ブランディング戦略「手法と評価方法」のまとめ~ブランド戦略の効果を成功事例から読み取る
2019/12/26(最終更新日:2020/07/02)
ブランディングは非常に重要な戦略要素であるとわかっていても、そもそもブランディングとは何か、と言われると、明確に答えられないということも多いものです。あらゆるサービスや商品が溢れているいまの時代だからこそ、ブランディングの重要性は増しており、最強の武器にもなりえます。
ブランディングの意味や、その効果について成功事例を紹介していきます。
ブランディングとは
ブランディングとは、他の商品やサービスとは異なる独自の目に見えない価値=ブランドを形づくることで、突き詰めればその商品(またはサービス)の価値を「究極まで高めること」です。
例えば、シャネルやエルメスといったブランドを考えてみると、他に代えることができないユーザー共通の高級イメージや形のない価値を持つことであると理解できます。このブランディングがしっかりできていると、価格競争や集客への悩みは解決へと向かうでしょう。
ブランドの価値は、概ね以下の3つに分類することができます。
●機能的価値
●情緒的価値
●自己表現的価値
この3つの価値を高めることが、ブランディングにおいて非常に重要な意味を持つことになります。
機能的価値
「機能的価値」とは、その商品が持つ基本的な機能の価値のことです。
洗濯機なら洗浄力、掃除機ならゴミの吸引力、レストランなら味、といったことですが、どの企業も基本的な機能を上げることには力を入れているものです。ユーザーの満足を得るには不可欠な価値ですが、特に現代においてはこのポイントだけで他の商品との大きな差別化を図るのは難しいと言わざるを得ません。
また、すぐに他社から真似をされてしまうリスクも大きく、結局は価格競争に巻き込まれることになります。
情緒的価値
機能面では他の商品とほぼ同じなのに選ばれる、という要素が「好き嫌い」にあるといった、情緒的な判断です。
これは市場において大きな力を持っていて、「あの人が使っているので自分も使いたい」「持っているだけでかっこいい」というイメージから派生している価値になります。
ユーザーはその商品の持つストーリー性や世界観に共感したり、デザイン性が優れていると思ったりすることで、他とは違う魅力や価値を感じているのです。
自己表現的価値
ブランディングにおいて、先の2つの価値も重要ではありますが、もっとも大切なのがこの「自己表現的価値」です。
これは商品やサービス、もしくはその企業の「在り方」そのものともいうべきもので、例えば、静岡県の果物屋さんは近隣のスーパーにも負けず平均の倍の顧客単価を誇っていますが、それは「〇〇のフルーツなら間違いない」という信頼がブランドになっているからです。
これは誰かに簡単に真似されるようなものではなく、本質を突き詰めることで生まれる価値ともいえるでしょう。
ブランディングが重要な理由とその効果
ブランディングがなぜ重要なのか、その理由と効果から考えてみましょう。
●競合他社との価格競争に巻き込まれないため→適正価格を維持できる
●集客に悩む必要がなくなるため→ユーザーが自ら進んで買いに来る
●安定的な売り上げが見込まれるため→プレミアム商品などでの売り上げ増も可能
●リクルートに有利なため→企業の知名度が上がることで優秀な人材を確保
●有利な条件で取引できるため→ブランド力をバックに有利にビジネスを展開できる
上記の理由と効果を見てみると、競合他社も多く、どうしても似た商品・サービスと競わざるを得ない現代においては、ブランディング戦略なしにビジネスを拡大していくことは困難であると言えるでしょう。
ブランディングを行わないデメリット
競合他社との価格競争で利益率が低下。結果、利益が圧迫されると、経費をどこかで削減する必要が生じます。
そこで広告宣伝費やプロモーション費を削るとなれば、新規顧客獲得は困難になります。結果として徐々に市場のシェアが下がり、それを挽回するためにまた価格を下げざるを得ない…、といった悪循環に陥る可能性があるのです。
こうした負のスパイラルに陥らないためにも、ブランドによって顧客を離さない戦略が必要となります。
ブランディングを可能にするブランド戦略の方法
ブランディング戦略の方法について、以下に順を追って解説していきます。
1.分析を行う
2.ターゲットを明確にする
3.ブランドアイデンティティを確立する
4.可視的ブランドメディア・抽象的ブランドメディアで周知する
5.ブランドエクイティを評価する
分析を行う
まずは、その商品市場の環境分析を行うことが重要です。代表的な分析方法としては、PEST分析、SWOT分析、3C分析といったフレームワークがあり、それぞれの分析方法で自社の強みや弱み、競合他社との差異、置かれている市場環境や顧客のニーズなどを明らかにしていきます。
それぞれのフレームワークには特徴があるので、どれか一つに偏るのではなく、さまざまな角度からの検証を繰り返しながら分析を進めましょう。
PEST分析
PEST分析は、米国の経済学者であるフィリップ・コトラーが提唱した手法で、マクロ経済のトレンドを正しく把握して不測の事態に備え、新しい環境下でも競合の優位に立つことを目的としています。
