「らしさ」を極め、差別化と成長を実現する

imajina Knowledge Libraryイマジナナレッジライブラリー

イマジナ・ブランディングニュース

「らしさ」を極め、差別化と成長を実現する



 先日ある本を読んでいるときに、忘れがたいある言葉に出くわした。その内容は「話し方」に関するもの。本の著者は日本の伝統芸能である「講談」を行う講談師だが、若手の指導のさいによく話すというアドバイスが印象的だった。それは「『ぽく』するな。『らしく』あれ」というもの。




 講談とは文字通り、特定の物語を面白く伝えるというシンプルな芸事であり、単純さゆえに話し手の技量が大きく問われる。そのため芸歴の浅い若手メンバーは「型」が確立されておらず、うまく話せないケースがほとんどだとか。そんなときは先輩のふるまいや、テレビやラジオで見聞きした話し方を真似して場を乗り切ろうとするのだが、それはあくまでモノマネ。うまくやれるならまだしも、場合によっては滑稽に見えてしまい、聴くに耐えないものになるのだという。

 そんなとき「『ぽく』ふるまうな」と、著者は若手に声をかける。当人に実力がないのはお客様も見抜いている。だから背伸びをして講談を進めても、その結果はたかが知れている。ならばどんなに不恰好でも、自分「らしく」話した方が、かえってお客様に愛されるのではないか、ということだ。



 この言葉は印象に残るともに、ビジネスでも同じことが言えるなと感じた。そっくりそのまま、若手ビジネスマンの育成にも引用できるだろう(ヘタによく見せようとふるまうよりも、若手らしく相手と向き合ったほうが、かえって好感を持たれることがある)。
 また同時に、個人だけでなく法人の成長、すなわちビジネスの拡大にも同様に当てはまるだろう。現代は「らしさ」が求められる時代である。右肩上がりの経済成長が見込めない時代に業界トップの真似をした「それっぽい」機能やデザインの商品を開発しても、二番煎じは淘汰されてしまう。反対に自分たちの「らしさ」に立脚してビジネスを進めるほうが、かえってうまくいくケースは多いのではないか。「らしさ」は結果的に、他社との「差別化」につながるからだ。

 「差別化」という言葉をビジネスに持ち込んだのは、アメリカの経営学者であるマイケル・ポーター氏である。その定義を書籍から引用すると「特定商品(製品やサービスを含む)における市場を同質とみなし、競合他社の商品と比較して機能やサービス面において差異を設けることで、競争上の優位性を得ようとすること」と説明されるが、言葉の明快さも手伝ってか、今ではすっかりビジネスシーンに根付いてしまった。初出は1980年発刊の著書『競争の戦略』。日本はこの頃、対米輸出が急増し、世界最大の貿易黒字国へと駆け上がっていった。国全体が豊かになり、ものが溢れ、商品機能だけでは差異が生まれなくなりつつあることを感じていたのだろう。そんな時代の空気に差別化という言葉は、ぴったりと当てはまったのかもしれない。

 「らしさ」を差別化と言えるまで昇華し、業績を向上させている企業はたしかに存在する。その好個の例として星野リゾートが挙げられるだろう。
 星野リゾートが現在の姿になったのは、星野佳路氏が社長に就任した91年。翌年、旅館などの施設を所有せず「リゾート運営のみに特化した組織をつくり、その達人になる」という方針を掲げ、人の力でブランドを築きあげていくことを誓った。とはいっても、当初星野リゾートは星野温泉ホテルという施設を1つ所有しているだけ。そのため当面は物件を持ちながら、ホテル運営のノウハウを技術として開発することに注力していたという。結果的に現在では、1人の従業員が 調理、客室清掃、受付、接客などを担当するマルチタスク方式の開発、また管理職の職位数を最小限に留めたフラットな組織の構築を実現し、質の高いサービスと効率化、そして自由な風土の形成を実現した。現在では一切の不動産を所有せず、施設運営の受託のみでビジネスを行なっている。


 またスープストックトーキョーも「らしさ」で成長を続ける企業の1つだろう。ご存知の通り、同社はスープを中心としたメニューを提供することで外食産業に一石を投じた企業である。そのコンセプトは「食べるスープの専門店」。それまで食事において添え物であったスープを「食の中心」と捉え、「健康」「おしゃれ」といったイメージとともに、オフィス街で働く女性を中心に顧客開拓を進めていった。
 同社は現会長の遠山正道氏が旗を振り、三菱商事初の社内ベンチャー企業として立ち上げられた(当時の社名は株式会社スマイルズ)。遠山氏が社内で企画を発表するさいに「スープのある1日」と題し、物語仕立てでプレゼンをしたことはあまりにも有名だ。現在では全国展開を成功させ、海外にも進出している。


 
 「らしさ」を軸に話を展開してきたが、上記のように唯一無二のブランドを展開する企業には共通点がある。それは流行りものを取り入れたり「○○が今注目されている」といったような外的な要因からビジネスをスタートしたりするのではなく、経営陣や組織の持つ想いや考えを起点にビジネスをはじめ、それを差別化できるほどの個性にまで高めていることだ。もちろん成功企業のなかには流行りを取り入れ躍進を続ける組織もあるだろうが、その場合も単に便乗するだけでなく、その企業ならではの戦略を構築しているケースが多い。それはもはや、模倣ではなくオリジナルだと言えるだろう。

 ブランドづくりというと、外見を格好良く着飾ったり、足りないものを積極的に取り入れたりすることを考えてしまうケースは多い。しかしそれ以上に「何をしたいのか」「自分たちの良さは何か」を突き詰めて考え、内部から発信していくことのほうが重要ではないだろうか。

「『ぽく』するな。『らしく』あれ」。何気ない一言ではあるが、この言葉は含蓄がある。他社の真似をしてもすぐにメッキが剥がれてしまう時代。しっかりと自らの強みを見極め、自分たちだからこそのブランドを構築していきたい。
戻る