ブランド戦略の起点は「価値観」にある
2018/08/29(最終更新日:2021/12/20)
これからの時代、どのようなブランドが生き残ることができるのか――。刻一刻と変化するビジネス環境において、この問いは多くの企業を悩ませる。どんなに好景気で、自社に有利な経済状況であろうと常に安心はできないのだが、現代は既存の産業が急速に縮小したり、反対に一夜にして億万長者が生まれたりするような、変化のスピードや経済の浮き沈みが早い時代だ。そのなかでも時代の流れに対応し、常に必要とされるブランドやサービスをつくるには、何が大切なのだろうか。
今年7月、「RISE(ライズ)」という大規模なテックカンファレンスが香港で開催された。カンファンレンスHPには「”The largest tech conference in Asia” – Korea Times(『アジア最大のテックカンファレンス』とコリアタイムスに評された)」と記載されている。日本国内ではその知名度は決して高くないが、このカンファレンスはアジア発、もしくはアジアをマーケットにしたいと考えているテック系スタートアップ企業が一堂に会すイベントであり、規模がとても大きいのがその特徴である。
本カンファレンスでは、IT/Tech関連の近未来的なサービスやアプリケーションが多く集まっているが、なかでも注目を集めたのは「Vegan Nation(ビーガンネーション)」というサービスだ。
これは名前の通り、「ビーガン(完全菜食主義者)」のためのサービス。ビーガンについてはあらゆるメディアで取り沙汰されているのでご存知の方も多いだろう。そのビーガンの悩みは、身近に同じ考えを持つ人がいないこと。マイノリティであるため、仲間を見つけられずにいる方が多いというのだ。本サービスは、そのようなビーガンの悩みを解決するのに役立っている。
画期的なのは、サービスを通じて同じ考えを持つ仲間とつながれるだけではなく、独自の仮想通貨を発行しており、Vegan Nation内で経済圏を形成していることだ。
これまでにもインターネットの掲示板やSNSで仲間を募り、Web上で交流をしたり、同じ考え方や生き方をする人々が直接的に会ってコミュニケーションをとったりすることはあった。しかしVegan Nationではそのような従来の価値に加えて、独自の通貨を介して場所を問わず経済的につながることができる。これはまさに新しいNation(国家)の創造。コミュニティの枠を超えた、技術が生んだ新しいつながりだと言えるだろう。
また最近、メディアを賑わせているサービスに、アメリカのスタートアップ企業が開発した「Venmo(ベンモ)」がある。こちらは一言で言えば、個人間送金ができる「割り勘」アプリだ。
本アプリのもたらした変化のひとつが、グループ購買の促進。パーティやイベントを開催したときに、その代金の集金に関して煩わしさを感じたことのある人は少なくないだろう。これまではその場で現金で渡すか、もしくは銀行振込などを活用していたと思うが、Venmoはこの手間をなくす。本アプリに登録をしておけば個人間で送金ができるので、ボタンひとつで必要なお金を送ることが可能に。
もちろんユーザーには履歴が残るので回収リスクも低い。それに加えて、アプリ上では登録メンバーが「いつ、何に対して料金を支払ったか」が、タイムラインで把握できるようになっている。そのため仲間の消費行動を把握でき、そこで自身もその購買活動に参加をするなどができるのだ。この機能が次のVenmoの活用機会創出につながっていると言われている。
Venmoの影響は大きく、アメリカでは「ベンモする」という言葉が生まれるほど。日本ではまだ個人間決済サービスは主流ではないが、浸透に関してはもはや時間の問題だと言えるだろう。
このような既存の概念を覆すようなサービスの出現は、枚挙にいとまがない。今この瞬間も多様なサービスが生まれているが、Vegan NationやVenmoのように、多くの顧客の心を掴むものには共通点がある。それは、人々の「価値観」にフォーカスを当てている点だ。
従来のマーケティングでは、サービスを作る際には性別や年齢、収入など「外形的な特徴」にフォーカスを当てることが大事だと教えていた。その商品は男女どちらが購入をするのか、若者向けか高齢者向けか、富裕層向けかそうでないか等……。しかし、これらの分析手法は、もはや時代に遅れをとっているかもしれない。
メディアで注目を集めたり、大きく成長をしたりするサービスは価値観、極端に言ってしまえば、考え方や生き方に着目しているものが多く見受けられる。話題になっているライドシェアリングや民泊は「車は必要な時だけ使えればいい」「仲間と楽しく泊まることができればいい」という、所有以外の価値観に焦点を当てたものだろう。
もちろんすべてのサービスがこの傾向に当てはまるとはいえないが、ビジネスにおいてあらゆる壁がなくなっている今、この「価値観の視点」は非常に大切になってくる。もちろんそれは、ブランドづくりも同様だ。
「良いブランドは共感を呼ぶ」と言われることがある。ブランディングを行っていく際には、「自社はどのような価値観を持った人々にフォーカスをするか」がより重要となるだろう。従来の紋切り型のマーケティングではなく、人の心にどうしたら響かせることができるのか、そしてどうすれば末永く応援してくれるファンを見つけ、育てることができるのか。急成長しているサービスに、これらのヒントを見ることができる。
駆け足で現在のサービスの潮流を見てきた。順調に成長を重ねているサービスにはファンを作る仕組みがあるし、それはまたブランドづくりに通じている。自社は誰の価値観に寄り添い、ブランドを作り上げていくのか。今一度、考えてみるのも良いかもしれない。