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〜成功企業のブランドストーリーとは〜 マツダ株式会社

2019/01/30(最終更新日:2020/10/02)

イマジナがお送りするメルマガ「ブランディングニュース」の配信100回を記念いたしまして、今回より「成功企業のブランドストーリーとは」と題し、独自の成長戦略を描き、たしかなブランド価値を生み出している企業のストーリーを見ていきたい。記念すべき第1回目はマツダ株式会社だ。

「マツダ地獄」と呼ばれた負のスパイラル

誰もが知る自動車メーカーであるマツダ株式会社。2020年で創業100年を迎えるブランドだ。1967年に世界初の量産ロータリーエンジンを搭載したモデルの生産を開始。エンジンとその搭載車の近未来的なデザインは、多くのマツダファンを生んだ。
この強みを背景として、マツダは乗用車に加えて「スポーツカー」としての認知度も高い。マツダのロードスターは「2人乗り小型オープンスポーツカー」の生産累計世界一としてギネス記録に認定され、1991年には日本メーカー初のル・マン24時間レースでの総合優勝を勝ち取った。

乗用車とスポーツカーの二分野でブランドを確立したマツダ。その歴史は一見、順風満帆に見える。しかし、かつてマツダの戦略が「マツダ地獄」と揶揄される状況を生んでいたのをご存知だろうか。

90年代前半。マツダはグローバル100万台販売を目標に掲げ、ブランドを増やし販売店ごとに取り扱いブランドを分ける「多チャンネル化」を実施した。しかしこの戦略はふるわず、販売台数が減少する。
そこで値引き販売を実施するが、それが思わぬ影響を及ぼすことに。新車の値段が安くなったため、下取り価格の大幅な値崩れを引き起こしてしまったのだ。これにより、他メーカーでは採算が合わないため、マツダ車の下取りを断られる事態も発生。顧客はマツダに下取ってもらうしかなく、次の自動車もマツダでの購入を強いられる状況に陥る。この負のスパイラルが「マツダ地獄」と呼ばれる現象だ。

起死回生の「2%戦略」

マツダはこの状況を打破しようと戦略の転換に踏み切る。これが「2%戦略」だった。当時、マツダの世界シェアは2%程度。2%戦略はそのシェアを積極的に拡大していくのではなく、既存の2%のファンに強く共感してもらえるような自動車、またブランドをつくっていこうという指針である。

2%戦略は、それまでの多チャンネル化とは大きく路線が違う。多チャンネル化は、より多くの顧客に自動車を購入してもらう機会を生むが、イメージが統一されずブランドの形成には寄与しない。値引きも「マツダは安い自動車」というイメージが生まれてしまい、ブランドの価値向上を実現するのは難しいだろう。
この状況を鑑みたマツダは、自社のファンである2%だけに焦点を当て、「自社の自動車を愛する人にだけ最高の製品を提供する」戦略へと大きな転換を図った。

では、どのように2%のファンからより多くの共感を得る自動車づくりを行ったのだろうか。マツダは09年、新型車開発を前に世界から5人の熱狂的なファンに意見を聞くという試みを行っている。

この取り組みだが、「5人」そして「熱狂的なファン」というのが非常に興味深い。通常、メーカーが製品開発のためにヒアリングを行う場合、数千人にも及ぶサンプルを対象とした定量的なアンケート調査、もしくは数十人をいくつかのグループに分け、定性的なインタビューを行ったりする。
マツダはこのどちらの手法も取らず、5人の熱狂的なファンに綿密なヒアリングを実施した。マツダが元来のような低価格化戦略を採択していれば、「最大公約数に認められる自動車」を目指し、大規模なアンケート調査などを行っていたかもしれない。
しかし、マツダが設定した顧客は「自動車ユーザーの2%」だ。その2%に存在する「熱狂的なファン」の忌憚ない意見、そしてマツダに対する愛情を新型車に反映することを目指した。この取り組みは功を奏して、現在もマツダの主力製品となっているデザインと機能に優れた「アテンザ」セダンが生まれた。

ピンチをチャンスに。強みを存分に活かしたブランドストーリーを構築

またマツダはこの頃、顧客向けのブランドメッセージとして、「Zoom-Zoom」を発表した。「Zoom-Zoom」には以下のような想いが込められている(マツダ公式ブログより引用)。

「実はこちら、英語で『ブーブー』を意味する子ども言葉なのです。皆さんは、街ゆくクルマを飽きることなく目で追いかけていた日のことを今でも覚えていますか? 子どもの頃、『ブーブー!』と声をあげ、風を切って走り回った、あの楽しさ。ビュンビュンと走っていく車を夢中で見ていた、あのわくわく感。それは誰もが経験した飽きることのない快感でした。(中略)Zoom-Zoom『子どもの時に感じた、動くことへの感動』は、動くことへの感動を愛し続ける全世界の方々と、走る歓びを分かち合うための合言葉。マツダはZoom-Zoom感、走る歓びにあふれたクルマをつくりつづけていきたいと願っています」。

顧客に長く愛される製品、また企業としても数ある会社の中から選ばれる存在であるためには、魅力的なブランドづくりこそ大切だ。マツダは「子どもの時に感じた、動くことへの感動」を体現するブランドメッセージを掲げることで、新たなる一歩を踏み出した。

これは反対にブランドづくり、すなわちブランディングを実践しない企業は淘汰されていってしまうということ。マツダで言えば、かつてブランドを軽視していた「多チャンネル化」時代がそうだったのかもしれない。熱狂的なファンの意見を取り入れ開発されたアテンザは、結果的に2008年までに世界中で132の賞を受賞。また初代アテンザの世界販売台数は132万台にも登ったが、これも2%にフォーカスをし、「マツダらしさ」を大切にしたブランドづくりに注力した結果だと言えるだろう。

マツダのブランドストーリーは私たちに、どんな状況からも、自社の価値を向上させ、成長を描くことができるということを教えてくれる。自分たちが本当に大切にしたいこと、大切にすべきことにフォーカスした先に、企業としての成長があるのだ。「自分たちのファンのための自動車をつくる」。マツダのブランディングから学び得たことを、自社の成長戦略にも活かしていきたい。

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