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自社にも起こりうる「パワハラによるトラブル」を未然に防ぐには

2016/09/12(最終更新日:2021/12/13)

パワハラによるトラブルが相次いでいる。現代の企業人で「パワハラ」という言葉を知らない人はいないだろう。しかし、自分や自社には関係ないと感じている人は多いかもしれない。だが、ここ数年「パワハラ被害による相談件数」が増加傾向にあり、しかもその数が膨大な件数に上っている。誰もが無関係とは言っていられない状況にあるのだ。

データによると、厚労省が発表した2015年度の総合労働相談(労務の諸問題に関する相談)件数は8年連続で100万件を超えており、そのうちパワハラとも関連する「いじめ・嫌がらせ」項目は約6万6千件。4年連続で内訳のトップを占めており、過去最多の数字を記録した。しかもこれはあくまで表にでている相談数のため、水面下の事象はさらに多い。どれだけ多くの人が「自分はパワハラ被害を受けている」と感じているのだろうか。いつ自分の部下が「パワハラによって精神的苦痛を受けた」と弁護士に駆け込んでも、おかしくない状況にあるのだ。

そもそもパワハラとはなんだろうか。正式名称は「パワーハラスメント」と言い、それは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」全般を指す。筆者なりに要約すると「余計なストレスを与えるような見当違いなコミュニケーションの、ほぼすべて」となるだろうか。

難しい問題である。「誰が見てもパワハラだ」と思えることは案外少ない。どのようなことでストレスを感じるか、すなわちどのような行為をパワハラと感じるかは、個人の主観による部分が多いのだ。ある人にとってはパワハラと感じる行為が、ある人にとってはそうでもないかもしれない。冗談のつもりで言った一言が受け手を傷つけてしまえばそれはパワハラとして成立するだろうし、傷つかなければパワハラではない、といった具合である。

また近年特に問題になっているのが、世代間の認識の違いによって引き起こされるミスコミュニケーションだ。例えば会社の飲み会における飲酒の強要。「若者のアルコール離れ」などが叫ばれているが、飲み会で上司が新人社員にお酒を飲めと促すことは少なくない。こういった言動に関して、言っている本人は冗談交じりであったり、さりげない一言だったりするのだが、受け手が「苦手な飲酒を強要された」と思ってしまえば、それはパワハラに該当する可能性がある。

もちろん飲み会に限らずで、仕事でのミスコミュニケーションも放置していたら、洒落にならない事態に陥ってしまうこともあり得る。すれ違いが重なり休職や退職を志願する、また前述のように弁護士に駆け込む、という事態も考えられなくはないのだ。実際にそのようなニュースを耳にしたことがある人も多いだろう。

こういった事態を未然に防ぐためには「どのようなコミュニケーションが不適切か」といった認識をそろえ、社内に啓蒙していく必要がある。しかし、線引きの難しい問題を扱うのは難題である。一体どうすればいいのだろうか。

ヒントになる取り組みを行っている会社がある。東証一部上場の鉄鋼メーカーである、JFEスチールだ。同社は1950年創業で、現在売上高は2兆3千億円。日本経済の成長を牽引してきた大企業である。ニュースにも頻繁に取り上げられるので、その社名を聞いたことをある方は多いだろう。しかし、同社が「人権の尊重」を企業行動指針に盛り込み、人権啓発室を設置し、パワハラの根絶に取り組んでいることは、あまり知られていない。

「全ての社員が、家に帰れば自慢の娘であり、息子であり、尊敬されるべきお父さん、お母さんだ。そんな人たちを、職場のハラスメントなんかで、うつに至らしめたり、苦しめたりしていいわけがないだろう」。これはコーポレートサイトに記載されている、同社役員の言葉である。

前述の通り鉄鋼メーカーであるJFEスチールには男性社員が圧倒的に多い。そのため、かつての同社ではパワハラが起こりやすい、またそれが放置されやすい環境だったのではないかと、人権啓発室室長は振り返っている。

その分野で何十年も努力してきた社員のなかには「自分はもっと厳しいことを受けながら頑張ってきた」「自分はこのように育ってきたから、現在もそうあるべきだ」と思っている方もいるかもしれない。もちろんそれは、1つの事実だろう。しかし同社は、そういった意識をパワハラとして表出化しないよう、人権啓発研修等を取り入れ意識改革を行っている。具体的には、ハラスメントとは何なのか、なぜ厳しく禁止することが必要なのか、そして具体的にどのような言動がパワハラに該当するのか、といったことを理解してもらうために、事例を交えた内容を役職に応じ提供している。

また毎年12月10日の「世界人権デー」に合わせて、全国のグループ会社、協力会社や社員の家族も含めて人権標語を募集し、同社が発行する媒体「人権啓発リーフレット」にて優秀作品を紹介している。この取り組みはグループ全社に行き渡り、今では1万件近くの応募が集まっているとか。

このような姿勢は社外にも知れ渡り、前述の役員の言葉は厚労省のサイトにも掲載されるまでになった。また新卒採用や株価の上昇にも少なからず寄与しているだろう。筆者が学生であったら、こういった職場で働きたいと思う。そして、採用が好転すると同社の人材育成などにも良い影響を与えると考えられる。優秀かつ長く働きたいと思う学生の集客は、成長を望む企業にとって不可欠だからだ。

JFEスチールは理念と人権を紐づけることによって、パワハラを根絶しようとしている。ひるがえって、自社はどうだろうか。「うちにはパワハラなんて存在しない」「こんなことでパワハラと言うな」。こういった思い込みや言動は、もしかしたらいつか自分の首を絞めるかもしれない。今一度、自社の風土、カルチャー、そして自身や他社員の言動を振り返ってみてはいかがだろう。「働きやすい職場づくり」は、企業の生産性や成長にもつながる大切な取り組みなのだから。

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