ブランド戦略の徹底が、グローバル展開の鍵を握る
2018/06/20(最終更新日:2020/07/28)
「プリンスホテル」といえば日本では誰もが知る有名なホテルだ。長い歴史を持ち、多くの大物や著名人が利用している。現在では国内47ヶ所、海外7ヶ所のホテルや旅館を持つ一大ホテルグループだが、今年の6月よりオーストラリアのシドニーで新たなホテルブランド「The Prince AKATOKI(ザ・プリンス・アカトキ)」をスタートした。
「The Prince AKATOKI」は世界のラグジュアリー層がターゲット。海外において和のデザインや日本らしいおもてなしなど、日本の文化的要素を取り入れたラグジュアリーなサービスを提供することを目指している。コンセプトは「日本人によるブランド」。国内でも「高級」「洗練された」というイメージを持つプリンスホテルだが、この強みと日本らしさを掛け合わせることで、高級志向を持つ世界中の顧客を対象として新たな展開を行っていくようだ。
ちなみに、AKATOKIは漢字で書くと「明時」。「暁(あかつき)」のより古風な表現で、「夜明け前」「夜が明ける」「新しい時が来る」「実現する」といった意味合いを持つ。日出る国である日本らしさや、プリンスホテルがグローバル展開を実現する様、新しい時間を作り出すといった未来に向けた可能性を表現。加えて日本の季節や染織物、絵画などから生まれた伝統色(和色)である「朱鷺色(ときいろ)」「赤朱鷺色(あかときいろ)」に注目し、名称に活かすことで日本らしさを表現しているという。
最近では技術力や商品力と合わせ、日本国内で培ったブランド力をグローバルで活かしていく企業は多い。プリンスホテルのように、「高級」「日本流のおもてなし」といったブランドイメージをそのまま輸出するケースも多いが、なかには国内とは違ったブランドを新たに構築していくケースもある。
そのひとつがラーメンの一蘭だ。とんこつラーメン専門店として福岡に本社を持つ同社は、国内で急速に多店舗展開を推進。2017年度時点で売上220億円を超えた。
一蘭の特徴はそのシステムにある。訪れたことのある方ならご存知かと思うが、客席は一人ひとり仕切りで区切られている。厨房、また配膳をする店員の顔も見えない仕組みになっており、丼のみが仕切りの間から提供されるという徹底ぶりだ。オーダーに関しても麺の硬さ、スープの味の濃さ、調味料の辛さなどにおいて細かい調整が可能。雰囲気は落ち着いていて清潔感が保たれており、集中して味を楽しむ環境が整えられている。
一蘭は2016年10月に、全米1号点としてニューヨークで店舗をオープンした。同地での販売価格は1杯18.9ドル(約2000円)。日本人の感覚からすると高く感じるが、連日長蛇の列ができるほど人気を博しているようだ。
店舗のシステム、また味に関しては日本国内のものとほぼ同様とのことだが、現地の人々は徹底した味の調整やそれを堪能するためのこだわりを、「おもてなし」と解釈しているのかもしれない。オープンした当時、一蘭の人気の秘密を「ミニマリスト的な禅のアプローチ」と少々大げさな捉え方をしたメディアもあったほど。味に集中するための配慮と店員との低接触が、ネットなどを介して人と繋がることを強いられている現代人に好まれたと評している。国内では「味」を楽しむための演出が、海外ではそれに加えて「ひとりになれる空間」を提供していると解釈され、それが「高級な体験」といったブランドイメージの構築につながったというのだ。日本ではラーメンといえばファストフードの代名詞だが、海外では高級志向で販売することも可能なのである。
反対に国内で低価格、海外でも低価格というブランドも存在する。讃岐うどん専門店「丸亀製麺」はそのひとつだ。
同社は2011年に海外1号店として、ハワイ・ホノルル市に店舗をオープンした。同地域のランチの料金相場は1食10~15ドル程度とのことだが、丸亀製麺はかけうどん(並)1杯3.75ドルという破格を維持。セルフサービス式を採用しておりチップ不要のため、かなり安く感じられるだろう。国内外に800店舗近くを持つ同社だが、ホノルル店の売上はそのなかでも1、2位を争うほどだとか。
またディスカウントストア大手のドン・キホーテもハワイをはじめ、カリフォルニア、シンガポールに出店。海外でも「低価格」「豊富な品揃え」を武器にしており、着実に売上を伸ばしている。
様々な企業の事例を見てきたが、すべてに共通しているのはその戦略が「高級」か「低価格」か、非常にはっきりとしていることだ。これはグローバルの舞台では、「そこそこの値段」や「そこそこの質・体験」といった中途半端な戦略ではうまくいかないということを示唆しているのかもしれない。
しかし裏を返せば、グローバル展開を機に一気にブランドを高級志向に変えていくことも不可能ではない。一蘭では、オーダーの際に店員に渡す注文票を持ち帰る外国人が多いという。細かな指定のできる注文票は「おもてなし」の体現なのだ。国内では当たり前になっている事象を見直すことで、独自の体験に昇華できたり、他にはない強みとして付加価値を上乗したりすることもできるのである。
グローバル展開の重要性が叫ばれて久しい。意気揚々と出立をしても数年で撤退を強いられる企業も多いなか、生き残る企業はブランド戦略が徹底されている。これは着目すべき事柄だろう。「なんとなくいいよね」ではなく、「ここがウリで、これはうちにしかありません」と胸を張って言えるのか。そのような強さと確かさが、グローバル展開を考えている企業に求められているのではないだろうか。