分析項目には下記のものがあり、特に「変化」を注視しています。
●政治的要因(Politics)・・・法律改正や政権交代、外交状況など
●経済的環境要因(Economic)・・・景気動向やインフレ・デフレ、金融指標など
●社会的環境要因(Social)・・・人口動態や文化の変化など
●技術的環境要因(Technological)・・・新技術の進捗や投資状況、M&Aなど
SWOT分析
SWOT分析は、多くの企業でマーケティング戦略を立てる際などに使われている有名な分析フレームワークです。現状を分析し、そこから成功要因を導き出したり、取るべき施策を見出したりすることを目的としています。
項目には以下の4つがあり、単に思いつきで各項目を埋めるのではなく、客観的かつ広い視野に立つことが大切です。
●Strength(強み)・・・自社の武器など
●Weakness(弱み)・・・自社の苦手とすること
●Opportunity(機会)・・・自社のチャンスとなる外部要因など
●Threat(脅威)・・・自社を脅かす外部要因
3C分析
3C分析もマーケティング戦略の検討に活用されるフレームワークの1つで、3つのCで始まる視点を軸にするところから3C分析と言われています。こちらも自社の強みと弱みを特定し、成功要因を見つけ出すことを目的としています。
分析項目には以下の3つが挙げられます。
●Customer(顧客、市場)・・・顧客の購買意志や能力、市場の成長性など
●Competitor(競合)・・・競争の状況、競合他社との差異化など
●Company(自社)・・・自社の持つ経営資源や現状の強み、弱みなど
ターゲットを明確にする
さまざまなフレームワークから、市場環境や顧客のニーズの分析を行い、自社の事業発展の機会がどこにあるのか仮説を立てます。自社と競合他社の強みや弱み、競合他社との差異化などを明文化しましょう。
そのうえで、セグメンテーションした市場から自社の商品やサービスを最も評価してくれるターゲット=見込み客層を抽出し、その属性をベースにターゲット顧客のプロファイリングを行います。顧客の人物像=ペルソナまで落とし込みましょう。
ペルソナの視点で、競合他社と比較されても自社が優位に立てる軸は何か、自社が独自性を築けるポジションは何か、これらを明確にしてください。
ブランドアイデンティティを確立する
自社のポジション=戦う場を決めたら、次にターゲットとするユーザー(ペルソナ)に自社商品をどう認識してもらいたいか。どのようなイメージを持ってもらい、どのような価値が提供できるのか。自社商品のコンセプト=ブランドアイデンティティを決定します。
これは、自社商品の強みや、顧客に提供できる価値を明らかにすることと同義です。自社の独自性を端的に表現できるよう、ブラッシュアップを行います。
ただし、奇をてらう必要はありません。それよりも、分析フレームワークと照らし合わせて検証し、市場環境や自社の事業の発展性などとの整合性がきちんと取れているのかを確認しましょう。
可視的ブランドメディア・抽象的ブランドメディアで周知する
次に、ブランドを周知するための施策として、メディア戦略を考えていきます。ブランドアイデンティティをもとに、コピーやデザインを決め、発信するメディアを選定しますが、そこで必要になるのが、「可視的ブランドメディア」と「抽象的ブランドメディア」の考え方です。
可視的ブランドメディア
「可視的ブランドメディア」は、文字通り、目に見える具体的なもので周知を図ります。実際の商品をはじめ、看板やパンフレット、CMや関連グッズなどが可視メディアに含まれます。
例えば、ファストフードのマクドナルドであれば、看板やロゴ入りのグッズなどが「可視的ブランドメディア」にあたり、ブランディングのための可視メディアは「ブランディングツール」と総称されることもあります。
抽象的ブランドメディア
「抽象的ブランドメディア」は、ブランドアイデンティティを象徴するキーワード、キャッチコピー、ロゴマークなどのことを言います。順番としては、可視的ブランドメディアを展開する前に準備すべきものです。
例えば、TVコマーシャルなどでもよく耳にする「I‘m lovin’it」(マクドナルド)や「Just do it」(ナイキ)などは企業のブランディングコピーとして有名です。
ブランドエクイティを評価する
ブランド戦略における「ブランドエクイティ」とは、そのブランドが持つ資産のことです。メディア戦略を通じたブランディングの効果や、そのブランドが持つ評価を測ることで、ブランドの価値が見えてきます。
資産価値の基準として、次のような指標があります。
●ブランド認知・・・顧客認識とイメージ
●知覚品質・・・顧客が認識する品質
●ブランドロイヤリティ・・・顧客の忠誠度
●ブランド連想・・・顧客が抱くイメージのすべて
●その他のブランド資産
それぞれについて、さらに詳しく見ていきましょう。
【ブランド認知】
ブランドの認知度は、消費者が購入する商品を選ぶ時に、その商品が候補に入るかどうか、非常に重要な要素になります。選ばれるためには、まずは知ってもらうことが大切です。さらに、そのブランドに対して良いイメージ、親しみやすいイメージを持ってもらえれば、その価値はさらに上がります。
