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メディアコマース先進企業に見る、Webから始まるブランディング

2016/11/21(最終更新日:2021/12/09)

ブランディング

筆者はよく本を読む。ビジネス本を中心にあらゆるジャンルを読むのだが、購入にはもっぱらAmazonや楽天等、ECサイトを使うことが多くなってきた。普段じっくりと書店で本を探す余裕がなく、また「今度買おう」なんて思っているとタイトルさえ忘れてしまう。そんな無精な筆者には、ボタン1つですぐに購入できる仕組みはとても便利に感じる。

読者の方々もECで商品を購入したことがあるだろう。調べてみるとユーザーは増え続けており、2020年までにその市場は20兆円に上るとか。ひと昔前までは「疑い深い日本人には相手の顔が見えないネット上での商品決済なんて性に合わない」なんて言われていたが、そんな予想は大きく覆されているようだ。

国内有数の急成長市場でもあるECだが、その中でも現在「メディアコマース」と呼ばれる販売手法が注目を集めている。それはいわゆるAmazonや楽天に店を出す「モール型」や自社で販売サイトを持つ「自社サイト型」と言った手法とはひと味違う。名前の通り自社のメディアとしてサイトを運営し、商品購入に誘導する方法だ。

この手法、課題になるのは品揃えや価格ではない。もちろんそれらも大事なのだが、最も大切な要素は「そのサイトが持つ世界観」である。メディアコマースで成功しているすべての企業は、そのサイトに独自の世界観を有しており、ユーザーはそれに惹かれたファンである。「安いから買う」「楽だから買う」のではなく「ファンだから見る、買う」ため、前述の通り顔が見えないにも関わらず、長期的な信頼関係が構築しやすい。また裏を返せばWebを通した独自のブランド構築が可能であるため、ECサイトの有無にかかわらず、多くの企業に学びある手法と言えるのだ。

業界内外から注目を集めるメディアコマース。とはいっても実は、まだ明確な定義がない。だが従来のECと大きく違うのは、決済までの経路だと言われている。

従来のECだと「購入者が買いたい商品が(明確に)ある→Webで検索して購入」という流れが一般的であった。しかしメディアコマースは、ユーザーの購入意思の有無に限らず定期的にサイトに訪問、回遊してもらい、気に入った商品があったら購入してもらう、という流れが多い。例えるなら「休日にお気に入りのセレクトショップに足を運んでみたら、良い商品を見つけたので購入した」「毎月読んでいるファッション誌に載っていた服が気に入ったから、翌日それを買いに行った」といった流れに近いかもしれない。そういったお店や雑誌の「色」に共感するユーザーに集まってもらい、読まれる中で自然発生的な購入を促すコミュニケーションが、メディアコマースと呼ばれる考え方なのだ。

そんなメディアコマースで成功しているサイトの1つに「北欧、暮らしの道具店(クラシコム社)」がある。その名の通り北欧の生活用品や雑貨を扱っているECなのだが、読み物等のコンテンツを充実させており、商品の写真も他ECサイトに比べ多数使用している。利用シーンや魅力をイメージできるよう、あらゆる角度から商品を掘り下げているのが大きな特徴だ。

実際に見ていただければわかると思うが、同サイトが行っているのは「生活の提案」だ。単に商品を羅列するのではなく「この商品を生活のこんなシーンで使えば、こんな生活が手に入りますよ」と訴えかけてくるような構成になっている。国内の生活用品とはひと味違う北欧雑貨を用いることで、生活に潤いがでる、自分らしさが演出できる、少し違う毎日が演出できる――。そんなストーリーさえも、商品紹介1つでイメージさせている。

また「カメラのキタムラ」でおなじみのキタムラ社も、メディアコマース成功企業として注目を集めている。1943年創業、国内で1300店舗を有し売上1100億円を超える老舗大手企業だが、実はECを駆使し売上を伸ばしている成長企業でもあるのだ。

同社サイトの特徴は、その動画の量と質の高さにある。キタムラ社はなんと、自社ECサイト上の商品のほぼ全てに対して動画を制作しており、その1つ1つが商品の魅力を懇切丁寧に説明するつくりとなっているのだ。

テレビショッピングをイメージすると良いかもしれない。動画を見ると、商品に対してきめ細かな説明がなされており、実際にその場で使っているような印象まで味わえる。カメラの特徴であるシャッター音、触った際の感触、そのカメラならではのメリットなどがリアリティをもって理解することができ、写真やCMでは表現できない魅力を余すところなく伝えている。カメラという分野において専門家が徹底的にその良さを説明し「Webでの接客」を見事に実現しているのだ。

これはカメラ専門店だからできる強みでもある。他の家電量販店では1つの商品に対し1つの動画を作るのは、コストと知識の問題で難しい側面があるだろう。カメラの知識に長けた従業員が、店舗で接客するだけでなくこういった動画をつくっているということ自体が、他店との差別化に繋がる。

また面白いのは、これらの動画が社員教育用にも使われているという点だ。もともと販促用のみに動画を制作していたそうなのだが、ある時これは研修にも使えることが出来るのではないかと思いつく。販促用と研修用の動画は分けているそうだが、研修動画も実際に自分が購入者になったような感覚で商品を理解できる構成となっている。楽しみながら、また勉強しているという感覚が無く商品のことを学べるのだ。今では「動画の通りにやったら、商品が売れるようになった」と現場の販売員から喜びの声を聞くこともあるとか。動画は接客のロールプレイングでもある。それを見て学ぶことで、販売員は自分の発する言葉に自信をもてるようになるそうだ。

同社は販売において「高いレベルでの均一な接客」を目指している。お客様がどの販売員に質問をしても、全員から満足できる回答や知識が得られることを目標としているそうだが、動画はその手助けとなっている。外部向けのマーケティングが内部にも良い影響を及ぼした、好個の例ではないだろうか。

現在では多くの企業が取り組んでいるEC。今後さらにこの流れは加速するだろうし、BtoB、BtoC問わず、多くの企業でEC戦略は無視できないものとなっていくのは想像に難くない。

そのような環境下で、どのように自社のブランドを構築していくべきだろうか。今回紹介したメディアコマースは、それ自体が黎明期であるため、ファンを増やすことができれば唯一の立ち位置を確立できるし、またこの考え方をうまく自社の販促に取り入れることができれば、独自のブランド構築も可能になるように思う。キタムラ社のようにWebからリアルの接客へと影響が波及するケースも、今後多く出てくるだろう。

Webを介したブランド構築。一昔前はITとひとくくりにされていた分野だが、インターネットはあらゆる業態で無関係とはいえない存在になっている。自社では何が出来るのか、考えてみるのも1つかもしれない。

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