ピーターFドラッカーと洞察力

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ビジネスマネジメント・レビュー

ピーターFドラッカーと洞察力



「ビジネスマネジメント」というキーワードを聞いて、「マネジメントの父」とも称されるピーター・ドラッカーが浮かぶのは、私だけではないであろう。
自身を「社会生態学者」と規定し、ビジネスに留まらず社会に関する様々な金言を残したドラッカー氏に影響を受けた人の数は類を見ない。なにしろ高校野球部の女子マネージャーまで学ぶくらいだ(笑)。
とはいっても、あまり馴染みのない方もおられるであろう。その場合は文末のプロフィールをご参照頂きたいが、ドラッカーが残した数多くの金言と影響力の背景には、氏の並外れた「洞察力」が挙げられるだろう。

その源泉を求め彼の生い立ちを辿ると、ユダヤ人としてナチスの時代をくぐり抜けてきた20代に目が留まる。記者として行ったヒトラーへのインタビューからも察知したのであろうか、ユダヤ人迫害策の前にドイツからイギリスへ渡る「すばしこさ」を発揮している。
世界大戦という動乱の時代に不安定な立場に置かれる環境から、生き抜く為の「洞察力」が醸成されたのではないだろうか。

事業機会や市場トレンドの察知と見極め、組織運営におけるタレント発掘と育成をはじめ、経営におけるあらゆる場面で「洞察力」が必要となるのは異論を待たないであろう。渋沢栄一、松下幸之助氏、井深大氏といった往年の名士から、最近では孫正義氏など、優れた「洞察力」を武器にする成功者は多い。地味な所では、トヨタ生産方式の体系化で知られる大野耐一氏も、”鬼十戒”の裏には高い「洞察力」が見て取れる。

ところで「洞察力」と「観察力」の違いをご存じだろうか。「観察力」とは「注意してみること」「客観的によくながめること」つまり「自然の状態のまま客観的に見ること」である。一方「洞察力」は、「物事を見抜き、見通すこと」「悟り知る」「内面的なものを深く知る」ということを指す。つまりマネジメントにおける「洞察力」とは、部下の内面を深く知ることなのである。

ドラッカー氏も言っている。「組織のマネジメントとは、凄い人材を入れることや改新的なサービスを導入する事のように思われているが、一番重要なのは、今ある人材と資産で何ができるかを考えることである」と。今ある人材で何ができるか、限られた能力の人材を使って、高い目標を達成しなければならないとき、マネージャーにはその人材・部下の内面を深く知るための、高い「洞察力」が求められる。すべてのマネージャーが、前述のような往年の名士であれば、素晴らしい成果につながるだろう。しかし、もちろん現実はそうではない。だからこそ、「洞察力」のあるマネージャーの代わりとなり、部下の内面を深く知るための「仕組み」が必要なのである。つまり、組織を成功させるためには、部下に明確なミッションを伝え、明確な目標を立てさせ、それを日々トラッキングしていく「仕組み」が必要なのである。その「仕組み」こそが「目標管理制度」なのである。

ところで「洞察力」がモノを言うのは芸術の世界でも同じだ。対象物を緻密に観察し、構成する要素を分析、それらをどう表現するか情報を処理し、そしてインスピレーションを持って作品をデザインしていく。経営はアート、と表現されることもあるが、実はこの辺に共通点が見出せるのではないか。
そういえばドラッカー氏は日本芸術に造形が深く、室町時代の水墨画などのコレクターでもあった。ドラッカーの理論が、日本の企業経営に親和性が高いとも言われる由縁は、そんな所にあるのかもしれない。いずれにしても日本人としては嬉しいことである。

※ドラッカー・プロフィール
ピーター・ファーディナンド・ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker/1909年11月19日-2005年11月11日)は、オーストリア・ウィーン出身の経営学者・社会学者。企業マネジメントに関する世界的な権威であり、「民営化」「知識労働者」を初め「ポストモダン」、「ナレッジ」など現代のマネジメント思想の下で創り出した概念や用語は数知れない。米国クレアモント大学院で教鞭を取るかたわら、経営コンサルタントとしてGMを皮切りとして大企業から慈善団体や大学、政府、球団まで様々な組織の経営にも携わる。組織のマネジメントに留まらず、個人の自己啓発や成長に関する思想も広く知られており、「経済人の終わり」「現代の経営」「断絶の時代」「ネクスト・ソサエティ」「プロフェッショナルの原点」などの著作を通して残した言葉は経営者やリーダーに留まらず、広く社会人への指南として引用され続けている。




■筆者プロフィール
鈴木一秀
コンサルタント

■略歴 
横浜国立大学 工学部卒
University of California Los Angels校及びNational University of Singapore 経営大学院修了(MBA)
モルガンスタンレー証券など日・欧・米系の投資銀行で約20年勤務
その後経営コンサルタントとして独立

■資格
中小企業診断士
証券アナリスト
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