「特化する」ことの勇気

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「特化する」ことの勇気



カラフルタピオカ 世間では今、タピオカドリンクがブームだ。白いミルクティーの中に、黒い粒々の個体(主にデンプンであることが多い)が入ったドリンクを片手に持ち、飲みながら街をゆく。若い女性を中心に人気を集めており、SNSに写真がアップされることも非常に多い。
 タピオカブームの火付け役は台湾企業だと言われている。世界各国で店舗を展開する「春水堂(チュンスイタン)」が2013年に上陸。その後、3000店舗以上を展開する世界最大のチェーン店「CoCo都可(ココトカ)」、都内の繁華街を中心に展開する「THE ALLEY(ジ・アレイ)」などが相次いで日本展開を開始。じわじわと普及を重ね、SNSの拡散効果もあり、ついに今年、ブームが到来した。

 各ブランドとも繁華街にあり、競争も激しいのだが、列ができるほどの繁盛店にはある特徴がある。それは、「タピオカ以外を売らない」という点だ。
 各ブランドとも、店舗の形態は「カフェ」である。カフェならば、コーヒーやほかのソフトドリンクを扱っても良い気がするが、ほとんどの店がタピオカのみを扱っている(コーヒーなどを扱っている場合もあるが、それらは決してメインの商品ではなく、メニューの端に一種類のみ書かれているケースが多い)。
 その代わり、タピオカに関しては徹底的に力を入れている。内容量や見た目、またカップの材質やデザインへのこだわりは半端ではない。

「タピオカ専門店なんだから、そんなことは当たり前だろ」という意見もあるだろう。しかし、本当にそうだろうか。競合店が並ぶ繁華街で、タピオカひとつに経営資源を注ぐ。この一件当たり前なように見える「他のことをやらない」「ひとつの武器を徹底的に磨く」という戦略が、今の日本企業には足りないと思うのだ。

 平成を振り返ると、低成長、不況と言った言葉が並ぶ。そのような時代において、企業が経営に行き詰まると検討するのが「多角化」、もしくは、商品ラインナップの拡充だ。「商品・サービスの売れ行きが悪いから、違う商品を扱おう」という考えである。

 しかし、本当にそれでいいのだろうか。タピオカ専門店が、近隣に競合ができたらから「うちはコーヒーにも力を入れよう」と判断したらどうなるだろうか。顧客は、飲むならば専門店のコーヒーが飲みたいし、タピオカもタピオカ「だけ」に力を入れている店舗で買いたい。タピオカもコーヒーも、他店に比べて中途半端なものは欲しくないのだ。

春水堂「ブランドを強くする」ヒントはここにある。引き算をする。シンプルにする。そうすると、その商品は強くなる。まるで、ナイフの先を徹底的に尖らせるかのごとく、ひとつの武器を磨くことで、他の追随を許さないブランドを作ることができるのだ。

 ものがたくさんの売れる時代。例えば高度経済成長期には、商品のラインナップを多くしている方が顧客に喜ばれた。ものが足りないという背景もあり、「あれもこれも」という戦略がよしとされたのである。
 しかし時代は変わり、顧客は質を求めるようになった。多少高くとも、品質が良ければ欲しい。逆に、品質が悪ければ必要でも買わない。そのような時代に市場に受けるのは「シンプル」かつ「特化」しているブランドではないだろうか。

すみれ看板 日本でも特化することで成功している企業は多くある。そのうちのひとつが、旅館「時の宿 すみれ」だ。
 山形にあるこの旅館はかつて、月並みな温泉旅館であった。1980年に創業した本旅館は団体客もいれば家族連れもあり、バブルの時代は好調だったが、90年代に入ると次第に客足が遠のいていく。
 そこで2005年、事業承継をして代表となった黄木綾子氏はある決断をする。それは旅館を「おふたり様専用の旅館」に変えることだ。
 家族、親子、カップル、友達。関係性はなんでもいい。しかし、予約は2人でしかできない。部屋数は全10室のため1日の最大客数は20人のみ。子連れの家族やグループ客はいないため、旅館は静けさと落ち着きに包まれているという。
 すみれが提供しているもの。それは「大切な人とふたりきりで過ごす時間」だ。店のコンセプトが、極限までシンプルなのである。

 おふたり様専用にすると決めた当時、社内からは反発があったという。「なぜ客足が遠のいているのに、グループ客をやめるんだ」「顧客数が減り、かえって経営が苦しくなるのではないか」などの意見がでたというが、黄木氏は実行した。

 ブランドを特化することで得られるメリットのひとつに「コストが下がる」というのがある。すみれは、顧客を限定することにより、不用意なオペレーションを削ることができた。そのため、人材育成や、多様な顧客に合わせたサービスを提供しなくてもよくなり、浮いた資本を料理メニューの改善などに充てることができるようになった。
 そして、あえて「ふたり組」に特化したことで、結果的に客数は増加する。夫婦の記念日や、親子での息抜きなど、質高くゆっくりとした時間を過ごしたいというニーズをうまく捉えたのだ。

 これはまさに「尖らせる」ことの好例だろう。もし本宿が、客足が遠のいたからと言って、何か他のものを「付け加える」ことをしていたら、どうなっていただろうか。魅力は薄まり、他の旅館と違いを生み出せない、中途半端なものになっていたのではないだろうか。

 ブランドを絞る。場合によってはこれまでの成功体験を捨て、本当に必要なものだけにフォーカスをしなければならない。しかし、現代では「質はそこそこで、総合的に商品を網羅しているブランド」よりも、「何かひとつに強みを持った、極上のブランド」の方が、市場に受け入れられる可能性ははるかに高い。

 日本企業は「あれもこれも」と手を出しがちである。しかし、それはもう時代遅れなのかもしれない。特に中小企業の場合は、経営資源を集中させることによって、生き抜くことができる。
タピオカの列を見ながら、「特化すること」の価値を考えていた次第である。
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