文化・言語を超えて人間の感覚に共通して認識される「香り」を企業ブランディングに取り入れる
2015/06/01(最終更新日:2021/12/13)
この4月から日本でも音と色が商標として登録できるようになったことから、前回までは「センサリー・ブランディング」について海外と日本の比較、また、「音」についてのブランディングについて考えてみた。
今回はそのセンサリー・ブランディングのもう一つの代表的なファクターである「香り」について考えてみたい。
皆さんも実感がおありと思うが、香りというものは「好き・嫌い」の決定要素としてかなり重要度が高い。例えば、女性であれば、「見た目」としてはとても好みの男性の近くに行ったらその男性の「臭い」がちょっと好みじゃなかったのでゲンナリした、とか、逆に、それほど好みじゃない男性でも、すれ違ったときにふと良い「香り」がしたので好感度がアップした、などというご経験をお持ちのかたは多いのではないだろうか。
また、「香り」というものは文字や画像などの記録として残すことはなかなか難しいが、感覚的な脳内・対内の記憶としてはかなり長い期間にわたり人間の記憶に染み付く。不思議なもので、例えば、気に入っているチューインガムの「香り」は、実際にそのガムを口にせずとも、そのガムについてのかなり明確なブランドイメージと共にいつでも頭の中、そして身体の感覚として思い起こすことができるはずだ。
また、(音も同様だが)、香りには「言葉の壁」がない。文化によって多少の好み、強弱はあるにしても、香りというファクターは万国共通だ。
少々漠然としているとはいえ、このような例でもわかるように、香りが人の感覚へダイレクトに与えるインパクトとその記憶の継続性は他のいろいろなブランディングファクターに比べると「音」と同じくらいか、もしくはそれ以上に大きい。
もちろん、世界各国の企業はそんなことはとっくに気が付いており、日本では未だ商標として登録はできないとしても自社の商品やサービス、空間演出にはかなり前から「香り」は使われてきている。香水は当然としても、いろいろな芳香剤、シャンプー、独特の香りのお菓子、イベントスペースやラウンジの独特の香りなど、商品やサービスのブランドファクターとして香りが使われてきた例の枚挙にはいとまがない。
ところが、「商品・製品、サービス」のブランディングとして香りは活用されているにも関わらず、「企業」そのもののブランディングファクター、あるいは企業カルチャーの発信手段として「香り」が有効に用いられている例、つまり、ある企業を思い浮かべた時に、その企業の理念を基盤とした「コーポレートカルチャー」と、ある特定の「香り」が一体となって「企業ブランド」として連想されるような例はまだほとんど存在していない。
であれば、そのような例があまり存在しない今だからこそ、みなさんの会社で一足先に、企業そのもののブランディングのファクターとして「香り」を今のうちに取り入れ、総合的な「センサリー企業ブランディング」をスタートしてみては如何だろうか。
例えば、「情熱」を企業理念としている企業が、会社の色=コーポレートカラーを燃えるような「赤」とし、会社の音=コーポレートサウンドを「情熱でドキドキしている心臓の鼓動の音」とするのに加え、「会社の香り」=コーポレートフレグランスとして「パッション(情熱)フルーツの香り」を採用する、というように、企業の理念を文章や単語だけでなく、文化や言語の壁を越えたセンサリー・ファクター、つまり色、音、そして香りを取り入れ、企業のブランディングカルチャーとして社内外、国内外に一貫して発信・浸透させることで、日本企業としてはもちろん、グローバル企業としての価値を高めるのだ。
現代はネット社会であり、企業のブランディングもデジタルメディアによる発信がほとんどであるが、「香り」という強力なファクターについては現状のテクノロジーではネットを通じて発信することは出来ない。であれば今後は「香り」という強力な武器を企業ブランディングに取り入れるために「紙」という「アナログ」なメディアを企業カルチャーの「新しい」発信ツールとして採用することも非常に有効だ。例えば、会社の香り=コーポレートフレグランスを染み込ませた紙を使い、かつ、「企業の音」が出る小さな発信機を組み込んだ「カルチャーブック」を作成し、総合的センサリー・ファクターによって企業ブランディングを社内外に発信・浸透させることができるであろう。
文化や言語の壁を超越した「色、音、そして香り」を使った「センサリー企業ブランディング」が、国内外に企業カルチャーを浸透させるための最高峰スキームになっていく。
筆者プロフィール
野田大介
コンサルタント
■略歴
神奈川県生まれ 神奈川県立七里ガ浜高等学校
立教大学 理学部 数学科卒。
The University of Alabama MBA 経営大学院修了
14年半の米国在住後帰国。MBA修了後、米国にて建設会社でプロジェクトマネジャー、化粧品会社にて米国支社長、帰国後マーケティングリサーチ会社勤務。