売上ではなく、「価値観・哲学へのコミット」にあらわれる企業の価値

imajina Knowledge Libraryイマジナナレッジライブラリー

イマジナ・ブランディングニュース

売上ではなく、「価値観・哲学へのコミット」にあらわれる企業の価値




 先日、ある興味深い調査報告が飛び込んできた。世界最大級の規模を誇るコンサルティングファームであるプライスウォーターハウスクーパース(PwC)が、「世界CEO意識調査」を実施。1,200人以上のCEOが調査を通じて、現在の関心ごとや、今後注力していきたいことなどに対して回答したという。この結果を受け、PwCのグローバル会長ボブ・モリッツ氏が「今後CEOが取り組むべき課題」と称し、4つのテーマに言及したことが話題となった。

 その4つとは「財務目標を超えた指標を作り出す」「新たなテクノロジーは社会を意識した方法で取り入れる」「従業員教育に投資する」「すべてのステークホルダーを考慮した目的にコミットする」というものだ。

 順を追って見ていこう。まず「財務目標を超えた指標を作り出す」だが、これは消費者や取引先などに与える影響、ひいてはステークホルダーのすべてを含めた社会に対する影響を表す指標を設けるべき、という提言だ。もちろん財務など経営状況の開示は今まで通り必要だが、それだけでは社会にどんな影響を与えているのか、本質的な議論をすることができない。大変に難しいことではあるが、社会に対する影響を数値化することができれば、本当の意味での「企業価値」がわかるようになるかもしれない。

 次の「新たなテクノロジーは社会を意識した方法で取り入れる」だが、これは成長著しいIT業界、特に人工知能(AI)を意識した発言のようだ。人工知能は生活をあらゆる面で豊かにするが、それが人間の脅威になってしまっては意味がない。目新しさだけを追って商品化・サービス化するのではなく、あくまで人間社会に迎合した形でテクノロジーを活用すべきということだ。

 次の「従業員教育に投資する」は、2つ目のテーマとも少し関連がある。日本でも「人工知能に奪われる仕事」といった話が話題になっているが、多くのスキルが人工知能に代替される社会を組織と個人が生き抜くためには、思想と技術の両面における従業員教育が不可欠だということ。これは調査のなかでも多くのCEOが意識していた項目だという。

 最後の「すべてのステークホルダーを考慮した目的にコミットする」は、顧客の先にある社会まで見据えた目的を立案し、そこに挑戦し続けることが大切だというものだ。現在の企業を取り巻く環境は複雑化している。顧客や株主のみでなく、すべてを含めた社会に対する影響、また自然環境に対する影響など、あらゆる側面を考慮して目的を立てなければいけない。逆にこれらを踏まえ、あらゆるステークホルダーから支持される目的にコミットをすれば、多くの支持者を獲得することができる。

 これら4つの指摘には共通点がある。それは「ステークホルダーを含めた社会」を意識している、ということだ。


 多くの企業はこれまで、顧客や株主を第一に考え邁進してきた。しかし今後は、「それよりも大きな広がりを持った社会全体」を大切にするのが重要だというメッセージを、世界最大級のコンサルティングファームの会長は発信している。

 企業が社会を大切にするとはどういうことだろう。それは売上や利益といった財務目標を追うだけではなく、すべてを巻き込む「価値観」や「哲学」へのコミットを重要視するということだ。ステークホルダーのすべてが納得することのできる目標を追うこと。関係のある組織や人々のすべてが幸せになれる価値観の実現のために尽力することが大切なのだ。

 このような「価値観・哲学の実現」において一歩先を行く企業のひとつにパタゴニアがある。パタゴニアは自社のミッション・ステートメントに「最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。」と明記している。最高品質を目指すアパレルメーカーでありながら、環境への負荷は最小限に抑えることを目指しているのだ(理念に「環境」の文字が2回登場する企業は他にないだろう)。
 パタゴニアはこの言葉を実現するため、「Don't Buy This Jacket(このジャケットを買わないで)」というキャッチコピーを広告に記載したことが有名になった。不必要な消費を、パタゴニアは歓迎しない。「商品を買うな」という広告は異例中の異例だが、ファンや支持者の共感を得ることができた。
 
 また日本でもこのような活動をしている企業がある。ソフトウェアの開発・販売を手がけるサイボウズだ。サイボウズの理念は「チームワークあふれる社会を創る」。この理念の実現のために同社は積極的に働き方改革を行い、社会の最小単位である「(社員の)家庭」と仕事の両立を推進。その姿勢が評価され、「働きがいのある会社ランキング」に5年連続ランクインしたり、代表の青野氏は、政府の働き方変革プロジェクトの外部アドバイザーを務めたりしている。通常、企業にとって「働き方の変革」は売上やその他の財務目標の次に位置される副次的なものだ。しかし、働き方改革が理念実現に繋がると考えた同社は積極的に取り組むことで知名度を高め、多くの賛同を得ることに成功している。一見すると企業の生産性を落としかねない行動だが、結果的にそれが組織の存在意義、そしてブランドとなっているのだ。


 一昔前までは、企業は売上と利益を追っていればそれでよかった。それが最善であると考えられた。しかし、時代は変化していく。自分たちの提供するもの、社会に対して与える価値を意識し、その実現に向けて行動した企業が、現代の成功企業となっているのだ。



 哲学や価値観の大切さが叫ばれて久しいが、それが企業の存在価値に直結する時代となった。
自社が社会に与える影響とはなんだろうか。これを改めて考えることで、売上以上に大切にすべきもの、そして自社のブランドとは何かが、見えてくるかもしれない。





■参考資料:
PwC's 21st Annual Global CEO Survey: The Anxious Optimist in the Corner Office
(英文資料)
https://www.pwc.com/gx/en/ceo-survey/2018/pwc-ceo-survey-report-2018.pdf

戻る