ブランドを買う、ブランドM&A

imajina Knowledge Libraryイマジナナレッジライブラリー

イマジナ・ブランディングニュース

ブランドを買う、ブランドM&A



 今年5月、大手製薬会社である武田薬品工業が、同じくアイルランドの大手製薬会社であるシャイアーを買収し、完全子会社化したことが話題となった。その買収金額は日本円にして約6兆8000億円。日本企業が行ったM&Aにおいて、過去最大の金額だという。
シャイアーの年間売上高は約1兆6000億円。希少疾患に強く、幅広い分野の治療薬を手掛けていることが特徴だ。武田薬品工業は買収において、自社が重きを置くがんや消化器系疾患、神経精神疾患の治療薬を強くできると説明している。ちなみに、両社の売上高を合算すると合計は3兆円強。世界9位のギリアド・サイエンシズ(売上高2兆7900億円を誇るアメリカ企業)などと並び、世界の製薬業界のトップ10の一角となるようだ。


 近年、国内外を問わず、日本企業のM&Aが話題となっている。M&AはMerger And Acquisition(合併と買収)の略。日本では一昔前まで、経営がうまくいかなくなった企業の救済を目的としてM&Aを行うケースが多かった。そのため、その言葉自体にネガティヴな印象を抱いている人も少なからずいたようだ。しかし近頃は、新たな成長戦略の一環としてM&Aを実施するケースが増加している。ソフトバンクグループなどはまさにその典型だろう。

 M&Aを実施する目的は様々であるが、現在増えているのが「ブランドを買う」M&Aだ。ブランドを目的としてビジネスを買った事例は決して少なくない。例えばサントリーホールディングスは、アメリカ企業であるビームを約1兆6500億円で買収。ビームはバーボンウイスキーの「ジムビーム」やスコッチウイスキーの「ティーチャーズ」といったブランドを展開しており、現在はCMも盛んに流している。


 また2012年には、アサヒグループホールディングスは「カルピス」を味の素から約1200億円で買収した。当時は飲料業界では過去最大のM&Aと言われ、この買収を機にアサヒグループの飲料事業は業界3位に浮上した。
 飲料業界はとくにブランドの育成が難しいと言われている。次々と新商品が発売されているが、スーパーやコンビニなどに並び続ける商品は発売から20年以上経つロングセラー商品が中心だ。そのなかでも業界内で「メガブランド(年間販売量3000万ケース以上が基準とされている)」と呼ばれるブランドは、ごくわずか。首位のコカ・コーラグループは「コカ・コーラ」「アクエリアス」「ジョージア」など8つのブランドを、2位のサントリーホールディングスは「ボス」「烏龍茶」など5つのブランドを持っている。しかし、当時のアサヒグループのメガブランドは「三ツ矢サイダー」と「ワンダ」の2つのみ。このような背景からも、100年近い歴史を持つカルピスを傘下に持ちたがった経緯も見えてくるだろう。


 なぜこのような「ブランドを買うM&A」が盛んになっているのだろうか。その背景には、日本市場が成熟化してきたことと、ブランドを育てるコストを削減したいことにあると言われている。市場が成熟化すると新しいブランドを育てることが難しくなる。新商品開発に巨額を投じても、競合に打ち勝ち、無事に成長をするかわからないし、また多大な時間を投資することになるだろう。それであれば、すでにある著名ブランドを買ったほうが良いという算段だ。
 これらの「リソースの問題」は、国外市場でも当てはまる。国内で市場が飽和しているなら海外に進出することが選択肢の一つとしてあがってくるが、ゼロからブランドを育てたり、国内のブランドを海外に持っていき育てたりするのは非常に難易度が高い。それであれば、海外ブランドを買ってしまったほうが良いということになるだろう。前述のサントリーホールディングスによるビーム買収はその典型例。サントリーホールディングスは、国内では有名なウイスキーブランドを多数持つが、海外の販路拡大は時間がかかると考えてビームを買収したのではないだろうか。

 駆け足で、ブランドを目的としたM&Aの例を見てきた。今はまだ一部の企業が積極的にM&Aを行っている印象があるが、今後この流れはさらに加速していくだろう。
 これらの動向からわかるのは、「ブランド」の価値が、ますます大きくなっているということだ。ブランドに対する概念がまだ未発達であった時代は、単に売上拡大や経営難に陥った企業の救済が、M&Aという戦略の主な目的であった。しかし、2012年にカルピスを買収したアサヒグループホールディングスの泉谷社長は、「(傘下事業のさらなる再編について)ブランドポートフォリオの強化というテーマであれば検討したい」と、メディアで述べているが、これは「グループ再編の中心にはブランド戦略がある」という自身の考えを述べているように読み取れる。それほどまでにブランドという見えない資産は、企業経営において大きな価値を帯びるようになったのだ。

 今後、ブランドを重視する傾向はますます強くなっていくだろう。今回はM&Aを例に傾向を見てきたが、企業成長を考える上でブランディングは外せない項目になっている。
 このような時代の流れのなかで、自社はこれから、どのようなブランドを作っていくだろうか。成長戦略においてブランドというものの価値を、今一度見つめ直したい。
戻る