「遅延割引」という言葉を知っていますか?
割引といっても、何かがお得に手に入るわけではありません。
むしろこれは、私たちの所得を下げてしまいかねない、恐ろしい「罠」なのです。
今すぐもらえる100万円と、3年後にもらえる100万円とでは、どちらが魅力的でしょうか?
ほとんどの人は前者を選ぶでしょう。
こう聞くと当たり前のことに思われるかもしれませんが、人間の脳は目先の利益を高く評価し、後から得られる利益を割り引いて感じる性質をもっています。これが、遅延割引です。
こうした物事の主観的な価値は、遠い未来のことになればなるほど大きく割り引かれていきます。
よって、先ほどは「100万円をいつもらうか」で選択肢を提示しましたが、この遅延割引が効力を発揮すると、「目先の50万円」と「10年後の100万円」という比較であったとしても、前者を選ぶ人がたくさん出てくるのです。
100万や50万がもらえるというのは非現実的ですが、遅延割引が影響を及ぼす場面は、日常生活においても決して少なくないでしょう。
子どものころであれば、「今は遊びたい、宿題は後でやればいいや」と目先の欲求を優先して、夏休み最終日に地獄を見たり……。
大人であっても、「今すぐ年収を上げたいから、今の会社でコツコツやるより、給与の高い会社に転職しよう」もしくは「本業一本でキャリアを積むより副業して収入をドンと増やそう」と判断したり……。
このように、遅延割引は我々の判断にバイアスを与え、本質的には自分のためにならないような選択に踏み切らせてしまうことがしばしばあるのです。
充実した人生を送るためには、そこに気付かなければなりません。
事実、目先の利益に惑わされないような自制心が強い人ほど、高い所得を得ていることがアメリカの研究からわかっています。
上述の例でいえば、何のスキルも身に着いていない状態で転職するよりも、いろいろな副業に手を出してみるよりも、5年10年と一つのスキルに向き合って自分の武器を獲得した方が、生涯自分の役に立つのは明白です。
それでも、今は若手の転職や副業が容認、むしろ推奨されるような世の中。
トータルで見たとき、彼らの人生にとって本当に良い選択とは何なのか。それを伝えていく責任が、我々大人には求められるでしょう。