大塚家具に見る、ブランドの継承の難しさ

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大塚家具に見る、ブランドの継承の難しさ

 


「『在庫一掃セール』を開始」。先日、大塚家具からこのようなプレスリリースが発表された。大塚家具は今月28日まで、12店舗で最大8割引のセールを実施するとともに、一部の店舗ではアウトレットスペースを拡充。その規模は過去最大であり、長期間売れていなかったり、製造・取り扱いが中止になったりした商品を対象としている。
 本セールは9月下旬から有明本社ショールーム(東京・江東)などで開始された。大塚家具はご存知の通り、業績が低迷している。そして課題の一つに在庫の増加があるため、これらを一掃することで、回復を目指している。

 大塚家具といえば、事業承継問題を中心にメディアを賑わせている企業だ。
1969年、創業者の大塚勝久氏は前身である大塚家具センターを創業。1980年に店頭公開し、高級家具の代名詞として成長を続けた。

 勝久氏は成長期においてテレビCMなどの広告を積極的に活用。また「入店時に顧客ファイルを作成し、店員が顧客について回る」という親身な接客により、「結婚後のまとめ買い」などの需要を取り込むことに成功し、売上を伸ばした。そして2001年12月期に営業利益75億円を叩き出す。

 しかしその後、住宅需要の低迷や、ニトリやイケアを始めとする低価格帯のブランドが台頭し、業績が低迷。改革として2005年には執行役員制を導入し、従業員出身の取締役を解任。5人の取締役全員を一族から選任するという抜本的な人事を行う。そして赤字となった2009年には娘の大塚久美子氏が社長に、勝久氏は会長職となり、トップも大きく刷新をした。
 その後、久美子氏の経営によって赤字を脱却。安定軌道に乗ったかと思えたが、内部においては大きな混乱があったようだ。2014年7月には勝久氏が会長職兼社長として社長職に復帰し、久美子氏は取締役に降格になるという人事が発生。しかしその半年後の2015年1月には久美子氏が社長に復帰。そして3月には株主総会の決議を経て勝久氏が退任。会社を離れる事態となっている。

 まるでジェットコースターのような沿革である。現在は久美子氏が経営をしているが、状況は芳しくない。同社の経営を離れ、新たに匠大塚という会社を立ち上げた勝久氏は、このような状況を見て各種メディアで、「娘に経営を任せたのは失敗だった」と、はっきりと語っている。「大塚家具における事業承継において最大の失敗と反省点は、私自身が私の時代認識や事業観、経営観などを子どもたちが分かってくれていると過信していたことにある。というよりも、『言うまでもないこと』という感覚があった。それは私の甘さでもあった」と話しているのだ。
 子ども5人が入社をしたあとも「親子だから」という帝王学を施すこともなく、あくまでも一社員として他の社員と同様に叱ったり褒めたりしていたという勝久氏。それは「平等な対応」ではあるが、そうしながらも自分のことをわかってくれているという、アンバランスな期待を抱いてしまった。

 勝久氏と久美子氏が経営陣として舵取りしていた時に、このようなやりとりがあったそうだ。ニトリやイケアといった低価格帯のブランドが台頭している。この状況を見て久美子氏は、「マーケットを脅かされている。対策をとるべきだ」と話したというが、勝久氏は反対。「自社とはお客様が違う。気にしないでいい」と言ったそうだ。
 

 筆者はこのやり取りに、お互いの経営に対する考え、ブランドに対する考えの相違が現れているように思う。勝久氏は自身が創業者として現場に立ち、様々な経営判断を重ねてきた。自分の目利きで商品を仕入れ、どのような顧客が商品を買ってくれているのか、自社の商品、サービスのどのような点を気に入っていただいているのか。誰よりも分かっているはずだ。
 しかし、成長の途中から入ってきた社員、すなわち久美子氏にはそれが伝わりきっていなかった。現在は一人暮らしを選択する若年層、中高年層も多く、そのような方々はニトリやイケアなどの家具を買っている。時代の流れに合わせて、自社の「高級」「家族向け」といったブランドを変えていくべきだ。父親の価値観は時代遅れなのではないか……。このような考えがあったことは、想像に難くない。

 実際、久美子氏は社長に復帰してから中価格帯の商品を販売した。しかしこの判断は、大塚家具の魅力を削ぐ方向に作用してしまったようだ。思うように業績は伸びず、在庫を抱える形となってしまった。

 久美子氏は業績回復を考え、再び様々な策を練っているだろう。しかしそもそも、勝久氏が自社にとっての商品とは何か、お客様とは何か、などを言葉によって掘り下げ、伝えることができていたならば、現状は違っていたのではないか。あくまで憶測ではあるのだが、勝久氏の発言を見ると、そのように思えてならない。

 事業承継の問題は、大塚家具に限らず、多くの中小企業にも当てはまる問題だろう。創業者が育ててきたブランドは何か。自分たちは何を提供しているのか。一生懸命に考え伝えることで、本当に事業、そしてブランドの継承ができるのだと思う。
 「いつかわかってくれる」では甘い。大塚家具のエピソードは、事業承継、そしてブランドを次世代に引き継いでいくという点において、非常に学びが多い一件のように思えた。
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