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「値上げ」でブランドを強くする

2018/02/20(最終更新日:2020/07/28)

ブランディング

先日、「日銀総裁の黒田氏が続投」というニュースがあらゆる政治・経済関連メディアで流れた。任期である5年を超えて続投するのは異例で、約60年ぶりとのこと。異次元緩和を推進し、その功績が認められたためだという。
黒田総裁は2013年1月に「物価上昇率2%」を目標に掲げて改革をスタート。様々な施策が功を奏したのか、実際に少しずつ物価が上昇している。いわゆるデフレからインフレに転じているのが、現在の日本の状況だろう。もちろんなかには野菜の高騰の代表されるような、不作など別の事情が影響している例もあるが、経済が全体的にインフレ状態であることは確かなのだ。

しかし景気の良くなる合図だからと言って、「商品の値上げ」が快く消費者に受け入れられるかといえば、決してそうではないだろう。例えば一部の加工食品では値上げをしないかわりに「量を減らす」ことで調整を図っているケースも少なくない。消費者からの反発を恐れる故の策であると思うが、この判断は非常に興味深い。「値上げ」より「量を減らす」方が、消費者に与える心理的影響が少ない、と各種メーカーが考えたからだ。値付けは「経営で最も大切」と言われるほどの重要要素。多くの企業が「値上げをすると顧客離れが進む可能性がある」と、現在の状況を判断しているのと思われる。

しかし、本当にそうだろうか。「安くて良いもの」に慣れてしまった消費者に対して、商品の値段をあげることは非常に勇気のいることだが、なかには値上げを利用してブランドをより強固なものにしている事例も数多く存在する。単なる利益創出のための値上げではなく、質を上げるための値上げであれば、ブランドイメージを向上させることも不可能ではないのだ。その好個の例のひとつに、リンガーハットの運営している飲食店「長崎ちゃんぽんリンガーハット」がある。

リンガーハットは1970年、長崎で創業された。同社はほかにも「とんかつ濵かつ」というとんかつ料理専門店、「長崎卓袱(しっぽく)浜勝」という卓袱料理を提供する店を運営しているが、知名度は「長崎ちゃんぽんリンガーハット」が最も高い。店舗数も3ブランドの中ではズバ抜けて多く、同社IR資料によると2018年1月時点で658店舗、海外にもアメリカ、タイ、カンボジアなどに7店舗を構えている。誰でも一度は看板を見たり、店舗に入ったりしたことがあるのではないだろうか。現在では業績が好調な同社だが、2004年頃からは経営不振に陥り業績が低迷。その後しばらくは回復を果たすことができず、2009年2月度には過去最大の赤字を出してしまうほどの事態に陥っていた。

その主な要因は低価格競争に参入し、商品力が低下してしまったことにある。デフレの真只中において、ほかの外食企業に顧客を取られまいと価格を下げたようだが、それが裏目に出てしまったのであった。

この状況を変えるべく、同社は09年9月に主力メニュー「長崎ちゃんぽん」の値上げを決断。地域別に50円から100円ほど価格をあげると発表した。余談だが、同月15日にはアメリカ大手証券会社のリーマン・ブラザーズ・ホールディングスが経営破綻している。日本の経済状況がどうなるか予測できない状況下での決断であった。

しかし、会長兼社長の米濱氏は動じない。ブランド価値をあげるべく「リンガーハットは09年10月1日から日本国内で採れた新鮮な生鮮野菜しか使わない」と「国産野菜100%採用」を宣言。値引きクーポンも発行廃止し、価値を上げることに専念した。
この決断に対して、当時の他経営陣は大きく反対したという。しかし「国産野菜を使ったおいしいちゃんぽんを提供することが業績回復につながる」と米濱氏は確信していたため「とにかく、やれ」と現場に発破をかけた。

この采配は功を奏し、宣言実行から2ヶ月後の12月には1年9ヶ月ぶりに、既存店の売上高が前年同月比プラスに。その後も業績は回復し、15年以降は毎年過去最高益を更新するようになったのだ。

リンガーハットとは反対に、ブランドの地盤をしっかりと固めてから、値上げを行う企業も存在する。現在、破竹の勢いで成長を続けている鳥貴族がそれに当てはまるだろう。多くの人がご存知の通り、同社はすべて均一価格。値段が安いながらも、良質な商品を提供することで知られている。

鳥貴族も2017年10月に値上げに踏み切っている。それまで商品価格を一律280円(税込)としていたのだが、一律298円(税込)に変更したのだ。割合にして約6%。リンガーハットのように食材を変えるわけでなく、商品構成を変えるわけでもない。消費者からすると何も変わっていないため、顧客離れが起きてしまうのではないかと各方から言われていた。

しかし、実際に値上げをしてもその勢いは止まらなかった。同社の人気の理由は「おいしさ」や「店の清潔感・入りやさ」などにあると言われている。質の良いものを提供していれば少々の値上げは影響がないと、ある種の証左となる事象であった。

インフレ局面にあって値段を上げることに躊躇している企業も多いが、ここで見てきたように、値上げをきっかけにブランド力を向上させることも可能なのだ。しかし、ただ無作為に値上げをするだけでは顧客は離れてしまう。値段に見合った商品やサービスを提供することができれば、顧客は決して離れないということなのだろう。
もしかしたら経済の流れが変わっている現状は、ブランドを変えるチャンスなのかもしれない。この状況を追い風に、一層の成長を遂げていきたい。

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