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デザインが変える、組織の未来

2016/10/24(最終更新日:2021/12/09)

「デザインの力で日本一奪還へ 早大ラグビー部」。先日、新聞を読んでいたらこんなタイトルの記事が目に留まった。デザインとラグビーがどのように関わってくるのだろう。興味をもって記事を読み進めた。

ラグビーは大学スポーツにおいて、野球や箱根駅伝に負けず劣らずの人気を誇る。1964年から今まで51回に渡り全国大会が行われており、強豪同士の試合や全国大会ではプロ野球の観客数を超えることもあるとか。そんな人気競技を支える強豪校の1つに、早稲田がある。同大は全国大会で何度も優勝をするほどの実力を持つ、全国屈指の名門校なのだ。

その早大ラグビー部だが、実は09年の1月以来、全国大会の優勝から遠ざかっている。長い歴史の中で勢いが衰えているのだろうか。実に7年半の間、トップに立てないでいるのだ。そんな状況下、今年2月に山下大悟氏が監督に就任。その手腕が試されるところだが、同氏がまず状況を打破しようと画策した施策が「デザインを活用したチームブランディング」だった。

それは何も「チームのロゴやユニフォームのデザインを変更し、心機一転する」というだけの話ではない。デザインという「ソフトパワー」を用いチームの士気を鼓舞するとともに、観客やOBとのコミュニケーションの質も高め、自チームの在り方を見つめ直そうという施策であった。

同大はデザインのリブランディングを全て外部の企業に依頼し、様々な変革を実行した。まずはユニフォームのデザイン変更を皮切りに応援グッズ等のデザインも一新し、さらにはWebサイトも刷新。ブランディングムービーも作成した。だがそれだけはない。果てはこれを機にチームスローガンの変更も行ったのだ。

改革には複数回のMTGを重ねる等、多くの時間を要したという。しかしこれら一連の施策により、部内の士気は向上。また同部を取り巻くOBやファンの気持ちも盛り上がり、活気を取り戻した。

現在、同大は9月から始まった関東大学対抗戦に出場中であり、1月には全国大会選手権が控えている。18年に創部100周年を迎えるという同部だが、デザインの変革はどのような結果を生み出すのだろうか。今後の活躍が期待される。

組織と事業の逆境や停滞期の克服に「デザイン」は大きな役割を成す。それは単に「気分を変える」だけのものではない。前述の早大ラグビー部のように、外部のステークホルダーや取り巻く人々とのコミュニケーションの質を高め、組織を目的の達成により近づける役割を果たすのだ。

組織の価値向上にデザインが一役買ったケースは枚挙にいとまがない。例えば2013年に農林水産省によって立ち上げられた「農業女子プロジェクト」はデザインで農業のイメージを変え続けている。

農業女子プロジェクトとは「女性農業者が日々の生活や仕事、自然との関わりの中で培った知恵を様々な企業のシーズと結びつけ、新たな商品やサービス、情報を社会に広く発信していくためのプロジェクト」と説明されている。農業関連の仕事に従事する女性の「知恵」や「感性」にフォーカスを当て、それを社会に還元することにより、農業全体の価値を高めていこうという施策だ。

このプロジェクトのスタートは2013年。アベノミクスで「女性の活躍」が叫ばれ始めた頃に発足された。「強く優しく未来を変えていく」をキャッチフレーズに活動しているのだが、同プロジェクトのメンバーは、2年間で10倍に増えたそうだ。現在でもメンバーは増加、また参画企業は増え続けており、長期のプロジェクトとして存続し続けている。

このプロジェクトを支える要素の1つに、デザインがある。8月に公式サイトをリニューアルしたのだが、同サイトは女性を意識したカラフルで親しみを感じるデザインが採用された。またロゴも柔らかみがあり可愛らしい様相をしているのだが、実はこれらのモチーフは、田んぼや畑、果樹園等の地図記号。「女性らしさ」と地図記号は一見すると相反するように見えるが、本ロゴはそのイメージを覆す。

また現在は同プロジェクトだけでなく、農業時の「服装」をデザインするアパレルブランドも増えたりしており、農業全体がファッショナブルでオシャレなものとして若者に浸透しつつある。これらの効果もあってか実際に農業を志す人も増えており、東北では農政局が行った14年度の新規の農業従事者の数が過去最高を記録した。その内訳も20代30代の若者が多く、中には10代も全体の1割ほどいるとか。これまで「ダサい」「つらい」とネガティブな印象を持たれがちだった農業が、様々な機関の取り組みによって変化が持たされている。まさに「デザインで価値が向上した」好例だろう。

組織や事業を劇的に変えるデザインの力。だが企業によっては「ロゴ等のデザインにかける予算がない」とあきらめる場合があるかもしれない。だがデザインは予算をかけたからと言って、良い成果が生まれるというものではない。重要なのは、「組織の理念や想いが体現されているか」「その組織の象徴として活用できるかどうか」という視点だ。実際、コカ・コーラやアップル等は、長年の間ロゴに大きな変化は見られない(多少のマイナーチェンジはしているが)。企業の想いがそこに表れていれば、企業の状況や歴史の重みに耐えることもできるという証ではないだろうか。

企業やブランドを体現するデザイン。それには力強いパワーが秘められている。場合によっては前述のラグビーや農業のように、組織や産業そのものを救うような働きをするだろう。デザインの持つ力を、自分たちのブランド競争力に活用したい。

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