ポジショニングと「のれん」でブランドを知る

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ポジショニングと「のれん」でブランドを知る



 「大塚家具、中国系企業の実質支配下に」。先日、このようなニュースが飛び込んできた。大塚家具のお家騒動と言われる親子間の確執はここ数年メディアを賑わせている。現在では大塚家具創業者・大塚勝久氏の娘である大塚久美子氏が経営のトップとして舵取りを行っているが、経営再建がうまくいっていない。そのため、日中の投資家や米系投資ファンドから資本を受け入れる財務強化策を発表したようだ。
 具体的には第三者割当増資として新規に株式を発行し、資本を得るという。発行した株式は一般の人が買うものではなく、越境ECを手掛ける中国のハイラインズという企業が組成した投資ファンドが18億円、米系投資ファンドのイーストモア・グローバルが20億円分をそれぞれ購入する形だ。これによりハイラインズの持つ株式数は30%以上となり、大塚家具の筆頭株主となる。

 2009年、久美子氏は社長に、父の勝久氏は会長となった。しかしその5年後の2014年には久美子氏が解任され、父の勝久氏が社長と会長を兼任。そしてまた翌年に久美子氏が社長となり、勝久氏は会長を退任した。まるでジェットコースターのような人事だが、業績も同様に乱高下している。

 同社の業績は2001年の営業利益75,2億円をピークに低迷し、久美子氏が社長になった2009年には14,5億円の赤字に。そこから業績が回復するが、2017年には最終的に51,4億円の赤字となった。

 業績回復に伴い、久美子氏の手腕は一時期もてはやされた。勝久氏時代の大塚家具といえば高級家具ブランドの代名詞であり、顧客に寄り添い、徹底的にニーズを拾い、長く顧客と付き合いっていくという方針を取っていた。しかし久美子氏になってからその手法は一転。「入りやすく、見やすい、気楽に入れる店作り」を目指し、店舗をカジュアルな雰囲気に仕立て、積極的な接客を控える手法を取り入れた。この方法は台頭するイケアやニトリなどを意識してのものだと言われている。これにより、入店者数は一時期増加に転じたが、結局は大きな赤字を生んでしまった。

 マーケティングに詳しいものなら、「大塚家具の経営陣はブランドポジショニングを間違えた」と言うだろう。勝久氏は、イケアやニトリは大塚家具のライバルではないと言っているが、それは、そもそも戦う土俵が違うということだ。
 イケアやニトリは今求められているものをできるだけ安価に提供する方針である。そのため原価と販管費は抑えなければいけない。接客は販売員が都度対応をするだけだ。

 しかし大塚家具は、商品、接客ともに質にこだわってきた。親子二代で大塚家具を買うと言われたこともあるように、顧客リストを作り丁寧な接客を徹底。本当に必要な良いものを勧めるという手法で成長を実現してきたのだ。同じ家具屋と言っても明確な戦略の違いがあったのだが、久美子氏は現在業績を伸ばしているイケア、ニトリと同様の戦略を取ろうと画策した。

 確かにこの流れを見ると、ブランドポジショニング=自社のブランドの立ち位置を誤ったゆえに、業績が下がってしまったと言えそうだ。しかし果たして、大塚家具のブランド価値そのものは下がったのだろうか。

 会計用語に「のれん代」という言葉がある。これは主にM&Aなど企業買収の際に用いられる言葉だが、これは買収の際に支払った金額から純資産を引いた額をいう。例えば買収額が120億円で、純資産が100億円だった場合、のれん代は20億円となる。
 のれんの語源はそのまま、店先にかかる「暖簾」のこと。暖簾の布それ自体に物質的な価値はないが、顧客への知名度や品質などブランド価値を示す象徴だ。M&Aにおいて評価額を計算するときのみ発生する費目であるが、仮にその企業が持つ総合的なブランド力を資産価値として表した場合、のれん代が実態を表した数字だと言えるだろう。

 大塚家具は買収されたわけではない。しかし単に「ブランド力が落ちた」と考えるのではなく、「のれん代は下がってしまったのか」と視点を変えてみるのもブランド力を測る手法として有効ではないだろうか。

 そう考えた時、これはもはや筆者の想像であるが、大塚家具ののれん代そのものは下がっていないと思われる。

 まず言えるのは、大塚家具の商品の質そのものが下がったわけではないこと。業績が下がっても大塚家具の商品の質が劣化したという報道はないし、「商品の質が下がったから業績が落ちている」という認識を持っている消費者もいないだろう。
 また業績低迷は大塚家具の変化ではなく、一般的な消費者の趣向が変わっている側面が大きいことも挙げられる。確かに消費者の求めるものは変化しているが、ファンはたくさんいるのだから、そこを起点に「一部の人に選ばれるブランド」をより強化していく方法も選択できたはずだ。

 前述の中国のハイラインズはその点を見抜いていたのだろう。中国では生活水準が向上するとともに、質に対する需要が高まっている。そこで「メイドインジャパン」「高級ブランド家具」に勝機があると考えたのではないだろうか。これからの戦略はまだ発表されていないが、日本国内だけでは落ち目であるため、国外、つまり中国でも自社の販売網を 通じて積極的に販売をしていくと思われる。
 ハイラインズは第三者割当増資という形で大塚家具の経営権を取得したが、仮にM&Aだとしても、多額の「のれん代」を積み、大塚家具を手に入れたのではないだろうか。大塚家具はポジショニングやマーケティングを間違えたかもしれないが、ブランド価値は健在なのだ。

 今回、実態の見えにくいブランドを、株式や会計用語を交えて考えてみた。のれん代を正確に算出するには専門の知識が必要だが、このように考えてみると、マーケティングとブランド、そして経営戦略を切り分けて考えられるのではないだろうか。一度自社の「のれん代」やブランド価値に関して考えてみることで、今後の方針の輪郭がより鮮明になるかもしれない。


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