった事柄も、ブランド構築には重要になってくる。
自分たちの想いを体現したサイトを作っても、非常に動きが遅かったり、サイトの設計自体が複雑だったりしては、サイトを見る前に顧客は早々に離脱してしまうだろう。それどころか「このサイトは顧客のことを考えていない」と評価を下され、マイナスブランディングに働いてしまう可能性もあるのだ。とくにWebを活用したアウターブランディングでは、このような機能面も考慮しなければいけない。想い、言葉、デザイン、機能。それらすべてがあわさって、デジタルでのブランディングはその一歩を踏み出すことができる。
Webでのブランディングが成功し、数多くあるECサイトのなかでも他社と差別化を実現し、安定した顧客開拓、そして購買にまで結びつけているサイトに「北欧、暮らしの道具店(https://hokuohkurashi.com/)」がある。Webでのブランディングの先進事例として様々なメディアで取り上げられているため、ご存知の方も多いのではないだろうか。
同サイトは北欧を中心とした地域の日用品を主に扱っている。特徴的なのは、商品販売のみを主眼としているサイトではないところ。同サイトは商品写真とテキストを存分に駆使し、「この道具を使うとこんな暮らしを実現できる」といった、商品提供から一歩踏み込んだ、商品を使用した暮らしにまで踏み込んで商品提案を行っているのだ。サイトに訪れた顧客は、道具から始まるそのストーリーと自身の生活を重ね合わせ、求めるライフスタイルを思い描き、商品購入ボタンを押す。
本サイトを運営するクラシコムのビジョンは「フィットする暮らし、つくろう。」だ。扱っているのはあくまで商品だが、提供するのはその先の暮らし。自分自身にフィットする暮らしを作り上げる、その手伝いをするという想いが、ビジョン、サイトの両方から存分に感じ取れる。
ブランディングの歴史を振り返り、最新のデジタル、特にWebブランディングを追ってきた。デジタルというと構えてしまう方も多いかもしれないが、根本は通常のブランディングと同様なのだ。
大切なのは、枝葉のデザインに注力する前に、自社の提供する価値が明確になっているかということ。「北欧、暮らしの道具店」はビジョンから商品の写真ひとつまで、一貫してぶれないブランドストーリーがあるが、それも根本のビジョンがしっかりとしたものだからだろう。
デジタル、Webといった領域はまだまだこれからも広がりを見せていく。そのときに自社は、どんな選択をとるのか。自社の本質的な価値を見つめたWeb戦略、デジタル戦略を実現していきたい。