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〜成功企業のブランドストーリーとは〜 益田ドライビングスクール

2019/02/28(最終更新日:2021/12/17)

イマジナがお送りするメルマガ「ブランディングニュース」の配信100回を記念いたしまして、「成功企業のブランドストーリーとは」をお送りしています。
第3回目の成功企業のブランドストーリーは、島根県にある益田ドライビングスクールだ。ここは車やバイクの免許を取る自動車学校である。自動車学校はどこも同じだと思われがちであるが、益田ドライビングスクールには唯一無二のブランドがある。そのブランドは、どのように築かれたのだろうか。

自動車学校のなかでも異彩を放つ学校

全国に1300校ほどあると言われている自動車学校。同業界は少子化の影響を大きく受け、その数は減少傾向にある。どこも生徒の獲得に必死になっているが現状だ。しかし、そのなかでも口コミで人気を集め、全国から免許合宿参加の応募が絶えない学校がある。島根県益田市にある益田ドライビングスクール(通称MDS)だ。
MDSの教習生は年間約6000人。通常の学校の教習生は約1000人というから、教習生の数の多さに驚かされるだろう。しかも学校は家からの距離や値段で通う学校を決めるケースが大半だが、同校は島根県益田市という立地にもかかわらず、これだけの教習生を集めているのだ。
MDSの他校との違いは、そこで得られる「経験」にフォーカスを当て、ブランドにまで高めている点にある。もちろん免許の取得が目的のため、授業の内容は他校と同様。しかし、ここでの約15日間にわたる免許合宿は、教習生一人ひとりの人生観や心を変えるほど大きな影響があるのだ。

自動車の技術や知識だけじゃない。「心の教育」に取り組むMDS

MDSは通常の自動車学校とは違い、独自の経営方針をもって運営されている。その方針は総じて「Mマジック」と呼ばれるほどに、まるで魔法のように感じられる価値を与え続けているのだ。

MDSは通称、「Mランド」と親しみを込めて呼ばれている。MランドのMは益田の頭文字ではあるが、そこには”Mental”、すなわち「『心』を学ぶ場所」という意味がある。これには、「MDSは技能や交通ルールを教えるだけでなく、心を教育する場所でありたい」という、創業者である小河会長の想いが込められている(「MDS」も、「Masuda Driving School」の略であるが、「Mental Design School」という意味もある)。
その「心を学ぶ」という哲学は、運営におけるあらゆる面に現れている。例えばコミュニケーション。ここでは教習を行う指導員を「インストラクター」、教習生を「ゲスト」と呼ぶことを決めている。そこには「インストラクターの仕事は、安全に走る能力を身につけてもらうお手伝いをすること」という考えがあり、MDSの内部では決して偉い存在ではない。またゲストは生徒である前にお客様。そのため敬意を持ってこう呼び合っているのだ。
また挨拶も徹底している。ゲストもスタッフもインストラクターも関係なく、校内ですれ違えば必ず挨拶をする文化が定着しているのだ。これはMDS唯一のルール。お互いが気持ちよくいられるように、接点のないゲスト同士であっても挨拶をすることは当たり前である。
またここではなんと、ゲストが率先して掃除を行っている。毎朝7時50分から教習が始まるまでの約1時間、有志でのトイレ掃除、そして草むしりや掃き掃除などの清掃を、スタッフとゲストが一緒になって実施している。

さらには特徴的な取り組みとして施設の充実、そして同校内のみで使える「Mランドマネー」という通貨の発行などがある。施設はテニス、ゴルフ、バトミントンといった運動場、またカラオケ、ネイルサロン岩盤浴などリフレッシュできるもの。通常の合宿施設以上に充実した設備を用意。また「心の教育」と「和の文化に触れる」ことを目的として、茶室も備えている。
Mランドマネーとは、これら施設を含めた校内全般で使えるMDS独自の通貨だ。単位はドルで、100円=1ドル換算で販売されており、前述の掃除などのボランティアを行うと、その働きによって相応のドルをもらうことができる。これも「ゲストには良質の経験をしてほしい」という小河会長の想いから長年続けられているものだ。

ゲストはMランドマネーを得るためにトイレ掃除や校内清掃を始めるケースが多い。しかし、いつしかマネーではなく、掃除によって得られる充実感を求めるようになるそうだ。

想いが提供価値になる。MDSの教え

他にもゲストが校内のお世話になった人に渡す「ありがとうカード」や、地域活性を目的にしてスタッフがすべて運営をする「MDSまつり」の開催など、取り組みは様々。これらはすべて、小河会長をはじめとしたスタッフの想いが形になって現れたものだ。
実際、ここでの経験が若者に大きな影響を及ぼし、礼儀がきちんと身につくというケースは多いという(子どもが礼儀正しくなって帰ってきて、親からの感謝の手紙をもらうこともあるとか)。このような良質な経験が口コミで広まり、次のゲストが訪れるという循環が生まれている。
小河会長は、「自動車学校は15日間しか通わない。昨日入った人もいれば、今日卒業の方もいると、1日しか一緒にいることがない人もいる。せっかく来ていただいたゲストに、一生の内、卒業した後も、免許証以外の何かを持っていってもらいたい」と、メディアで語っている。

MDSは自動車学校でありながらも、「心を教育する」場所でもある。免許を獲得した後、責任ある大人として自動車を運転することと向き合い、社会のなかで良識をもって立ち振舞う人間であってほしい。MDSは全国から集まる若者に対してそのことを伝え続けている。心の教育にかける想いが様々な取り組みになり、その取り組みがMDSの提供する価値となる。想いに基づいた、まっすぐなひとつのブランドストーリーがそこにはあるのだ。

自動車学校は一般的に差別化がし難く、競争が激しい業界だと言われる。しかし想いを形にし、ブランド価値にまで高めることが可能だということを、MDSは教えてくれた。たくさんの若者がその想いに共感し、「ここで免許を取りたい、学びたい」と考えているのだ。他にはないブランドストーリーを持つMDSからは、たくさんのことを学ぶことができるだろう。

第1回〜第3回のまとめ

これまでの3回の連載において、それぞれマツダ、農家の台所、益田ドライビングスクールの事例を見てきた。
マツダは自動車づくりへの想いを、子供が車遊びに夢中になるかのごとく「Zoom-Zoom」という言葉で具体化し、農家の台所は語り部の取り組みや店舗ごとのコンセプトの違いを通じて、野菜への想いを形にした。そして益田ドライビングスクールは、心を育てるという想いを付加価値にまで高め、顧客と向き合い続けている。
これらの企業の共通点は、それぞれの想いを事業に落とし込み、ひとつのストーリーを形作っていることだ。成功する企業には、必ずブランドストーリーが存在する。企業が成長をしていく上で、想いを軸としたブレのないストーリーを描いていくことは、非常に大切だと言えるだろう。

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