「未来を創ることができるのは経営者だけ」スノーピークに見るブランディングとは
2018/12/20(最終更新日:2021/09/10)
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「Snow Peak(スノーピーク)」というアウトドアブランドをご存知だろうか。メディアで取り上げられることもよくあるため、ご存知の方も多いだろう。今月、米国に完全子会社を設立することを発表したことでも話題になった同社だが、ブランドづくり、すなわちブランディングに力を入れている企業なのだ。
スノーピークの設立は1964年。新潟県三条市にて、現代表の山井太氏の父親である山井幸雄が創業した山井幸雄商店という金物問屋がスノーピークの母体となっている(のちにヤマコウ→スノーピークと社名変更)。キャンパー自身で車を運転し、そのままキャンプ場に乗り入れる「オートキャンプ」スタイルを世界に先駆けて発信し、オートキャンプブームを巻き起こした。
その後、ブームの終焉とともに売上が低迷した時期もあったが、「自然指向のライフスタイル」を提唱し、それに準じた製品を提供することで、売上を着実に伸ばす。
2011年には本社を拡張移転。社屋の隣には直営のオートキャンプ場を開き、誰もが自由にキャンプができるようにしている。2014年にマザーズ上場、2015年には東証一部に市場変更をし、快進撃を続けている。
スノーピークの商品は一般的なアウトドア製品と比べて、高いとされている。しかし、購入する人は後を絶たず、ファンが増え続けている(そのようなファンは「スノーピーカー」と呼ばれるそうだ)。またアウトドアを始めた方々の一つの流れとして、最初は割安な海外ブランドを使用するが、回数を重ねるにつれてスノーピークに買い換えるというケースが多いそうだ。
なぜそれほどまでに多くのファンが生まれるのだろうか。その理由のひとつは、徹底的にキャンパーのことを考えたデザインであることが挙げられる。スノーピークの山井社長自身が年に60泊程度キャンプをするという、根っからのキャンパー。自社のオートキャンプ場に泊まり、そのまま出勤することもあるという山井社長は、誰よりもキャンプが好きだと話している。自身のキャンプ経験で培った知恵や教訓が、製品開発にふんだんに活かされているのだ。
これは「事業としてアウトドアビジネスを手がける社長」とは大きく姿勢が変わるだろう。例えばスノーピークブランドのテントヒモは、暴風雨の影響を一定程度受けると切れる仕組みになっている。このヒモは「信号」の役割をしており、万が一切れたら、「キャンプ場から退散してください。危険になる可能性があるので逃げてください」というメッセージなのだそうだ。
このような発想は、社長をはじめとした製品開発陣が本当にキャンプ好きでなければ出てこないだろう。キャンパーに対する心遣いが隅々まで行きわたり、それがスノーピークというブランドを形作っているのだ。
山井社長は、自社のブランドに徹底的にこだわり、それを体現した製品のみを世の中に提供し続けている。たくさんのファンを作り続けている背景には、社長自身の確固たる姿勢があるのだ。
山井社長はメディアのインタビューにおいて、頻繁に語るテーマがある。それは「社長の仕事は会社の未来を創ること」ということ。「事業に奔走している社長も多いが、現場の仕事は社員でもできる。しかし、未来を創ることは社長にしかできない。未来を創るために、経営者の最も大切な役割は、自社の企業理念を作ってそれを浸透させていくこと。加えて事業領域を定めることだと思います」と話す。
これは山井社長の経営者としての覚悟を同時に表わしているだろう。自社がどこに向かっていくか、自分たちは何をすべきなのかは、トップにしか決めることができない。自社のブランドが向かっていく方向性は社長しか決めることができない、ということだろう。
事実、山井社長は代表取締役に就任する6年前に、「The Snow Peak Way」というミッションステートメントを策定している。経営者を父親に持つ山井社長は、経営者しか進む道を決められないことが身に染みて分かっていたのだろう。このような取り組みを山井社長自身は「決してブレない北極星を決める」と表現しているのも非常に興味深い。
そして意外に知られていないことだが、山井社長自身は自分が手がけた最大の仕事のひとつを「創業者をポジショニングしたこと」だと、話している。これは単に会社を継ぐのではなく、創業者がどういう想いで会社を立ち上げ、現在のスノーピークを形づくり、未来に何を残していったのかということを、一連のストーリーとして明示したということ。これにより創業者の立ち位置が明確になり、自分たちが働く意味、そして今進むべき方向性に、説得力が増した。これも社長、とくに二代目社長にしかできない仕事だろう。スノーピークの成長と、このような取り組みは、決して無関係ではないと思う。
駆け足でスノーピークの成長を見てきた。同社の強さを創り出しているものは何か、少しずつ見えきたように思う。
「未来を創ることができるのは、社長だけ」。これはひとつの真実だろう。社長自身が今現在の事業の舵取りを行うことも大切だが、果たしてそれは、未来を見据えての舵取りなのだろうか。
スノーピークにブランドに対する考え方からは、多くのことを学ぶことができる。自分たちにとっての北極星は何かを、考えるきっかけになればと思う。