「コト消費」をブランド形成につなげていく
2017/05/29(最終更新日:2020/07/28)
今年の4月、銀座最大級の商業施設として「GINZA SIX(ギンザ シックス)」がオープンした。銀座松坂屋の跡地に立つその建物は、開発当時から話題になっているためすでに足を運んだ人も多いだろう。そのコンセプトは「Life At Its Best(最高に満たされた暮らし)」。
まさにその言葉の通り最高級の暮らしを追求するかのごとく、豊かなライフスタイルを彩る店舗が集結している。カテゴリはファッション、アート、フード等々あらゆるジャンルに及び、世界を代表する高級ブランドが名を連ねているようだ。銀座の地はインバウンドの観光客も多く、国内外から人が集まっている。今後同施設は東京を代表する観光拠点として、世界から注目を集めていくだろう。
さて、そんなハイブランドが多く集まるギンザシックスだが、我々にも非常に馴染みの深い企業が入居しているのをご存知だろうか。
あのTSUTAYAを運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(以下、CCC)が「銀座 蔦屋書店」としてテナントを持っているのだ。業態はその名の通り本屋。本を介してアートと日本文化、そして暮らしをつなぎ、「アートのある暮らし」を提案していくのだとか。
同社代表の増田氏は、かねてから自社のことを「企画屋」と言っていた。そのため本店舗も、ただ書籍が並べられているわけではない。書店の隣にはスターバックスコーヒーを併設。アート関連の本を充実させており、コーヒーを楽しみながら洗練された空間で芸術や文化に触れられる形となっている。また訪日観光客を意識して、日本刀の陳列等も行なっているとのこと。開店直後から売上は好調のようで、唯一無二の書店として独自のブランドを形成しているようだ。
近年「モノからコトへ」といった言葉に代表される形で、「コト消費」があらゆる場所で叫ばれているのはご存知だろうか。豊かな日本ではモノが溢れており、機能での差別化は難しい。そういった状況において商品の所有を促すのではなく、その場所でしかできない経験や体験を提供していこうというのがコト消費だ。経産省発表の資料より引用すると、コト消費とは「製品を購入して使用したり、単品の機能的なサービスを享受したりするのみでなく、個別の事象が連なった総体である『一連の体験』を対象とした消費活動のこと」を指すらしいが、前述の蔦屋書店はまさにコト消費の代表例と言えるだろう。
本が欲しいのであれば、今の時代スマホ1台あれば事足りる。蔦屋書店に足を運ぶ人々は本を買うことだけが目的ではないだろう。CCCがプロデュースする空間を五感で楽しみ、結果的にその場で気に入った本を購入していると言った方が正しいかもしれない。書店の不振が叫ばれる今、あえて実店舗だからこそ生み出せる価値を追求した結果、現場に訪れなければ体験できないコト消費を実現したのだ。
「コト消費」は今後企業が勝ち残っていく上で重要なキーワードになっていくと考えられる。「CCCのような大手にしかそんなものは実現できないよ」と思う方も多いかもしれないが、これは競争の激しい中堅・中小企業こそが向き合うべき考え方だろう。
提供するサービスが持つ価値を見直すことで、独自の成長戦略を描くことができるかもしれないのだから。
大きな予算を設けなくても、独自の「コト」は提供できる。その好例となるのが、株式会社エモーションズの取り組みだ。同社はirina(イリナ)というブランドで、首都圏を中心にケーキ屋を数店舗展開している。一見すると他社と大きな違いはないように見えるのだが、ある商品が「ここにしかない」という理由で抜群の人気を誇っているとか。それは「組み立てる」ケーキだ。
パーティ用に販売される一箱25個のミニロールケーキには、なんと組み立て説明書が付属されており、自分たちが手を動かしつくることで完成される。イリナは素材を提供しているだけ。言うならば「『お菓子のお城』をお客様が建ててください」という提案なのだ。その作業では「こうした方がかわいい」「こんな配置にしよう」と工夫がなされ、子どものみならず大人でも会話が弾んでしまう様子が目に浮かぶ。またケーキは1つも同じものがない。そのためおいしい味を探すさまは、宝探しをするようなワクワクした気持ちを誘発するとか。つくっても、食べても満足できる楽しさがある。まさに独自の工夫でコト消費を体現し、ブランドを確立している企業だと言えるだろう。
また大阪では、複数の事業者が連携することでコト消費をつくり出していこうという取り組みがある。その1つが「観光素材工房」だ。同会合はNPO法人スマート観光推進機構が運営しており「日本に魅力的な観光スポットや商品を創るためのコミュニティ」として、企業間の交流会や成功事例の共有、コンテンツ企画、またマッチングやオリジナル商品の販売などを行なっている。こちらは現在の事務局のメンバーが、大阪に「体験コンテンツ」がないことに危機感を抱き創設。観光関連産業を営む事業者や、旅行会社に勤める方々が参加している。確かに1社単独では提供できるものに限界があるかもしれない。しかし複数の企業がコラボレートすることで、他の地域にはない独自のサービスを生み出すことも可能になるのだ。
今後より注目を集めることが予想されるコト消費。その勢いは年々強さを増しているが、そのなかでどう生き残っていくか画策している企業も多いだろう。自社には何ができるのか悩む企業も多いかもしれないが、体験に主眼が置かれているため多大な投資がいらないという側面もあるし、場合によっては前述のようなコミュニティを活用することで連携してサービスを生み出すことも可能だ。その取り組みが形になったあかつきには独自の強みが形成され、盤石な形での成長も期待できるだろう。
自社では何か活用できる資源はあるだろうか。あらためて見直すことで唯一無二の「コト」を発信し、強いブランドをつくっていきたい。
【参考サイト】
・株式会社エモーションズ(irina) http://www.irina-irina.com/
・観光素材工房 http://kanko-sk.net/ksk.html
https://irodori2u.co.jp/k00210/#i-2