【知覚品質】
ユーザーがそのブランドに対して想起する商品の品質イメージのことで、競合他社と比較検討される際には特に重要な要素となります。「〇〇なら間違いないだろう」、といったブランドに対する信頼感が顧客の中に構築されていれば、他社より強気な価格設定でも売れる可能性は高まります。
【ブランドロイヤリティ】
そのブランドに対する顧客側の忠誠度のことを言い、顧客の心の中でそのブランドに対するロイヤルティが高ければ高いほど、購入される可能性は高くなる重要な要素です。例えば、「掃除機ならやっぱり〇〇だろう」という信頼感やブランドの好イメージが、掃除機以外の商品を選ぶ時にも影響するのです。
【ブランド連想】
ブランドから連想されるイメージのすべてを指す言葉です。購入を検討する人にとって、その商品が自分のライフスタイルにマッチしているかどうか、なども影響します。例えば、高級外車のブランドなどは、その名前を聞いただけで特別感や成功者、ハイエンドな暮らしをイメージさせることができる、といったことです。
【その他のブランド資産】
上記以外のエクイティとしては、そのブランドが有している商標権などが該当します。権利として所有していることで、そのブランドイメージを勝手に損ねられることを避けることができます
ブランディング広告とは
ブランディング広告とは、ターゲットの意識の中に自社商品の特徴などを浸透させ、ブランド認知やイメージ向上をさせることで、中長期的な売り上げアップを目指すものです。一方、対に使われることが多いレスポンス広告は、直接的に短期の売り上げを目指すもので、Webではコンバージョンやクリック数のアップをゴールとします。
ブランディング広告を活用するポイントとしては、どの段階にある消費者に対して、どんな変化をもたらしたいのか、という広告の「目的」と「目標」を事前に明確に設定する必要がある、ということです。
レスポンス広告のように成果が短期で可視化できるものではないので、実施前に成果指標をはっきりさせておくことが重要です。
ブランディングデザインとは
ブランディングデザインとは、企業や商品の特徴や認識してもらいたいイメージなどを視覚情報に落とし込んで発信し伝える、主にデザインに関わる領域でのブランディング施策を言います。
ブランドのアイデンティティやコンセプトを、ロゴマークやコーポレートカラー、パンフレットやチラシ、商品パッケージなどを通じて表現し発信します。
その他、Webサイト上の動画や写真、名刺や封筒といったものも含まれ、それらによってブランドに対する認知や親しみやすさ、信頼感といった好ましいイメージを醸成することを目的とします。
ブランディングの成功事例
ブランディングが成功すれば、多額の販促費を投入しなくても中長期にわたっての集客が期待され、安定した売り上げを見込むことが可能となります。実際にブランディングに成功した事例を見てみましょう。
レッドブル
「レッドブル、翼を授ける」というキャッチコピーで有名なこのエナジードリンクの日本参入は2005年。ブランドアイデンティティは「冒険者をたたえ、翼を授ける」で、実際の商品説明に当たるエナジードリンクであることや、配合されている成分については、コマーシャルの中では一切触れられていません。
にもかかわらず、今では世界の多くの若者がレッドブルを指名買いしています。エクストリームスポーツ大会の協賛をするなど、リアルの販促においてもブランドアイデンティティを貫き、冒険者としての若者を支援することでブランディングに成功した事例と言えます。
ダイソン
ダイソンと言えば、だれもがまずサイクロン式掃除機を思い浮かべるのではないでしょうか。「きちんと機能しない製品に対して不満を感じます。(中略)発明と改善がダイソンのすべてです。」と創業者のジェームズ・ダイソン氏が公式HPで語るように、5年の歳月をかけて「吸引力の変わらないただ一つの掃除機」を開発しました。
こうした「発明と改善」という企業アイデンティティを発信し、技術力を訴求することでブランドが確立され、ドライヤーや羽のない扇風機、空気清浄機といったヒット商品をいまも次々と生み出しています。
ニベア花王
ニベアクリームと言えば青い缶に白い文字というビジュアルで有名です。元々このニベアは1911年にドイツで発売されたスキンケア用クリームのブランドで、現在も世界中で愛されています。
日本のTVCMでは「母親の愛情に守られていた」という多くの人に共通する記憶や経験に呼びかける内容で、見る人の心にニベアブランドへの共感を醸成しています。これはブランド連想を上手く取り入れたもので、ニベア→信頼→愛情→やさしさ→母親の愛情という強いブランド力を築いている事例です。また、ビジュアルアイデンティティの面では、シンボルカラーとしてミッドナイトブルーに白い文字と一貫しています。
まとめ
ブランディングを行うことの意味、進め方、ブランド戦略の効果等を見てきました。さまざまな商品やサービスが溢れる現代において、ブランディングは極めて有効な手段の一つです。ブランディングの効果や期待値を把握して、自社の製品やサービスに合った取り組みを行ってください。